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神器の巫女  作者: あぼのん
第四章 道に外れし世迷人
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第21話 姫巫女様だろうが警察官だろうが普通の女子高生だろうが関係ないわっ!

前回間であらすじ


不和の立て籠もるショッピングモールへ着いた健登達。

紅葉が刑事達へ2時間手出しはしないように、屋内へ入れば不和の瘴気により命を落とす危険性があると説明を行う。刑事達はまるで仇でも見る様な目でショッピングモール内へと入って行く健登達をみつめるのであった。

屋内に入ると健登、紅葉を先頭に、佐ノ介の九字護身法全切りの奥義を使えるまで5分間足止めをしろと作戦を立てるのだが、不和を見つけいざ戦闘が始まろうとしたその時、天窓を突き破ってフェイスレスが乱入してきたのであった。

 完全に虚を突かれた。予想もしなかったタイミングでフェイスレスが乱入してきた為に健登と紅葉は反応が遅れる。

 女の子が狙われているのに不和は動こうとはしない。

 なぜなのか? 不和の興味は既にフェイスレスから女の子に移っていたはずなのだが、ここで顔を奪われ命を落としてしまっても良いと言うのか?


 しかし、突進してくるフェイスレスに向かって女の子は手にしていた刀を向けて応戦しようと構える。その時、不和が声を上げた。


「それでいいっ!殺せっ!おまえを殺そうとする相手を殺して見せろっ!!」


 女の子が刀を振り被った刹那、フェイスレスに落雷、激しい電流が体中を駆け巡りよろめく、女の子はそのままフェイスレスの右足太ももを斬り付けた。


「いでぇぇええええっ!!」


 叫び声を上げるフェイスレス、まさかこんな幼い女の子が反撃してくるとは思ってもみなかった。いやそうではない、その前の電撃がかなり効いている。フェイスレスは振り返り、その一撃を放った相手を顔のない眼で睨み付けた。


「巫女ぉぉぉぉぉおおおおっ!」


 弥命は再び呪符を取り出そうとするのだが、フェイスレスが飛び掛かる。

 フェイスレスは攻撃された痛みと怒りで我を失いかけていた。女の子の顔を奪うと言う当初の目的よりも、大きな苦痛を与えた相手を排除しようと反射的に動いている。刃へと変形した左手を弥命へと振り下ろそうとしたその時、右手側から脇腹に強い衝撃を受けた。

 紅葉の放った拳がフェイスレスの胴にめり込むと、真横へと殴り飛ばした。

 地面を転がりながらも体勢を立て直し飛び上がる様に身を起こすと、フェイスレはまたも邪魔が入ったことに苛立ち苦しそうに奇声を上げる。


「きぃぃっぃいいいいいアアアアアアアアアアっ!!」


 耳を(つんざ)く声に顔を顰めながら紅葉が叫ぶ。


「この化け物はわたくしが迎え撃ちますっ!!姫様は健登さんの援護をっ!!」

「お願いします紅葉さんっ!!」


 言うと弥命は剣を片手に駆け出した。それを見て佐ノ介も慌てて走り出す。


「ばっ!? 馬鹿野郎っ!弥命ちゃんは前に出るんじゃねえっ、白様に怒られるだろうがっ!!」


 もう無茶苦茶である。


 さっき立てた作戦など全員がまるで無視、どうせ作戦通りになんていかないと自分で言っておきながら佐ノ介は、少しは作戦通りに戦いやがれ馬鹿野郎共、と涙目になりながら思うのであった。




 源治はパトカーから降りると同僚たちの元へと駆け寄っていく。

 なぜ何もせずにこんな所で群れ固まっているのかと妙に思うのだがすぐに察する。


 やっぱり待機命令が出たか……


 源治の姿に気が付くと先程の責任者が声を掛けた。


「おう源治、遅かったじゃねえか」

「陣内さん、状況は?」

「あー、マル特案件だから二時間待機だとよ……って、おめえどうしたその足?」

「ちょいと転んだんでさぁ」


 転んでできるような傷には到底見えないが陣内はそれ以上は深く突っ込まない。

 源治がパトカーのボンネットの上に広げられた施設建物の見取り図に目を落とすと、陣内は深く溜息を吐き小声で話しかけてきた。


「どう思うゲン?いつもならマスコミすらも近寄らせずに一切手出しはさせないのに、今回は二時間って言う期限(リミット)付きだ、なんだか逆に気味が悪いぜ」

「へぇ……相手も一枚岩じゃないってことじゃねえですかね?」


 随分と他人事な言い方に陣内は勘繰る、この三嶋源治と言う男が事件を前に犯罪者を前にこうも闘争心を前に出さず、まるでそれを他人に託すような態度で落ち着き払っているのがどうにも座りが悪かった。


「なにか知っているのかゲン?」


 その質問に源治は一瞬ピクリと反応するのだが、陣内に気づかれまいと平静を装う。

やはり紅葉の言葉が気にかかった。神社はどんな手でも使うと言ったあの言葉、場合によっては自分の仲間や家族が危険な目に合うかもしれないと考えると、知っていることをこの陣内に黙っているべきか、それとも話すべきなのか迷ってしまう。


