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神器の巫女  作者: あぼのん
第四章 道に外れし世迷人
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第14話 決まってるでしょ、みこちゃんの騎士様よ❤

前回までのあらすじ


健登が不和に刺され瀕死の重傷の中、現場に駆け付けた源治はこの異常事態にどう対応するべきか迷っていた。

フェイスレスが逃走し、なにも知らない源治は人斬り外道・不和十郎太を確保しようとするも、そこへ佐ノ介が駆け付ける。

因縁の相手を見つけた佐ノ介はここで決着をつけようと戦闘を始めるのだが、不和の強さは想像を超えるものであった。

劣勢になる佐ノ介であるが、起死回生の一撃を放とうとしたところに、自分が放ったものではない雷が不和に襲い掛かるのであった。

 不和は突然の雷撃にも咄嗟に反応、太刀を返すと稲妻でさえも受け流し佐ノ介に向かって飛ばす。


「ちょっ!嘘だろおおおっ!」


 叫びながら地面に伏せる佐ノ介、なんとか稲妻を躱し顔を上げると不和の周りに無数に散りばめられる呪符、それを見て慌てて起き上がり自らも呪符をばら撒く。


 ― おんあろりかっ ―

 ― 爆炎轟来 ―


 同時に唱えられる呪文、地面にばら撒かれた呪符から爆炎が噴き出し、それを抑え込むかのように佐ノ介の呪符が周りに結界を張った。

 不和は既にその範囲から跳躍、離脱して距離を取っている。


「誰だこのまぬけええっ!ここら辺一体吹き飛ばすつもりかどアホおおおっ!!」


 佐ノ介のその言葉に驚いた声が背後から響く。


「え? さ、佐ノ介くんっ!? なにやってんの?」

「あ、あれ? 紅葉ちゃん?」


 驚いている二人の脇をすり抜ける様に、白い戦闘衣装を身に纏った弥命が不和に向かって一直線に駆けて行く。

 霊刀を片手に不和との間合いを詰めると横一線、それを受け流されるも体勢を立て直し上段からの唐竹割、不和は太刀の外腹でそれを流すように受けると鍔で刃を止め外に巻き込む様に手を返す。そのまま弥命の剣を上へ跳ね上げ空いた胴へ斬り付けようとするのだが、間一髪ロープの様に長く伸びた佐ノ介の数珠が不和の太刀を腕ごと縛り捉える。


「おん…あろりか 内縛印(ないばくいん) 不滅衆生の法」


 ― 陣 ―


「こいつはその瘴気でもそう簡単には砕けねえぜえっ!」


 不和は邪気を発するが佐ノ介の言葉通り数珠は砕けず、より締め付けを増すように感じた。


「佐ノ介おじさんっ!そのままお願いしますっ!!」

「おじっ!?」


 そう言うと弥命は踵を返し健登と芳乃の元へと駆け寄る、佐ノ介はおじさんと言われたことがちょっとショックのようだ、朱音の気持ちがちょっとわかりました。


 次から次へと起こる非現実的な事柄に源治はもう開いた口が塞がらない。

刑事生活25年、その中では普通の市井の人であれば経験することのないような修羅場も何度かあった。

 しかし、今目の前で起きているこれはそんなものとは到底比べ物にならない、漫画やアニメの中の出来事が現実に起きている、源治は夢でも見ているのではないかと自分の目を疑った。


 泣きながら芳乃は弥命に縋り付く。


「弥命っ、弥命ぉ、うぁぁぁん」

「お待たせしました芳乃さん、大変でしたね、もう大丈夫ですから」


 そう言いながら健登の様子を見る弥命であるがその姿に息を呑む、夥しい量の出血である、そして目も虚ろに倒れ込みほぼ呼吸もないように見える、これはかなり危険な状態であるとすぐに察した。


「守羽くんっ!聞こえますかっ!? 弥命ですっ!守羽くんっ!!」


 しかし返事はない、弥命は健登の手を取ると自分の胸に押し当てて叫ぶ。


「守羽くんっ!抜けますか? お願い、神器を抜いてくださいっ!!守羽くんっ!!」

「健登っ!弥命が来たよっ、早くあの剣を抜いてっ!お願いだから、目を開けてよ健登っ!」


 二人の少女が必死に健登に呼びかける姿を見て源治は困惑する。


 なにをしようとしているんだ? くそっ、なんでいつまでも応援がこない、なにをやっているんだ警らの奴らはっ!


