第13話 燃えろっ!俺の中の法力よっ!奇蹟をおこせっ!
前回までのあらすじ
不和に刺され重傷を負い瀕死の状態の健登、神器を手にすれば助かると芳乃は弥命に助けを求めその到着を待つしかなかった。
一方そんなことにはお構いなしに不和は女の子を人質に、この子の顔が欲しいかとフェイスレスを挑発、交戦状態になるのだがフェイスレスは不和にまったく歯が立たなかった。
その場に源治が到着すると不和の一瞬の隙をつき、いずれまたすぐに女の子の顔は貰いに行くと逃走するのであった。
まるで現実とは思えない状況に源治は困惑するのだが、そこへ更に佐ノ介が現れ不和との戦闘を始める。
叫ぶと佐ノ介は呪符をばら撒き念を唱える、なにか術を展開するつもりだ。
それを見て不和は咄嗟に動き出す。佐ノ介に向かって一直線、術を発動される前に斬ろうとするのだが、佐ノ介が右手に持つ錫杖を不和に向けると地面にばら撒かれた呪符が一斉に飛んで行き太刀を覆うように貼り付いた。
まずはあの禍々しい瘴気を纏っている妖刀を封じること、それから不和を捕らえる。
佐ノ介は対外道のスペシャリスト(仮)だ、不和の戦い方は熟知している。
外道と戦う時には接近戦は禁物、この世の中に奴と互角に剣技で渡り合える人間なんてまずいない、当然である、普通の人間の何倍も生きている奴を相手にたかだか数十年研鑽を積んだ程度の者が敵うわけがない、そんな者がいるとすれば剣術の超天才だと言えるだろう。
まあ佐ノ介は知り合いに一人、その超天才、剣の申し子とも呼べる人物が居るのだが、今ここにいるわけではないので関係ない話だ。
とにかく不和相手の必勝法は、相手の武器を封じたところで遠距離攻撃が一番なのであるが……
不和が太刀を振るうと貼り付いていた呪符は青い炎を上げいとも簡単に剥がれ落ちた。
「あー……やっぱそうよねぇ……」
苦笑いをしながら見つめる佐ノ介。
妖刀の纏う禍々しい瘴気を抑えるにはそれ相応の力が必要なのは言うまでもないが、この瘴気が非常に厄介であった。
佐ノ介とて並みの使い手でないことは確かであるのだが、不和の纏う瘴気はもとより、特にあの妖刀の纏う瘴気は異常なほどまでに強力なのだ。
いったいどれほどの人を、命を絶てばこれ程までに禍々しい瘴気を纏うことができるのか? その太刀によって絶たれてきた命が怨念となりまた命を喰らっていく、そうする内に強力な邪気となり二体に染みついたのだ。
これまでに何度も不和のことを追いつめてきた僧兵達が、完全に消滅させられない原因はここにあった。
浄化しようにも近寄るだけで己の魂を喰われかねないのだ、であれば今回どのようにして倒そうとしているのかと言うと、深手を負わせて京都に帰ってきた所を封印という手筈なのだが、なぜ深手を負わせれば京都に帰ってくるのか?
これは京都と言う街の特性でもあるのだが、碁盤の目の様に道の張り巡らされた京都と言う街は風水的にもこれまた非常に気の流れの良い作りらしく、街そのものが結界としての機能を持った都市であることはまあよく聞く話である。
その反面、その気の流れが反転する場所があるのだが、その場所には怨霊や悪霊や妖怪、はたまた不和の様な人ではなくなった邪悪な者どもが好む気が充満していると言うのだ。
陰と陽、光と影、正と邪、こういった大都市に見られる表と裏の顔、それはここ東京もまた同じと言えるのかもしれない。
不和の纏う瘴気、それは触れるだけで普通の人間であれば即死しかねない程の邪気である、そこで佐ノ介はあることに気が付く。
あれ? あの女の子大丈夫なのかな?
不和が小脇に抱える女の子はずっと不和と妖刀の放つ邪気に曝されている筈なのだが、特に変わった様子もなかった。
時にそう言った邪気に対する耐性の強い人がいることにはいるのだが、それにしてもあんな間近であの強力な瘴気にさらされてなんともないなんて言うのは妙であった。
目の前で繰り広げられる超常の戦いを見ながら源治は呆気にとられてわけがわからない、そう言えばあの坊主は港で会った奴じゃないのか?
