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神器の巫女  作者: あぼのん
第四章 道に外れし世迷人
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第12話 いつまでも親父とセットで覚えてんじゃねええええっ!

前回までのあらすじ


海で出会った少女は大人達から凄惨な虐待を受けていた。

芳乃はそれを確認すると女の子を助ける為になんとかしようと考える。そこへ運よく警察官が現れたため相談しようとするのだが、一緒に現れた顔面血塗れの男に警察官は殺害されてしまう。

ただ事ではないと察した健登はその場を逃げようと、芳乃と女の子に走れと言うのだが、血塗れの男フェイスレスを追って来た不和十郎太に芳乃は殴られ倒れ込む。

それを見た健登は激怒し不和に殴りかかるのだが、人斬り外道の容赦ない凶刃が健登の腹を貫くのであった。

対峙する不和とフェイスレス、その傍らで倒れ込む健登と返り血を浴び血塗れになりながら弥命に助けを求める芳乃であった。

 睨み合う不和とフェイスレス、取り乱している芳乃の事はまったく気にも留めない様子だ。

 それは当然と言えば当然である、フェイスレスの狙いは不和が抱えている女の子の顔であり、不和の狙いはフェイスレスであるのだから、尤も不和にとっては仕事を終えた後に目撃者である健登と芳乃を斬ると言う楽しみもあるわけだが、目下の標的はフェイスレスである。

 フェイスレスは徐に両手を顔の前に持ってくると血を噴きかける、肉を焼き溶かしながらダラダラと流れる血液であるがみるみるとそれが凝固して刃の形状を成すとその二つを研ぎ合わせた。


「ほぉ……ずいぶんと面妖な技をもっているな……」


 不和が感心していると更にフェイスレスの身体が変形を始める、肉が裂け骨が剥き出しになり、血液が沸騰しながらしゅーしゅーと音を鳴らし真っ赤な蒸気を上げている。

 手足の関節が折れ曲がりまるで蟷螂のような異形へと姿を変えると、一瞬で不和との間合いを詰めて両手の刃で斬りかかった。


 が、その瞬間フェイスレスの視界は天地が逆転する。


 斬りかかった筈の身体は宙を舞い不和の後方へと飛ばされ地面へと落ちる。

 まるで意味がわからない、なぜ攻撃を仕掛けた自分が相手の後方で倒れているのだ? しかしそれほどのダメージはない、斬られたわけではないらしい。

 身体を起こし立ち上がるとフェイスレスはもう一度不和に斬りかかるのだが……まただ、しかし今度はわかった。

 不和は確かに自分の攻撃を、両腕の刃を受けようと太刀を構えるのだが刃が触れる直前、弧を描くように太刀を返すと身体は一回転し宙を舞っていたのだ。

 信じられない神業である、相手の力や体重移動などを利用し返し技を決める合気道の投げ技のようでもあるが、不和は相手に触れることなくその力を受け流したのだ。


 何度か同じことを繰り返すのだがフェイスレスではまるで相手にならない、それでも女の子の顔を諦めることはできなかった。


 フェイスレスはその名の通り顔のない妖怪であった。


 人間の持つ顔が羨ましい

 

 そう思うようになったのはいつ頃であったか?

 あいつらはどうしてそうコロコロと顏が変わるのであろうか? 人間には色んな感情と言うものがあるらしい、それに合わせて瞬時に顔を作り変えるらしいのだが、どうやっているのかフェイスレスには理解できなかった。

 その内に興味が湧いてくる、自分にもああいう顔が作れないだろうか? そう思い何度か試すのだが、池の水面に映る目も鼻も口もないのっぺらなその顔は、なにもない肉の塊であった。


 ないのであれば奪えばいい


 フェイスレスはそう考えるようになる、山から里に下りては人を襲いその顔を奪うのだが、何度か表情を作り変えるとすぐに剥がれ落ちてしまった。

 それを繰り返すうちに数日経っても貼り付いたままでよく馴染むものがあることに気が付く、それは寒村などで飢えに苦しみ生きる希望を失くした者達や、戦争で夫や子供、家族を失い生きる気力を失った者達、まるで生きながらに死んだような表情を持つ者達の顔はよく馴染んだ。