 これは警ら隊のことを馬鹿にしているわけではない、緊急通報を受けて第一に動き出すのはパトロール任務の警ら隊員の仕事である。

 いの一番に現場に駆けつけて要救護者が居ればその保護を、そして危険人物がいればそれの確保、または被害が拡大しないように食い止める。

 そんな機動力を求められる、事件発生時に於いて最も重要な初動対応を担っているのが警ら隊と言うものだ。

 だからこそ未だに現場に駆けつけられないなどおかしい、源治はそう思ったのだ。


 そんな警ら隊が未だに到着しない理由は当然一つである、この通りには佐ノ介が簡易的な結界を張っているからだ。

 白やアルレッキーノが使ったような位相結界や転移結界のような大掛かりなものではないが、普通の人であればなにか嫌な気配を感じこの通りを避けて通る、そんな術を仕掛けて人払いをしていたのだ。

 当然普通の人ではない弥命は、この術の影響を受けることなく加勢に現れたわけだ。


 佐ノ介は不和と綱引き状態を続けている、こっちは両手で必死に引っ張っているのに片手で涼しい顔をしている不和に、化け物が……と心の中で毒吐くのだが、佐ノ介は不和の背後から近寄ろうとしている源治の姿に気が付き焦りの色を見せる。


 もう馬鹿っ!なにしてるんだよおっさんっ!余計な真似するんじゃねえっ!


 源治は背後から飛び掛かり女の子だけでも救い出そうと考えているようなのだが、はっきり言って邪魔である。

 そんな隙を見せるような相手じゃないことくらい今までのでわかりやがれ、と思うのであったがちょっと気を抜いたその隙を不和は見逃さなかった。

 隙を突かれたのは俺でしたっ!なんとも間抜けな佐ノ介、一気に引き寄せられると腹に思いっきり前蹴りを喰らい後ろに転がる。

 不和は力いっぱいに太刀を引き数珠を引き千切ると振り返り、源治の右足太腿を斬り付けた。


「がっぁあああ」


 呻き声を上げてその場に倒れ込む源治、止めを刺そうと太刀を振り上げたところで不和は手を止めた。


 背後から感じるこの気配はなんだ? 凄まじい力を感じる……これは? まるで神々の発する気配のような? こんな場所に一体なぜ?


 そう思い振り返ると不和は初めてその顔に驚きの表情を見せる。


 その視線の先、弥命の胸元から白い光が溢れだし、今まさにアメノハバキリを引き抜かんとする健登の姿があった。

 あの小僧は先程まで死にかけていた筈、確かに己が太刀で腹を貫かれて息絶えようとしていた筈なのに、あれはどういうことなのだ? 不和は驚愕する、あの巫女装束を纏い術を操る女の胸から溢れ出る光からは神の力を感じる、あれはマズイ、あの力は瘴気を邪気を払う力を持つ光だ。


「娘っ!何者だっ!?」


 これまでにない声を上げると不和は一目散、弥命達に向かって駆け出した。

 その瞬間アメノハバキリは引き抜かれ、健登はガバっと身体を起こし立ち上がると叫んだ。


「その子を離しやがれっ、この腐れ外道があああああああああああっ!!」


 刹那、風が健登の身体を覆う、「疾風・鴉」黒の具足をその身に纏うと健登も不和に向かって駆け出す。

 それを見た不和はその正体にようやく気が付いた。


「神器の巫女かっ!!」


 お互いの刃が触れ合うとそのまま駆け抜けるのだが、健登の左腕、二の腕の辺りから鮮血が噴き出す。擦れ違いざまに不和の剣は健登に届いていた。

 それでも健登は振り返り相手との間合いを詰め、再度斬り付けるのだが不和はその剣を受け流し健登を後方へと投げ飛ばした。

 視界が急に逆さまになり一瞬わけがわからなくなるも、健登は投げ飛ばされたのだと直感する。突進の勢いそのままに壁に叩き付けられる直前宙返りし、両足で壁を蹴ると不和に向かって突きを繰り出した。

 しかし同じことの繰り返し、不和はまたもその剣を巻くように己の太刀を返すとそのまま健登を地面に叩きつけた。

 背中から思い切り落ちた健登は肺の中の空気を一気に吐き出し昏倒しそうになる、しかし歯を喰いしばり跳ね起きると後方へ跳躍し一旦不和と距離を取る。この間、一分にも満たないほんの数十秒の応戦であったが、お互いの実力の差が明白となった。

 不和の剣技を前に健登の児戯にも等しい剣などが通用するわけもなく、それがたとえ神器の力であっても不和にとってはそれほど脅威に感じる物ではなかった。


 そしてそれを見ていた源治はもう頭がどうにかなりそうであった。

 さっきまで瀕死の状態だった少年が突然現れた謎の少女の胸から剣を引き抜いて変身ヒーローの様に甲冑を身に纏い、超人のような身のこなしで戦っているのだ、こんなもんを後で上にどう報告すりゃいいんだ? もう考える気すら起きない。