 陣内は信頼の置ける上司であり、先輩であり、友人でもある。

 何十年もの間、供に事件を追って来た仲間である。犯人を挙げた時にはそれはもう喜び、被害者、或いはその遺族や親族に胸を張って報告ができた。

 その逆もあった。いまだに検挙できない犯人、未解決の事件も山ほどある。今では凶悪事件に関しては時効がなくなったものの、自分達の担当した事件が時効を迎えた物もあった。

 高校生の娘を殺された被害者遺族の前で土下座して謝った。ホシを挙げられなかった。ご家族の、そして被害者の無念を晴らしてあげることのできなかった。そんな不甲斐ない自分達を責めてくれと謝った。しかし被害者の親族に「長い間ご苦労様でした。刑事さん、本当にありがとうございました。」と頭を下げて言われた時には、二人涙したこともあった。

 苦楽を共にしてきた仲間になにも話せない、源治はこんなに心苦しいことはないと拳を握り込んで悔しさを滲ませるのだが、自分と陣内の後方、肩の間から「カシャ、カシャ」とシャッター音が聞こえる。

 何事かと同時に振り返ると、芳乃がスマホを片手にボンネットの上の見取り図を写真に撮っていた。


「なっ!? お嬢さん、車からは降りるなって言っただろう、何やってんだっ!」


 慌てる源治を尻目に、芳乃はなにやら今撮った写真を誰かに送りつけているようであった。


「お……お嬢さん一体なにを……」

「言ったでしょ、助っ人を呼んだって、その人が目標を制圧するのにそういう現場の詳細な情報が欲しいって言ってるのよ」


 制圧って、一体どんな助っ人を呼んだのであろうか? この状況でも怯まず臆さない、尚且つ立ち向かおうとしている、こんな年端もいかない少女がまるで数々の修羅場を潜り抜けてきたかのような対応をするので益々驚いてしまう源治であった。

 それを見ていた陣内が呆気に取られたような表情でポカーンとしながら聞く。


「おい源治、この子は一体……」


 あの源治がこんな十代の女の子を連れて現場にやってくるなんてどういうことだ? 信じられないという表情である。

 もしかしたら人質になっていると言う子供のお姉さんなのか? まさか母親ってことはあるまい。とも考えるのだが、源治はなんだかバツの悪そうな表情をしている。


「とにかく今はまずい、お嬢さん、やっぱり現場に入れるわけにはいかねえ、ここは俺達大人に任せておとなしく……」

「うっさいわねっ!!」


 源治は優しく諭そうとするのであるが芳乃はそれに反発した。

 その声に周りにいた刑事達も手を止め足を止め芳乃を見やる。


「なにもするな……おとなしくしてろ……足手まといだから……もううんざりなのよっ!知っているわよそんなことっ!当たり前じゃない、わたしは普通の女子高生なのよっ!弥命や悠紗やクローディアみたいに超能力みたいな力も使えないし、健登みたいに力をくれる武器だって扱えないわっ!!」


 芳乃は涙目で捲し立てる。なにを言っているのかよくわからないが、その気迫に押されて源治どころか陣内までもがたじろぎなにも言えない。


「あの子は……母親に虐待されているの」


 その言葉に皆が息を呑む。それが人質になっている女の子のことであると気が付くまでに数秒かかった。


「お嬢さんそれって……」

「わたし見たのよ……あの子の体中の傷を痣を……ねえおじさん? こんなことってある? 周りの大人達に、実の親に暴力を振るわれる日々を送って、あの子は笑顔どころか感情までなくしているようだったわ……そんな子が……そんな子が今度はあんな殺人鬼の人質にされてっ!あんな化け物に狙われてっ!!こんな酷い話があるっ!? あの子がかわいそうよ……かわいそうすぎるわよ……」


 芳乃は両手で顔を覆い泣き出してしまった。

 そんな事情があるなんて思いもよらなかった。なんということなのか、あの女の子をあの殺人鬼から救い出しても心までは救い出せないかもしれない。あの子はきっと絶望しているはずだ。この世の全てに、この世の大人達すべてに、源治はかける言葉が見つからなかった。


「わたしはあの子を助けるわ……助けたいのよっ!姫巫女様だろうが警察官だろうが普通の女子高生だろうが関係ないわっ!力がなくたって、わたしはあの子を助けたいのっ!おじさん達ならその気持ちわかるでしょっ!?」


 その場にいた全員。若手、中堅、ベテラン含めて全ての刑事が言葉を失う。

 この少女の言う通りだ。犯罪に遭い苦しんでいる人を救いたい、守りたいと言う気持ちに立場や職業なんて関係ない。

 彼女は警察がやるべきこと、正義の体現を、その心意気を語っているのだ。何と言うすばらしい女子高生なのだ。この子はきっと将来有望な警察官になるに違いない。皆がなにやら「うんうん」としみじみ頷いていると。


「隙ありっ!」


 そう言って芳乃は刑事達の間をすり抜けショッピングモール内へと駆け出した。

 刑事達は呆気に取られその後ろ姿を見ていたのだが我に返ると。


「「「あっ……あんのくそがきゃああああああああああああっ!!」」」


 全員が叫び慌てて後を追うのであった。


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