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神器の巫女  作者: あぼのん
第四章 道に外れし世迷人
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第18話 おじさんそれセクハラ

前回までのあらすじ


ショッピングモール内で凶刃を振るう不和は人斬り外道の名の通り、多くの一般客そして警備員を斬り捨てて行った。

店内を進みフードコートまで進むと不和は女の子を離し、そこへ逃げ遅れていた女性店員を見つけると目の前で犯し殺した。

しかしこの凶行を目の前に女の子は昂揚していると不和は言う。自分の腕を刀で切らせ、肉を切ること命を斬る感覚を感じろと女の子に言い放つ。

そして、おまえが殺されたのは自分を殺そうとする者を殺してもいいと教わらなかったからだと、殺してしまえと教え、その上で女の子の命を再び自分に斬り落とさせろと言うのであった。

 協力しろと言われたものの源治はあまり乗り気ではなかった。

 この女子高生はどうやら自分よりもこういった事情に詳しいのだろうと言うことはわかったが、さっきの奴らの後を追うと言うのはあまりにも危険すぎる。一般市民を殺人鬼の、いや……人を殺す怪物の居る所に連れて行って良いものかと考えてしまう。


「大丈夫よおじさん、助っ人を呼んだから」

「助っ人ぉ? さっきの奴らみたいな変な術を使うような奴かい?」

「そうよ、それもとびっきり強くてかわいいからびっくりするわよ」


 一体こいつらは何者なんだ? 最近の学生と言うのは皆こうなのだろうか? 自分の息子もこんなんなのだろうかと心配になってしまう源治であった。

 芳乃の協力要請を渋々承諾し、殉職した警官達の乗って来たパトカーを取りに行こうとしたところで携帯が鳴った。


『ゲンさん今どこでなにしてるんですかっ?』

「またおまえか、おまえは俺の居所を逐一確認しないと死んじまう病気にでも罹ってるのかよぉ」


 若手刑事の山口であった。


『んなわけないでしょぉ、言われてた捜索願を調べてたんですよぉ、そんで例の監視カメラに映ってた女、ビンゴですよゲンさんの勘』


 なんだか嬉しそうな調子で告げる山口。


『2週間程前にご家族から捜索願いが出ていました。勤め先から帰宅途中に失踪した女性、特徴と言うかもう顔がバッチリ本人ですよ』


 なるほど、こいつは律儀に自分の出した指示を守って今の今までそれを調べていたと言うのか、なんだか頭が下がる思いの源治であった。

 数時間前までの源治であればこの情報は自分の勘を裏付ける有力な手掛かりになると喜んだであろうが、真犯人のわかった今では、おそらく顔を奪われたのであろう港にあがった身元不明の女性の遺体、それが誰なのか判明したと言うだけの結果である。ご両親にこの顔のない遺体が娘さんです。と説明するのはなんとも複雑な思いである。そしてそれと同時にある心配ごとが頭に浮かぶ。


「そうか、ありがとうな」

『ど、どうしたんですか? ゲンさんがお礼を言うなんて珍しいですね?』

「うるせぇ……ところで、おめえのとこの子供(ガキ)は今いくつだったか?」

『なんですか急に、上が5歳で下が3歳ですけど』

「そうかぁ……」


 源治は悩む、これを言うべきか、言っていいものかと悩んでしまう、若いとは言ってもこいつも立派な警察官なのだ。犯罪を許さない、市民を守りたいと言う気持ちは決してベテランの者達に劣るわけではないと言うことは重々わかってはいる。

 しかし源治は地面に寝かせられ、顔の上に布を掛けられている警官達の遺体を見つめると言わずにはいられなかった。


「おめえ……一旦このヤマからは離れねえか?」

『は? なんですか?』

「そのよぉ、今回のヤマぁこいつは異常だぁ、下手したら俺らも被害者になる可能性もある、だからよぉ……」

『……』


 山口は黙りこんで聞いていた。源治は正直申し訳ないと言う気持ちでいっぱいであった。刑事に事件から離れろなんてのは解雇宣告と一緒だ。同業者である源治がそんな気持ちがわからないわけがない。


『言っている意味がわかりませんね』

「すまねえ……だけどよおまえにも家族が」

『馬鹿にしないでくださいよっ!俺だって警察官です。そのくらいの覚悟はできています。妻もそのことに納得はしていませんが理解はしてくれています。新米だろうがベテランだろうが、バッジを受け取ったその日から立つ場所はずっと一緒だと思っていましたっ!』

「おめえ……」

『どうしたんすかゲンさん? ヤマから手を引けなんてらしくないっすよ、いつも言ってるじゃないですか、善良な一般市民が犠牲になってもなにもできないで泣き寝入りしなくちゃいけねえようなことはあっちゃならねえって、その為に俺達警察官が踏ん張らねえといけねえって、そうでしょ?』


 源治はなにも言い返せなかった。いつまでもひよっこだと思っていたのが、いつのまにかいっちょまえの刑事(デカ)になってやがった。


 ばっかやろうが……


『え? なんですか?』

「なんでもねえよ、おめえに説教されるようじゃ俺も耄碌したもんだ」

『なに言ってんですか、まだまだゲンさんには現場を走り回って貰わないと』

「老人を扱き使うんじゃねえよ」


 そんな憎まれ口を叩いているとパトカーの無線が鳴る。


 ― ピー シキュウシキュウ 警視庁本部より各局、現在〇○区ショッピングモール店内で刃物を振り回している男が居ると言う110番通報、管内PM・PCは至急現場に急行されたい、尚怪我人多数と言う情報あり、対応に当たるPMは十分注意されたい ―