無精髭は剃りあの時よりも小綺麗にはなっているが間違いない、言動からどうやらあの男を探していた様子だ。
なるほど……単なる殺人事件ってなぁそういうことかぁ……
源治はあの時の佐ノ介の言葉を思い出していた。
とにかくあの男が、マル特の関係者の追っている者と言うのであれば後は任せればいい……
馬鹿を言え、俺は警察官だぞ
目の前で小さな女の子が人質になっている、刺されて重傷の一般市民がいる。
そんな凶悪犯を前に警察官である自分がなにもせずにそれを他人に委ねるなんて、それじゃあ自分のこれまでの人生はなんだったのだ? いつも被害に会うのは善良な市民だ、そんな人々を犯罪者から守り、社会のルールから逸脱した者を逮捕するのが俺の仕事だ。いや、それが俺の生きてきた証、その証を他人の手に委ねるなんて冗談ではない、恐らくあの男は顔なし殺人の犯人ではない、そうであるならば最初のあの時にあの坊主が何もせずに去っていくなんてことはなかったであろう。
自分の追っている犯人ではないとしても、目の前の犯罪者を放っておくことなど源治には到底できなかった。
源治は再び拳銃を構えると不和に向かって警告する。
「今すぐにその刀を捨てろっ!これは最終警告だっ!次は発砲するぞっ!!」
それを見て佐ノ介は焦る。
おいおい何考えてんだおっさん? あとは俺に任せて早くそこのカップルを連れて逃げろよ、彼氏の方は死にそうじゃねえか
そう思うのだがお構いなしに不和が動く、不味い…と思った瞬間「パンパンッ!」と言う破裂音が響いた。
源治が不和に向かって発砲したのだ。
しかし、女の子に当たってしまわないように狙ったのはその足元、不和の前30㎝程の地面に着弾した。
一瞬不和は足を止めるのだが、すぐに動きだし佐ノ介との間を詰めようとする。
佐ノ介は自分の間合いに入られまいと距離を取り、またも呪符を取り出すと今度は両側の外壁に飛ばし貼り付ける。
不和がその間を駆け抜ける瞬間、錫杖を地面に突き立て胸の前で両手指を組む様に印を切ると呪文を唱える。
佐ノ介の法力が爆発的に膨れ上がるとそれに呼応するかのように呪符が輝きだした。
「おんきりきり……外縛印 不動金縛の法 明王の形」
― 皆 ―
刹那、不和の身体はまるで金縛りにでもあったかのようにピタリと止まり動かなくなる。
佐ノ介の緊縛の術に抗い表情一つ変えぬまま動こうとするのだが、頑強な鎖に繋がれたかのごとく動かない手足、そしてその場だけがまるで重力が何倍にもなったかのように身体が重い、そのまま自分の体重に押し潰されてしまうのではないかと思うほどであるが、不和は歯を食いしばると地面に踏ん張るように右足を前へ踏み出す。
「おいおい……嘘だろ?」
佐ノ介は驚愕する、はっきり言って超全力でやっているのに、不和はそれでも少しずつだが前に進み自分との間を詰めようとしているのだ。
法力と言うのはわかりやすく言えばMPである、もっと簡単に言っちゃえば体力なのだ。
この術を全力で使っていると言うことは、謂わば全力疾走で走り続けるのと一緒、体力が尽きた時点で終了なのであるが、今まで戦ってきた相手であればこんだけ全力でやれば大抵の相手は膝を突き、そのまま動けなくなったところに止めを刺すと言うコンボを決められたのに不和にはこれでも足りない様子。
実を言うと佐ノ介は今回この外道とサシで勝負するのは初めてであった。
京都で外道と相見えたことのあるのは三回、十八の時と二十四の時、そして二十八の時である。
その時の討伐で先頭に立ったのは父・玄隆斎であり、佐ノ介はそのサポート役であった。
ところが今回、京都から姿を眩ました外道を追跡することとなった際、玄隆斎は佐ノ介に「今回は一人でやってみろ」と唐突に言いだしたのだ。
歳を取り老いた己では長い道のりの追跡は困難であると、いよいよ息子のおまえに譲る時がきたか……なんて言っていたのだが、絶対に白様に知られたらお仕置きをされると思ったんだろうと佐ノ介は予想している、大変なことを全部息子に丸投げする無責任な親父様であった。
「くっそぉぉぉ、聞いてねえぞ親父ぃ、こいつマジでやべえじゃねえかああ」
佐ノ介がぼやいている間にも、不和は一歩また一歩前へと踏み出してくる。
やばいやばいやばい、止まってくださいよちょっと!
