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神器の巫女  作者: あぼのん
第四章 道に外れし世迷人
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第11話 いいから早く来てよ弥命ぉっ!!

前回までのあらすじ


ファルコンの車で駅前まで送ってもらいそこから歩いて帰る道すがら、健登と弥命は海で出会った女の子に再び出会う。

こんな所で再会できるなど奇跡であった。そしてそれと同時に女の子を救えるチャンスは今しかないと芳乃は行動に出る。

女の子の身体を確認するとそこには筆舌に尽くしがたい悪意の痕跡があった。芳乃は女の子のその姿にすぐに助けてあげられずにごめんねと涙する。

その時通りに現れた警察官、親に虐待されている子供がいると相談しようとするのだが信じられない光景が目の前に広がる。

健登と芳乃の目の前でフェイスレスに顔を焼かれ、奪われ、絶命する警察官二人。

フェイスレスは三人の存在に気が付くと「みつけた」と歓喜の声をあげるのであった。

 まるで壊れたスピーカーがハウリングを起こしたかのような不快な金切り声、どこから出ているのか気味が悪いことこの上ない。


「今だっ!走れ芳乃っ!!」


 その合図で芳乃は女の子を引っ張り走り出そうと振り返るのだがすぐに足を止める。


「なにやってんだっ!早くっ…」


 健登は怒鳴り振り返ると芳乃が止まった理由を理解する、行く手に立ち塞がる大きな人影。身の丈六尺以上、今で言えば180cm以上はありそうな大男が、それはまるで落ち武者の様な出で立ちで立っているのだ。


「邪魔をするなよ外道ぉぉっ!その女々子(めめこ)の顔はオレがもらううううっ!!」


 後ろからは大声を上げて迫ってくる顔面血塗れの男、目の前には謎の大男、どっちだ?どっちに行く? 迷うがそんな暇はない。


「前だっ!そのまま走れっ!!」


 大男の居る方を選択、芳乃が健登に言われて走り出すと女の子も手を引かれ黙ってついてくる。

 よかった、ちゃんとついてきてくれた。そう思い安堵する芳乃であったが大男の横を通り過ぎようとした瞬間、芳乃は顔に衝撃を受けて横に倒れ込んだ。

 大男が裏拳で芳乃の頬を殴り飛ばしたのだ。


「てんめええええええええええええっ!!」


 健登が激怒し怒鳴りながら大男に殴りかかろうとするのだが、直後芳乃は信じられない光景に目を疑った。


「う……そ……」


 健登の背後、腰よりも少し上から飛び出る影、西に傾き始める太陽の逆行を浴び黒い塊が淡いオレンジ色の光に縁取られる。それはちょうど反対側、腹の部分から突き刺さり貫通した太刀であった。


 大男は口元に笑みを浮かべるとそれをズルリと引き抜いた。

 血の流れる腹を押さえながら健登はその場にうずくまると吐血する、大男はその傍らで無表情のまま立ち竦んでいる女の子の襟首を掴むと、そのまま持ち上げて顔面血塗れの男に向けて言い放った。


「この幼子の顔が欲しいのだろう!? 来いっ!フェイスレスっ!!」

「外道ぉぉぉぉおおおおおっ!!」


 フェイスレスは不和に向かって走り出す。顔から出る高熱の血液を浴びせかける攻撃は女の子にかかる恐れもある為使えない。

 フェイスレスはその女の子の顔が欲しい、自分の顔に相応しいと一目見た瞬間に直感したのだ。

 まるで表情のない、なにもないまっさらな状態の顔、あれであれば自分の顔に張り付けた後に表情を一から作り上げることができる。

 これまでに奪ってきた人間の顔はどれもこれも様々な感情に合わせた様々な表情を沢山持ってはいたが、それは自分の感情により作り出された表情ではない、それが染みついた顔を操るのは難儀であった。だからしっくりこなかった。上手く表情を作れなかったのだ。


 ほしいほしいほしいほしい自分の表情(かお)がほしぃぃぃぃぃいい


 飛び掛かり奪おうとするが不和に簡単に躱される、まったくもって忌々しい奴である。

 人斬り外道、誰に雇われたのかは知らないが自分の命を執拗に狙ってくることにフェイスレスは苛立ちを感じる。


「あぁぁぁ~……外道ぉぉぉ、なんで? なんでオレの邪魔をするんだぁぁぁぁ」


 その問いに不和は答えない、女の子を左脇に抱え右手で太刀を構えるとフェイスレスは迂闊には動けなかった。

 不和は強い、人斬りの操る剣は何百年と言う歳月をかけて、ただ命を奪うためだけに練り上げられてきたもの、それは最早達人の域を遥かに超えている、そしてその域に達するまでに不和は数え切れないほどの死線を潜り抜けてきているのだ。