 そうやって現代まで生き長らえてきたのだが、もう半世紀以上も前に戦争が終わるとそう言った表情をする人間を見つけるのが難しくなった。

 戦後の高度経済成長、国土が一度焼野原になりながらも奇跡のような復興を果たし、国が豊かになると人々の心も豊かになった。

 飢えや戦火に苦しむことはなくなり、死と言うものから限りなく遠ざかった人々の心は穏やかになった。

 街ゆく人々は皆一様に幸せそうな表情をしている、時には悲しそうな、時には苦しそうな顔をする者もいるのだが、それは表情がないわけではなかった。


「ずぅぅぅぅうっと探してたんだぁ、オレの顔に馴染む顔をぉぉぉおおっ!その女々子を寄こせえええええええっ!」


 右腕の刃を振り上げて再び斬りかかるのだが今度は身体が宙を舞うことはなかった。

 その代わりに二の腕辺りから先が飛ぶ、不和の返す刀で一瞬のうちに切断された腕が自分の後方に飛び地面へと突き刺さった。


「ぎゃあああああああっ!いでぇよぉっ!いでぇよぉぉぉおおおおっ!!」


 傷口を押さえてその場にうずくまるフェイスレス、不和は無言で近づくと口元に笑みを浮かべて言い放った。


「まだ死ぬなよ? ここからだ、ここからがおまえは自分の生を、俺がおまえの命を実感できる時間だ、存分に死に抗ってみせろ」


 そう言うとうずくまるフェイスレスの背中に太刀の刃を乗せ素早く引く。


「ぎゃあああああああっ!!」


 悲鳴をあげるフェイスレス、背中の皮膚が裂け肉が剥き出しになり血が滲み流れる。

 嬲り殺しにするつもりだ、この人斬り外道は自分のことをなます切りにして楽しむつもりなのだ、フェイスレスは恐怖した。


 暫く斬り刻み続けていると不和はふとあることが気にかかる、自分が小脇に抱えている幼子、こんな状況にありながら、こんな凄惨な場面を見せられながら泣き叫ぶどころか逃げようと暴れもしないとは一体どうしたものか?

 普通の幼子であれば、いや成人であっても正気ではいられない程の状況であるはず、不和は左脇に抱えている女の子に視線を落とす。


 なるほどぉ……


 不和は心の中でほくそ笑む。


 これはおもしろいモノを拾ったと、不和の興味は女の子へと移っていた。

 とっととこのつまらない肉塊の命は斬り捨ててこのおもちゃで遊ぼうと考える、フェイスレスは体中を切り刻まれて呻き声をあげながら丸まっていた。

 もう終わらせようと太刀を振り上げるのだがその瞬間、背後から怒声が響く。


「動くなああっ!!」


 振り返るとそこには銃口を向ける者の姿、初老と言うにはもう少し老け込んだ感じの男がそこには居た。


 それはベテラン刑事の三嶋源治であった。


「武器を捨てろおっ!なにもするなよぉ、下手に動いたら撃つからなぁ」


 強い口調で不和に太刀を捨てるように命令した。



 この無茶苦茶な状況に源治は困惑していた。

 経験豊富なベテラン刑事の源治でさえもこんな経験は初めてである、刃物を手にした男が人を斬りつけその脇に子供を抱えている、そしてその近くでは少年が血を流し倒れ傍らで少女が泣いている、さらに奥には制服を着た警官が二名倒れている。

 こんな刑事ドラマのような、いや最早これはホラー映画だ、こんな現場にまさか出くわすことになるなんて考えてもいなかった。

 警察官になって30年、内25年は刑事として殺人のような凶悪な事件を追い続ける人生であったが、犯人に向けて拳銃を向けるなんてことは今の今まで一度もなかった。

 正直源治は動揺する、引けるか? 自分に……、人に向かって発砲することができるかどうか迷う。

 しかし、もし万が一そのような時が来たら迷わず引き鉄を引かなければならない、自分は警察官なのだから、市民の生命を守るのが自分の責務なのだ。

 そして源治のやるべきことは命の優先順位を付けることである、こういう場に於いては女子供の安全が最優先される、一番危険な状態なのは今斬りつけられていた人物か、或いは尋常じゃない量の血を流し倒れている少年かそのどちらかである。

