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神器の巫女  作者: あぼのん
第四章 道に外れし世迷人
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第19話 マル特だかなんだか知りませんけど、現場にいる俺達を無視してそんな話ありえませんよっ!!

前回までのあらすじ


芳乃に健登達を追うことを協力しろと言われ渋々承諾する源治。パトカーに乗り込もうとしたその時に携帯が鳴った。

それは若手刑事の山口であったのだが、源治の指示通り捜索願を調べていたところラブホテルの監視カメラに映っていた女の捜索願が出されていたと報告してきたのだ。

今さらな情報であったがそれを労い礼を言う源治は山口にこの事件から離れないかと提案する。

若手の山口と家族の身を案じての一言であったが、若手であることを理由にそう言われたのかと山口は激怒した。過去に山口に言った自分の言葉を返されて考えを改める源治、そこへ不和の凶行の一報が警視庁本部より入電するのであった。

 現場にいち早く到着したのはパトロール中の警ら隊員であった。通報のあった現場に着くなりその凄惨な状況に戦慄する。

 腕や足を切断された人達がパッと見だけでも両手の指の数ほど倒れている、その傷口から流れ出る血で辺りは血の海と化していた。すぐに無線で状況を報せて救急車と輸血が相当数必要なことを告げる。

 一般市民の協力で重傷の人達の応急処置を行いたいのだが、人がバタバタと倒れている。こんな凶悪犯のいる現場でオチオチとしていたらさらに被害が広がる可能性もある。

 警備会社の職員と協力して一般客達を避難させている間に次々とパトカーが到着、すぐに周辺は封鎖された。

 その間にもこれは緊急を要する凶悪犯罪であると指令本部も判断、周辺に被害が拡大しない様に緊急配備が発令される。

 都内の幹線道路には包囲網が敷かれ、上空からも犯人を追跡できるようにとヘリも待機、ここにきてようやく源治の危惧した状況を理解し動き出した警視庁本部であった。

 さらに機動捜査隊、覆面パトカーに乗った刑事達が到着すると、捜査一課、源治の所属する強行犯係の刑事達の到着を待つこととなった。


 瞬く間にショッピングモールの周辺は物々しい雰囲気となった。

 道路は封鎖され一般車両の通行は規制される、警官達が道を塞ぎ誘導するのだがそこに押し寄せるマスコミ達の群れ、こいつらを制止するだけでも警官達は一苦労である。

 ショッピングモールの駐車場には何十台もの救急車が並び、重傷者をひっきりなしに運び出している。緊急を要さない軽症者はその場で応急処置を受けるしかないのだが、さながら野戦病院の様相を呈していた。季節が夏なのは幸いであった。これが冬空の下、それもこんな夜間であったらこうもいかなかったであろう。


 比較的軽症、或いは怪我を負っていない一般客に聞き込みを開始する刑事達であるが、皆一様に危惧したのが人質の存在であった。

 女の子が一人、犯人に抱えられて連れ去られたと言う、これは犯人検挙の前に人質救出も行わなくてはならない事件である。

 警視庁のみならず各県警にはそういった事態に対応する特殊事件捜査係という部署が存在する。

SATなどを想像する人達もいるだろうがあれとはまた別、まあ大まかに言ってしまえばやることは一緒なのであるが、SATは警備部所属のチームでありどちらかと言うと公安業務、国家などに対する非常に重大かつ危機的な事案に対処するチームなのだ。

 そして各県警に配備されているチームは刑事部所属、警視庁ではSIT、千葉県警ではART、神奈川県警ではSIS等、各々名称が違ったりするのだがまあやることは一緒である。


 その特殊部隊の出動要請も視野に入れなくてはならない事態となった。

 それにしてもこれだけ広い敷地に建てられた施設内での捜索となると、かなり難儀しそうであるのだが、突入するか話し合っているところに一つの指令が下されることとなった。


 今から二時間なにもするな。


 マル特案件である可能性が高い為それを見極める為に二時間、現場の警察官及び刑事達にはなにもするなと言うお達しがきたのである。

 当然現場は困惑する、多くのベテラン刑事達は苛立ちを見せながらも仕方がないと言う雰囲気を出すものが大半であったが、若い刑事達の中には上層部の指令に反発する者もいた。


「いったいどういうことですかっ!!マル特だかなんだか知りませんけど、現場にいる俺達(デカ)を無視してそんな話ありえませんよっ!!」


 一人の若い刑事ががなり立て、そうだそうだと同年代の者達が同調する。

 それをベテラン刑事の一人が宥める。


「俺達も気持ちは一緒だ。だがそういう命令だ、それを無視して現場の判断で勝手に動いてみろ、そんでもってなにかあったら責任取れんのか? 組織ってのはそういう風にできてんだよ。警官ってのは個人事業主じゃねえんだ、てめえの勝手な判断で動くんじゃねえ」


 言うことは尤もであるがやはり納得できない、これだけ多くの一般市民たちが犠牲になっているのだ。

 その凶行に及んだ凶悪犯が中に居ると言うのに、なんだかよくわからない組織に任せて指を咥えて見ていろなんて我慢ならない。

 そんな様子を見て更にベテラン刑事が付け加える。


「それでも大分マシな方になったもんだ、昔は事件が収束するまで何も聞くな何も手出しをするな、黙って周辺の警備をしてろってきたもんだ。上の連中も俺らの思いを汲んでくれているんだよ。二時間、なにもできないわけじゃねえ。その間にありとあらゆる情報を集めて、人質救助、犯人検挙できるように最善(ベスト)を尽くそうぜ」


 その言葉に一丸となる、日本の警察官達を舐めるなよ。

 警察官が守っているのはなにも法律だけではない。

 正義を守り執行する、それが警察官と言うものだ。市民生活を守る為に日夜働いている警察官の皆さんには頭の下がる思いである。


 刑事達が気を引き締める中、一台の一般車両がゆっくりと近づいてくる。

 車が止まると運転席から一人のメイドが降り、刑事達に近づいてくるとしっとりとした口調で言った。


「ここからは私達が対応致します。責任者の方はおられますでしょうか?」


 紅葉がそう言うと、年配の男性刑事が一歩前にでる。


「私ですが」

「今から二時間一切の手出しはしないでください、ここからは一歩たりとも中には入らない様にお願い致します。」

「上からもそういう命令がきているよ、まあ血気盛んな若いもんが多いからな、約束はできねえかもしれねえ」


 すこし嫌味な感じで言うのだが、紅葉は冷たい口調で返す。


「そうですか……ただし忠告しておきます。中に入るだけで命を落とす可能性があると言うことだけは覚えておいてください。」

「脅しかい?」

「いいえ、事実です。これから私達が相手にする者の特性です。なんの装備も耐性もない人達が触れるだけで死に至る可能性があります。」


 このメイドはなにを言っているのか? 相手はなにか毒の様なものでも持っているのだろうか?

 刑事は20年前のあの惨劇、惨状、地下鉄サリン事件のことを思い出し戦慄する。この場所でまたあの地獄が、悲劇が繰り返される可能性があるのか?


「どういうことだ?」

「私達が扱う世界とはそういう世界だと言うことです。それでは」


 深々とお辞儀をすると紅葉は踵を返し車へと戻って行った。

 その姿を刑事達は苦々しい思いで見つめ、走り去っていく車をいつまでも睨み続けるのであった。


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