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神器の巫女  作者: あぼのん
第四章 道に外れし世迷人
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第16話 マジで本気になれば倒せる、絶対に外道殺すマンに俺はなる

前回までのあらすじ


人斬り外道不和十郎太の剣技の前に苦戦する佐ノ介、そこへ駆けつけた弥命と神器を抜くことにより息を吹き返した健登が対峙する。

しかし不和は目的のフェイスレスを斬る為にその場を離れるのであった。

佐ノ介の浄化の治療により瘴気を取り除きようやく落ち着く健登は不和をすぐに追おうと言うのだが、そんな危険なことはもうやめてと芳乃に涙ながらに懇願される。

さらに佐ノ介から詳しい説明を受けた源治は、事態を把握していた神社がもっと早くに対応していれば、こんなに被害者が出る前になんとか食い止めることができたのではないかと、佐ノ介や紅葉に喰ってかかるのであった。

「弥命も、どうしても行くの?」


 なおも食い下がる芳乃は、弥命にも同じように問いかける。

 その問いに無言のまま頷く弥命、それを見て芳乃はしょうがないと言うような表情をして俯くと大声で言った。


「だったらわたしも行くわっ!あんた達ばかりがいつも危険な目にあって、クローディアの時もそうだったじゃないっ!わたしにも手伝わせてよっ!」


 突然の芳乃の言葉に弥命と健登は目を真ん丸にして驚く、その横で「ヒュー」と口を鳴らす佐ノ介、リアクションが古い。


 いきなりなにを言いだすんだこの馬鹿は、と健登が思っていると弥命が芳乃に向かって言い放つ。


「それは出来ません芳乃さん」

「なんでよっ!」

「はっきり言って、足手まといだからです。」


 問答無用である、弥命の冷酷とも取れるこの発言、当然芳乃の身を心配して出た言葉ではあるが事実でもある。


「これから戦う敵は正々堂々と真っ向勝負をしてくれるような相手ではありません、自分で自分の身を守れないような芳乃さんの様な方がいればいい標的になります。あなたを守りながら戦うのは非常にリスクが高いのです。」

「そんなの……そんなの健登だって一緒でしょ……」

「守羽くんには神器があります。」


 そんなのは関係ない、健登は違うじゃないか、健登はそんなんじゃない、普通の男の子なのに、わたしと変わらない……普通の……


 芳乃が何も言い返せずにいると紅葉の運転する車が横に付く、佐ノ介が助手席に乗り弥命と健登は後部座席へ。


「健登っ!」


 芳乃が呼ぶと、健登は申し訳なさそうな顔をして笑った。


「いつも心配かけてごめんな、必ずあの子を連れて戻って来るから、だから、待っててくれよ」


 「行ってくる」と言い残しドアを閉めると、芳乃と源治をその場に残し車は走り出すのであった。

 その行く先をじっと見つめている芳乃、後ろで源治が「ちっきしょうがぁ」と呟いているのが聞こえた。


「あああああああああっ!もうっ!あったまきたわっ!!」


 急に怒鳴り声を上げると芳乃はスマホを手に取り履歴を開き画面を押す。

どいつもこいつも自分を邪魔者扱いしやがって、あの時もそして今回も、助けてやったのは誰だと思っているんだ、芳乃は自分が無力な事などわかっている、普通の女子高生なのだから当然である。