 しかし、やはり最優先されるべきは恐らく人質になっているであろうあの女の子だ。

 源治はじりじりと不和に近寄りながら言う。


「まずはその刀を捨てろよぉ、そしたら女の子だぁ、もう逃げられねえぞ、聞こえるだろ?パトカーのサイレンの音が、ここら一帯はもう完全に包囲されてる、観念しておとなしく投降しろ」


 拳銃を持つ手に汗が滲みこめかみからも流れ落ちる、早く武器を捨てやがれこのイカれ野郎……、心の中でそう毒づくのだが不和はそんな素振りは見せない。

 源治はもう一度大きな声で言う。


「刀を捨てないかあっ!!」


 しかし不和は意にも介さず再びフェイスレスを見下ろすと太刀を振り上げた。


「やめろおっ!」


 源治が引き鉄を引こうとした瞬間、フェイスレスがバっと顔をあげるとその顔から鮮血が噴き出した。


 な、なんだありゃあっ!?


 源治はその光景に訳が分からず引き鉄が引けない。

 不和は降りかかろうとする血液に太刀を向けて振る、その剣技は液体だろうがまるで関係ない様子、軌道を逸らされた血液は身体に降りかかることはなく、側面の壁にかかるとまるで腐った肉の様な臭いを発してコンクリートを溶かしていた。


「ぎゃははははははっ!外道ぉぉぉ、その女々子は一旦おまえに預けておくぅ、でもその顔は必ず貰いに行くからなあぁっ!!」


 いつの間にか民家の屋根に飛び移っていたフェイスレスは、そう言い残すと屋根伝いにもの凄い速度で走り去った。

 それを追おうとする不和であったが背後で銃声が響く、空への威嚇射撃、源治は再び不和に銃口を向けると再度説得を試みる。


「もうやめておけよ、その女の子を離せぇ、次はおめえのことを撃たなくちゃならなくなるぜえ」


 さっきのはなんなのだ? 建物の屋根に飛び移った動き、あれはとても人間のできるものではない、一体なにが起こっているのだ?

 そう思うのだが今は目の前のこの男をなんとかしなければならない。

 サイレンの音が近い、今の威嚇射撃の音に気が付いた者が居れば、或いは市民からの通報でこの場所が特定できていればすぐに応援が駆け付ける、説得が無理ならば時間稼ぎをするしかないと源治は考える。

 不和は動こうとはしない、銃を構えながら源治は芳乃に話しかけた。


「お嬢さん、彼氏さんかい? どこを斬られたぁ?」

「お腹を、お腹を刺されました。おじさん警察の人ですか?」

「そうだぁ、俺は刑事だから安心しなぁ……腹か……」


 源治は焦る、腕や足、背中などを斬り付けられたと言うのであればまだ余裕はある、しかし腹を刺されたと言うのは非常に危険だ、出血量から見るに相当に切迫した状況である。


「いいかいお嬢さん、、もうすぐ他の警官が来るから、それまでその兄ちゃんの名前を呼び続けろいいなあっ!」


 芳乃は頷くと泣きながら健登の名前を呼び続けた。


 さてどうしたものか……


 源治は不和を見据えると悩んでしまう、とにかく女の子を救出しなくては、それが最優先事項である。

 考えていると不和が小さな反応をする、源治は警戒するのだが不和は後方を振り返るとその道の先をじっと睨み付けた。

 視線の先には袈裟を纏った坊主の姿、右手には錫杖を、左手には顔の前で拝むように数珠を持つ、その坊主はお経を唱えながらゆっくりと歩いて来るのだが五メートル程前まで近づくと足を止めて言い放った。


「見つけたぞ不和」

「ほぉ……一ノ瀬玄隆斎いちのせげんりゅうさいの小倅が追ってきたか……」

「いつまでも親父とセットで覚えてんじゃねええええっ!俺は一ノ瀬佐ノ介だっ!」


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