脂汗をかき全力で手を組み歯を喰いしばる。
「うおおおおおおおおっ!燃えろっ!俺の中の法力よっ!奇蹟をおこせっ!」
叫んだ直後、眼前で不和が太刀を真横に降り抜くと同時、佐ノ介は後方へ飛び退ると剣を受ける為に引き抜いた錫杖が真っ二つに斬られていた。
さらには佐ノ介の胸元、袈裟が横一文字に裂かれて露出した肌からは血が滲む。
あ……あぶねぇぇぇ、一瞬でも反応が遅れていたら死んでたな……
脂汗は冷や汗へと変わる、そして不和の攻撃を前に術を解いてしまった。
「おまえでは力不足であったようだな、玄隆斎の倅よ、終わりであればおまえの命ここで斬り落として行け」
涼しい顔でそう言うと不和は禍々しい殺気と瘴気を一気に解放。
するとその場の空気が澱み始める、そこにいるだけでなにやら息が苦しくなり胸が詰まるような感覚に、源治は一瞬眩暈を感じるも気を引き締め佐ノ介と不和の姿を見つめた。
くそがぁ、あんなもんにどうやって介入すりゃいいんだぁ
最早普通の人間が立ち入れる領域ではない、こんな老頭児ではなんの役にも立たないと源治は奥歯を噛んだ。
「力不足……だと? 言ってくれるじゃねえかっ!だったらこれでも喰らいやがれえっ!」
佐ノ介はどこからともなく円形の刃の外に棘のような刃の付いている武器、法輪を取り出すと、法力を使い自分の前へと浮かせる。そして再び印を切り呪文を唱える。
「おんばらだ…外獅子印 円刃断截の法 観音の形」
― 闘 ―
先程とは違い攻撃的な法力を爆発させると法輪に乗せて一気に解放した。
法輪は無限の軌道を描き凄まじい勢いで真正面から襲い掛かる、それを斬り落とそうと太刀を構える不和であったが直前、まるでTVモニターのゴーストの様に法輪の姿がぶれると二つへと分裂する。
同じ軌道で真後ろからもう一つ放っていたのか……
法輪は左右へ分かれる様に飛ぶと、不和の右肩と左脹脛の肉を抉った。
やれる!自分の攻撃は外道に届くと確信、そのまま佐ノ介は法輪を操り追撃を行う、速度を上げ前後から挟み込む様に法輪は不和へと同時に襲い掛かった。
不和の間合いに入ると一閃、どうやったのか? 中央に丸い穴の開いた法輪は、輪投げの様に不和の持つ太刀の刀身に二つとも嵌りそのまま回転を続けていた。
そして妖刀の持つ瘴気を浴びると霊的武具である法輪は砕け散る。
「冗談きついぜ……あのタイミングでどうやって前と後ろ同時に受けられるんだよ? 漫画かよ」
自分も漫画の様な技を操りながら、不和の神業を前についそう零してしまう佐ノ介。
ことごとく技を破られ成す術もないかに見えたが、ここで諦めるようなら最初から討伐なんかに出向きはしない。
当然それなりの自信があったからこそ佐ノ介は、今回の討伐一人でやれと言われそれを承諾したのだ。
やりたかねえけどやるしかねえかぁ……超必殺技……
佐ノ介は覚悟を決めると再び印を切り、術を繰り出そうとする。
それを見た不和は今までとはさらに違った雰囲気を醸し出す佐ノ介を前に、大きな術が来ると察し身構えた。
― 雷光一閃 ―
直後、頭上から稲妻が不和に襲い掛かった。