『ゲンさん今緊急入電で』

「あぁ……わかってるよぉ」

『え? 無線取れる場所に居るんですか? 一体なんなんですかぁ、ここ最近凶悪事件が多発しすぎですよ』


 電話の向こうでボヤく山口に「もうすぐ終わるよ」と告げると、源治は電話を切り芳乃を見据える。


「お嬢さん聞いての通りだ、恐らくこれはあいつだぁ、これからその現場に行く」

「うん、おじさん」


 源治は芳乃に人差し指を立てて言う。


「ただ一つ、一つだけ約束しろ、現場には行くが俺が危険だと判断したら中には入れねえ、お嬢さんの命を守ることも俺達警察官の仕事だからなぁ」

「……わかったわ、おじさん」


 素直に頷く芳乃であったが、そんなのは端から聞くつもりはない。現場に着けばこっちのもんなのだ。

 源治はパトカーに乗り込むとサイレンのボタンを探す。パトカーに乗るのなんて久しぶりであった。正確には自分が運転をするのはであるが、思い返せばもう何十年も足が棒になるくらい歩き詰めの捜査人生であった。それは本当に気の遠くなるほどの……


「後ろに乗んな、シートベルトをしっかり締めろよ……それにしてもまったく、胆の据わったお嬢さんだ。金玉付いてたらいいデカになってたぜぇ」

「おじさんそれセクハラ」


 そうなの?と頭をボリボリ掻きながらアクセルを踏み込む、斬られた足の痛みは問題ない。不謹慎ではあるが鳴り響くサイレンに気持ちが昂揚しているのか、アドレナリンで痛みを感じていないのかもしれない。

 本部からの一報で事件現場に急行する、まだ派出所(ハッショ)に配属されたばかりのペーペーの頃には、不安な気持ちでドキドキしながら駆けつけたものだ。

 源治は初心に帰る様な懐かしい気持ちを感じるのであった。





「だぁかぁらぁあああ!そんなこと言ってる場合じゃないでしょうがあ!! え? 白様? いちいちそんなん許可取ってたら間に合わないでしょっ!!」


 大声で電話口の向こうの人物となにやら言い会っている佐ノ介の声が車中に響く。

 内容はよくわからないが、一刻も早く神社からも担当者を派遣して対応しろと要請したところ向こうが渋っている様子なのだ。


「わかりましたよっ!どうなっても知りませんからねっ!!」


 そう言うと佐ノ介は携帯をダッシュボードに叩きつけた。


「佐ノ介くんっ!物にあたらないのっ!!」


 それを窘める紅葉、佐ノ介の方が年上であるはずなのにまるで姉に叱られる弟の様である。

 ムスっとしながら口をへの字に曲げて不満げに佐ノ介はブーブーと文句を言う。


「取りつく島もねえってのはこの事だぜ、あんにゃろうども……まだそんな大きく動くほどの事態じゃねえだの、白様にお伺いを立てないとわからないだの、ウダウダ言いやがって」

「神社はどういうつもりなのでしょうか?」


 弥命も不服そうな顔をして問いかけた。


「まだ警察で対応できると思ってやがるんだよ、被害者はでるかもしれないけれど警察の装備と人数で押し切れば不和の野郎を殺せると思ってるんだろ、それまでにどれだけの死体の山が積まれると思ってやがるんだ」

「いくらなんでもあまりにも楽観すぎませんか? なにか政治的な絡みでもあるのでしょうか?」

「あーたぶんほら、最近警察庁の長官が変わっただろ? あれ絡みだよ、白様のことをだいぶ敵視しているみたいだし、神社のボケ老人共も腹に一物抱えてるからなぁ」


 そう言えばその所為で難儀していると鷺宮が言っていたような気がする。

 こんな時にそんな下らないことで、本来であればこの街の神社が対応しなければならないことであるのに動けないなんて、これでは一体何の為に存在している組織なのかわからない。

 弥命が眉を顰め嘆息すると健登が力強く言う。


「だから俺がいるんだ、なんのしがらみにも縛られてねえ俺がやってやる」

「守羽くん……」


 弥命が潤んだ目で健登を見つめると、佐ノ介はなんだかつまらなそうな顔をする。


 くっそがぁ、なんで真顔でそんなこっ恥ずかしい台詞が言えるんだよこいつ? なんだ? こういう男子の方がモテるの? ちっきしょおおおおお!


「まあでもやるしかねえ。今から2時間だけ警察には手出しはさせない、というか手出しはしたくないんだろうけど、らしいからその間に俺らでなんとかしろだとさ」


 端からそのつもりだ。健登はあの女の子の目を忘れられなかった。あんな恐ろしい男に捕まっているのに一切の恐怖も見せない、そして助けを求める様なこともしない、そんな目をしていた。

 あれはすべてを捨てた。なにもない、自分の命でさえも必要ないと思っている者の目ではないのか? そう感じたのだ。

 あんな小さな女の子がそんな思考に至るまでに一体どの様な辛い日々を送ってきたのか、心を閉ざし殺し、生きることを諦めるようになるまでにどれだけのことがあったのか、想像するに堪えない。

 痣だらけの腕、体、傷だらけの心、人の悪意の全てをあの小さな身体に刻み付けてきたのだ。


 あの女の子の目は死んでいた。生きながらに死ぬことを自ら選んだのだ。


 そうさせたのは周りの大人である。近くにいたのにそれに気づけなかった人達である。この社会が、世界があの子をこれまでずっと見殺しにしていたのだ。


 だからもう見殺しにはしない、絶対に助け出す。そう誓うのであった。


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