 お互いの隙を窺いながらしばらく対峙する二人、その横で芳乃は健登に駆け寄る。


「健登っ!健登っ!いやっ、血がこんなに、健登、ねえ健登ってばっ!!」


 返り血で真っ赤な鮮血に染まる芳乃の手と衣服、背中の血が流れ出る部分を押さえて止血しようとするのだが次々と溢れでてきて止められない。

 健登は痛みを堪えなんとか呼吸をしようとするのだが、上手く息を吸えない、腹に力が入らない苦しい。


「かっ、はっ…し…の…よ…しの」

「どうしよう血が止まらないっ!どうしようやだよっ!止まってよっ!こんなのやだよぉ」


 芳乃は半パニック状態である、健登は朦朧とする意識の中でなんとか芳乃の肩を掴み声を絞り出す。


「姫宮を…呼べ……神器を持てば、助か…る」


 そうだ、あの剣を持てば傷はすぐに癒えるんだ、悠紗と戦った時にも何トンもある巨大な重機に押し潰されたのに帰る時にはケロっとしていたのだ。

 芳乃はそれを思い出すと弥命に助けを求める為、鞄の中からスマホを取り出すのだが血で滑って上手く操作できない、もどかしい、それでも焦るな、焦っちゃダメだ、そう頭の中で繰り返しながら履歴の中から弥命の名前を見つけて電話を掛ける。


 はやく出てっ!弥命っ!!


 電話は3コールもしない内に繋がる


『もしもし?芳乃さんですか?どうし…』

「弥命お願い助けてっ!健登が、健登が刺されたのっ!どうしよう? 血が止まらないの早く助けに来てえっ!!」


 悲鳴のように叫ぶ芳乃であったが、弥命は事態が把握できない。


『どうしたんですか芳乃さん!? 落ち着いてください、守羽くんに何かあったのですか?』


 電話口の芳乃の声は涙声であった。

 これは只ならぬ状況であることを察する、弥命はなるべく柔らかい声で相手を落ち着かせる為にゆっくりと問いかける。


『なにかあったんですね? すぐに行きますから、落ち着いて状況を教えてください』

「わからないの、どう説明したらいいかわからない、海で会った女の子が居たからその子を助けようと思ったら変な怪物が現れて、そいつがお巡りさんを殺しちゃったのよっ!そしたら別の男に健登がお腹を刺されたの、あぁどうしよう、背中からもいっぱい血がでてる、どうしたら止まるのよこれっ!いいから早く来てよ弥命ぉっ!!」


 刺された? 守羽くんが? 警官が殺されたとも言っている、芳乃が取り乱している為詳しくはわからなかったがこれは非常事態だ。


『わかりました芳乃さん、すぐに向かいます。まだそれほど離れてませんから、すぐに行きますから場所はどこですか? ……自宅のすぐ近くですね? わかりました。守羽くんはまだ意識はあるんですね? 気を失わないように声を掛け続けてください、止血は傷口の上から直接布を当てて強く押して、呼吸は深くはしないように、細かくゆっくりするように言ってください…いいですかっ!芳乃さんっ!!あなたが落ち着いて行動しなければなりませんっ!できますねっ!!』


 ゆっくりと的確にアドバイスをした後に、弥命は強めの口調で芳乃に激を飛ばす。

 パニック状態でなにも処置をできずにいたら健登は死んでしまうかもしれない、今この場で健登の命を繋ぐことができるのは芳乃だけなのだ。


「グズ…わかった弥命、やってみる…ズズ」


 鼻を啜りながら返事をする芳乃であるが、弥命の声を聞いて少し落ち着いたのであろう、電話を切ると鞄の中からタオルを取り出し、健登の服を捲り上げると押し当てる。


「ねえ健登っ!返事して、弥命がすぐに来るからね、がんばって健登っ!」

「す……まねえ……芳乃……いいから、おまえは…逃……げろ」

「ば……馬鹿なこと言わないでよっ!そんなことできるわけないでしょっ!どうしてあんたはいつもそうなのよっ!自分の事は二の次で他人の心配ばかりしてっ!!もう……もうやだよ……あぁぁあぁん」


 泣きながら必死で傷口を押さえるのだが、健登は苦しそうに顔を歪め横たわってしまう。

 芳乃は健登の名を呼びながら弥命の到着を待つしかなかった。



 通話を終えるとハンドルを握っていた紅葉が心配そうな面持ちで弥命に問いかける。


「みこちゃん? なにかあったの?」

「紅葉さん戻ってください緊急事態です。すぐに守羽くんの自宅まで行きます。」


 弥命の只ならぬ気配に紅葉は緊張した表情で頷くと、いつものほんわかした雰囲気から一変、顔を引き締め姫巫女様の護衛モードへと意識を切り替える。


「わかりました姫様、すぐナビに健登さんちの住所を入力しますね」


 しまった……


 弥命はすっかり忘れていた。紅葉が方向音痴であることを、額に手を当て項垂れながら言う。


「わたしがナビしますから飛ばしてください……」


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