戦えるとか戦えないとかそういう話をしているのではない、誰かの為に命を懸けられるか、懸けられないかの話をしているのだ。


芳乃はコール音が鳴っている間に源治を見据えると言った。


「おじさんっ!おじさんもこのまま黙って見過ごせないでしょ?だったらわたしに協力して」

「きょ、協力って、どうしようってんだいお嬢さん?」


 突然の芳乃の申し出に源治は眉を顰めながら困惑の表情を見せる。

 芳乃は不敵な笑みを浮かべると電話の相手が出たようだ。


「もしもし……」




 佐ノ介の指示で街の中心部へと向かうように言われてハンドルを切る紅葉、後部座席では健登と弥命は黙ったままだ。

 弥命は俯いてなにやら難しい顔をしていたのだが、健登の方は見ずに手をきゅっと握ってくると小さな声で言う。


「わたしだって……心配したんですからね……」


 弥命の手をきゅっと握り返し健登は「ごめん」と返した。

 なんだかさっきから謝ってばかりである。


「あーうぇーうおっほんっ!!いちゃいちゃしてる所悪いんですけどーっ!」


 佐ノ介が苦々しい声で言うと、二人は顔を赤くしてパッと手を離す。ちきしょう、このリア充共め。


「守羽…健登君?だっけ?めどくせえから健登って呼ぶぞ」

「あ、はい、いいですよ」

「めんどくせえからタメ語で話せ」


 あんたの方がめんどくせえよと思う。


「さて、こっから先の段取りを説明するからよく聞けよ」


 佐ノ介はそう言うと腕組みをして話し始めた。

 まずはフェイスレスの居る場所を特定すると言うのだが、これに関しては奴の現れそうな場所に予めセンサーとなる術を仕掛けて置いたらしい、それに引っ掛かれば即座に居場所がわかると言うのだ。

 それにしても弥命と言い佐ノ介と言い、相変わらずよくわからない原理の術だなと健登は思う。

 そしてそれを感知した場所をマッピングしていき、ポイントを絞り出して行くと言うのだ。

 これまでのフェイスレスの行動パターンから、この街の中心から半径10㎞圏内と言う非常に狭い範囲で行動しているらしいので、すぐに見つかるだろうと佐ノ介は予想している。

 フェイスレスを見つけることさえできれば、奴が水先案内人となり不和の元へと導いてくれるはずだと、しかしながらそこまでは上手く行ったとしてその先が問題である。

 健登はその問題点、疑問をぶつける。


「見つけてその後はどうすんだよ? あいつ無茶苦茶強かったぜ」

「いい若いもんがなーにを弱気な、当たって砕けろっ!どんな敵を前にしても臆したらそこで負けだよちみぃ」


 右手の人差し指を立ててチッチッチと横に振りながら言う佐ノ介、いちいちリアクションが昭和である。


「そうは言ったって、兄ちゃんだって大苦戦してたじゃん」


 健登の言葉に紅葉がクスっと笑う、佐ノ介はその横でぐぬぬ……と唸る。

 だいたいこいつは腹刺されて瀕死だったくせに、なんでさっきの戦闘の内容を覚えてやがるんだ、口をへの字に曲げながらも言い返す。


「ば…ばっかやろう、超必殺技を使おうと思ったら弥命ちゃんが割って入って来たんだよ」

「おじさん、奴を逃がしたのはわたしの所為だって言いたいんですか?」


 弥命に突っ込まれてまたも、ぐぬぬ……となる佐ノ介、「おじさん」はやめて。


「と、とにかくだ、あれは俺の本気じゃねえ、マジで本気になれば倒せる、絶対に外道殺すマンに俺はなる」


 まったくもって説得力のない、だいたい外道殺すマンってなんだ?この人はきっと馬鹿なんだろう、なんだか弥命と紅葉からの扱いも酷いし可哀相な人なんだろうなと健登は思った。

 まあそろそろおふざけもここまでにして、弥命が真面目な口調で質問する。


「なにをするんですか?」

「……九字を全部切る」


 佐ノ介のその言葉に弥命は一瞬驚いた表情を見せると、神妙な面持ちで答える。


「……本気ですか?」

「本気も本気、ど本気よっ!」



 九字護身法(くじごしんぼう)


 所謂あれ、臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前と言えばわりやすいだろうか、神仏を表す印契(いんげい)、要するに手で組む印の事、によって病魔や厄災を祓うおまじないみたいなものである。

 神仏を表すと言うことだが、例えば佐ノ介の使った外縛印の仏格は愛染明王、そして神格は稲荷大明神、また外獅子印の仏格は如意輪観音で神格は春日大明神である。

 この九字の中で佐ノ介の最大最強の攻撃技は、仏格に不動明王を持つ内獅子印(ないじしいん)『者』であるのだが、それを越える超必殺技、最強の奥義がその九字をいっぺんに使うものらしい。