 更には佐ノ介も呆気に取られてしまう、弥命の内にある神器・アメノハバキリが三か月ほど前に解放されたと言う話は聞いていたが、それをなぜあの倒れていた少年が引き抜き操っているのか? 一体これはどういうことなのか? さっぱりわけがわからない。呆然としながら紅葉に問いかける。


「…紅葉ちゃん?」

「なに? 佐ノ介くん」

「あれ、誰? どういうこと?」


 健登を指差し半笑いで尋ねると紅葉は胸の前でぽんっと手を合わせて答えた。


「そっか、佐ノ介くんは知らなかったよね、あれは守羽健登さん」

「あぁ、守羽君ね……だから誰だよそれっ!!なんで弥命ちゃんの神器をあいつが使ってんのっ!?」


 涙目になりながら叫ぶ佐ノ介、なんだか今まで妹のようにかわいがってきた弥命が、久しぶりに会ったら知らない男に取られていた。

 そんな気分になるのだが佐ノ介の思いも露知らず紅葉は満面の笑みで答える。


「誰って?決まってるでしょ、みこちゃんの騎士(ナイト)様よ❤」


 ノォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!


 頭を抱え両膝を地面に突きがっくりと項垂れる佐ノ介、まだまだ子供だと思っていたのに、あの弥命ちゃんにそんな相手が出来ていたなんて、光陰矢のごとし、月日の経つのはあっと言う間なんだね、そりゃあ俺もおじさんなんて言われるよなぁ……としみじみ思うのであった。

 そして佐ノ介はボソっと付け足す。


「紅葉ちゃんはまだ彼氏できないの?」


 その瞬間思いっきり頭を踏みつけられる佐ノ介、紅葉はぐりぐりと足を捻りながら笑顔で答える。


「なにか言った? 佐ノ介くん?」

「なんでもないです……」



 不和を見据えながら健登は己の身体のダメージを確認する、先程擦れ違いざまに斬られた腕の傷と、それよりも深い腹の傷、どちらもまだ少し痛むが出血も大分治まり回復してきているようなのだが、いつもよりも回復が遅いように感じる

 そう思っていると隣に弥命が並び立ち剣を構えながら健登に声をかけた。


「傷の具合はどうですか守羽くん?」

「まあギリギリってところかな、ただ、いつもより治りが遅いような気もする」

「それはおそらく奴の纏う瘴気が原因だと思います。あれはかなり厄介ですね……」


 弥命の説明に不和の持つ太刀を見つめると、そこから溢れだす禍々しい気配に健登は身震いした。

 まるで悪意の塊のようなその気配、同じように不和自身もそれを身に纏っている。あれは人にとってよくないもの、悪影響を及ぼすものだと直感すると早々に決着をつけなければならないと再び剣を構えた。

 佐ノ介もここはとりあえず二人と共闘するのが吉と考え、身構えると健登に言う


「少年っ!事情は後で聞く、とりあえず目の前の外道をブッ飛ばして女の子を助けるから協力しろやあっ!」


 その言葉に弥命を見やると、大丈夫と大きく頷いたので再び不和を見据えて攻撃を仕掛ける隙を窺うのだが、突如健登はその場に膝を突き大きく吐血した。


「守羽くんっ!?」


 身に纏う具足が消滅し健登は腹を押さえながら、ぜぇぜぇと苦しそうに息をする

 その隙を逃さず不和は大きく太刀を振り被ると何もない空間に向かって斬り付けた。

 太刀に斬られた空間に切れ目ができ隙間ができると、それが大きく開いてゆき人一人が通れる程の大きさになる

 それを見て佐ノ介が逃がすものかと動くのだが、不和は抱えていた女の子の襟首を掴み前に突き出すと、喉元に太刀の切っ先を突きつけた。


「今はフェイスレスを斬るのが先だ、一ノ瀬の倅、おまえの相手はいずれまたしてやる、そして神器の巫女とそれを操る小僧……くくく……この街はおもしろい奴らが沢山いるな、待っていろ、おまえら全員、必ず俺が斬ってやる」


 そう言うと隙間の中へと消え、瞬く間に空間の切れ目は閉じてしまった。


「ちっきしょおっ!俺は佐ノ介だ馬鹿野郎おおっ!!」


 佐ノ介の叫び声が夏の夕暮れの空に虚しく響くのであった。


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