 この技は誰でも簡単に使えると言うものではない、莫大な法力とそれを操る技術、そしてそれを制御する為の精神力を必要とされる、佐ノ介は二十代前半の頃にはこれを体得していたと言うのだからその才能は計り知れないのだが、いかんせん馬鹿なので皆に侮られがちなのだ。

 そして何よりも使用した後の反動が激しい為、誰も使いたがらない技でもあったりする。


 とまあ健登はそんなことはまったく知らないので、それでどうして人斬り外道に勝てるのかがわからない。


「それやったら勝てるの?」


 当然の疑問である、しかし弥命はゆっくり頷くと言う。


「それが当たれば勝てると思います。わたしも実際に見たことはないのですが、それくらいに強力な奥義と聞いています。」

「ふっふーん、俺は一回使ったことあるからな、その後死にそうになったけど」


 ふんっ!と鼻息を荒げて自慢げに言う佐ノ介、それを見て紅葉がニコニコしながら付け加える。


「ふざけてやったらできちゃったんだよね、その後一週間も寝込んで看病が大変だったんだから」


 ごみ箱に向かって一時間に一回は吐血してたね♪なんて、おもしろおかしく紅葉は話しているが、結構エグい内容に健登はドン引きした。

 しかし弥命は少し訝しむ様にもう一つの疑問をぶつける。


「奴の剣は、その奥義でさえも返しはしないでしょうか?」

「ああ、あれね……真空っ!燕返しっ!!」


 大声を上げて手刀をヒラヒラっと返しながら、不和の剣技を真似てみる佐ノ介を冷たい目で見ながら弥命は言う。


「なんですか?それ……」

「え? あ…あぁ……知らない? いや、気にしないで……」


 もうやだ!若い子にはついていけない……


 佐ノ介はジェネレーションギャップを感じうちひしがれてしまい、力ない声で弥命の疑問に答える。


「その可能性はあるよぉ……だってあいつ雷とか液体も曲げちゃうんだもん、わけわかんねえよマジで……」


 しょんぼりしながら言う佐ノ介の様子に、なぜ落ち込んでいるのかよくわからない弥命であった。

 そこまで話すと佐ノ介は唐突にまじめなトーンになり、振り返って健登の目をまじまじと見つめる。


「だから健登、絶対に俺の技を当てる為におまえが盾になれ」

「おじさんっ!なにをっ?」


 驚く弥命を余所にさらに佐ノ介は続ける


「そして守るのは弥命ちゃんのこともだ、おまえはハバキリであいつと斬り結ぶことはもう絶対にするなよ、神器は弥命ちゃんの命だ、その命があんな禍々しい瘴気と討ちあうことがどういう意味かわかるな? 白様もそれを危惧していたから今回のことは黙っていたんだ」


 守れと言いながら神器で斬り結ぶなとは、じゃあどうしろと言うのだ。

 殴り合いの喧嘩だと言うのならまだしも、相手も剣を使って攻撃してくるのだ、アメノハバキリで受けるしかないだろう。

 健登は軽く困惑した表情で佐ノ介に問いかける。


「いやいや、そんな無茶な、それでどうやって盾になれってんだよ?」

「文字通りだ、おまえの身体を盾にしろ、俺の術が完成して奴にぶちかませる隙ができるまで、その身一つで俺と弥命ちゃんを守りきれ」


 んなアホな、いくら神器を使っていれば怪我の回復が早いとは言ってもそれまで相手の剣を生身で受けろとか冗談じゃない、更にあの剣の持つ瘴気が洒落にならない、どうにもあれの所為で普段よりも治癒が遅いのだ。


「悪いがそれしかねえ、それくらいにあいつの剣技は神業すぎる、この中で一番剣術に長けているのは弥命ちゃんだけれども、それでも到底足元にも及ばないレベルだ」

「つほちゃんが居てくれればどうにかなったでしょうか……」

「今この場に居ねえ奴のことなんかあてにしてもしょうがねえだろ」


 つほちゃん? 誰だろう? 健登は思うが、まあ弥命や佐ノ介の知り合いなのだろうと、そしてその人は弥命以上の剣の腕を持っているのだろうと、会話の内容から推測した。


「一撃でやられちゃったらどうすんのさ?」


 健登の言う通りである。剣で受けられずに急所を一太刀、絶命してしまっては意味がない、しかし佐ノ介は口元にニヤリと笑みを浮かべるとなにやら楽しそうに言う。


「安心しろ、それは絶対にねえから」

「は?」

「あいつは外道の名の通り超最悪な奴だ、生き物を斬り刻み時間をかけて殺すことに何よりの喜びを感じる変態野郎だからな」


 それってつまり……


「おまえみたいな活きのいい獲物はあいつの大好物、そう簡単には殺されねえから思う存分斬られ続けろっ!」


 やっぱり……


 なんと言う無茶苦茶な作戦だ。

 要するに健登にサンドバッグになれと言っているのだ。不和が夢中になって健登を痛めつけている後ろから、えいやーってやるからよろしくねって、はっきり言って佐ノ介も外道である。


「別に避けるなとは言ってねえんだからなんとかなんだろ、俺の必殺技も5分もありゃできるんだし、問題はどうやって隙を作るかなんだよ」

「それはわたしがなんとかします。」


 弥命が割って入るのだが、なんだか不機嫌な様子に佐ノ介は怪訝顔をする、なんでだろうと思い紅葉の方をチラっとみるのだが、酷く蔑むような目で睨み返された。


 だって……しょうがないじゃん、一番頑丈そうな奴が盾になるしかないでしょ?


「と、とにかくだ、俺が言いたいのは皆で力を合わせて強敵を倒そうってことであって、その為の役割分担をだな……」


 そこまで言うと、ブーブーっと言う振動音が車中に響く、誰かの携帯電話が鳴っているようなのだが、どうやら佐ノ介の物らしく「ちょいとごめんよ」と言うと電話にでる。


「もしもし、あん? 今外出中だからテレビなんて、は? ニュース? ラジオなら聞けるけど……」


 初めはめんどくさそうにその電話に応対していた佐ノ介だが、明らかに緊張した面持ちになると、カーステの電源を入れてラジオを点ける。


『ただいま入ってきたニュースです。現在、東京都〇〇区のショッピングモール内で、何者かが刃物を振り回しているという通報が入り警察が対応しているとのことです。現場では怪我人も出ていると言う情報も入っており……』


 そこまででラジオを消すと佐ノ介は奥歯を鳴らし、呻くように声を漏らした。


「何考えてやがんだあの野郎……」


 その言葉に全員が反応する、今のニュースはまさか不和だと言うのか?

 健登と弥命は携帯を取り出しSNSアプリを起動すると、今のニュースの現場からの情報がリアルタイムで流れてくる。

 店内には複数名の客が血を流して倒れているらしい、刃物を振り回していた男は子供を人質に取っているなど、この情報伝達の速さには驚かされてしまう。

 もしも先の戦いの場に第三者が居れば、瞬く間に情報は拡散されていただろう。

 一度ネット上に拡散された情報を完全にシャットアウトするのは難しい、それを神社ならば、国家権力ならば覆すことも可能なのであろうか?甚だ疑問に思ってしまう。


「兄ちゃん今のってまさか?」

「あぁ、不和だ。やべえぞこりゃ、下手すりゃ死体の山が積み上げられることになるかもしれねぇ……」


 冷や汗を流しながら佐ノ介は真剣な面持ちで言う。

 これまでそんな大胆な行動にでることなど決してなかった不和が、なぜ今ここに来て大量虐殺の様な真似にでるのか? まるで理解できなかった。

 あれやこれやと作戦を立ててはいたが、結局状況は思いもよらない方向へと進み始めている、今はとにかく現場に向かうしかない。


 紅葉はアクセルを踏み込み車は速度を上げるのであった。


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