第9話 合点悠紗ちゃんっ!あれだねっ!!
前回までのあらすじ
ナンパ男達を撃退した健登達御一行は、その後も海水浴を楽しんでいた。
お昼にしようと屋台に並ぶと、そこでアルバイトをしているヒュプノスとタナトスに出会う、ハーデウスもまた同じビーチで悠紗の食費を稼ぐ為に、神様三人は身を粉にして働いていた。
そんな三神を憐れみつつそろそろ帰ろうとしたのだが、そこで健登は砂浜で遊んでいて波に攫われかけた少女を助ける。
迷子かと思っていると少女は、駆け付けた母親に虐待とも受け取られかねない折檻を受けるのであった。
車中で芳乃と弥命に手当てを受ける健登は、いまだ怒り冷めやらぬ状態かと思いきや意外に冷静であった。
「痛……」
「あ、ごめん染みた?」
擦り傷だらけの顔に消毒を塗ってやる芳乃もまた酷くやるせない気持ちであった。
二人黙りこんで暗い雰囲気を醸し出している、なんだか車中が陰鬱な空気になっているので気分転換にと悠紗はラジオを点けた。
『続報です。昨日東京都内の宿泊施設で発見された身元不明の男性の遺体は同市内に住む○○大学3年生、堂林秀雄さん21歳であると警察からの発表がありました。一昨日東京湾内で発見された女性の遺体となんらかの関係があるとの情報も入っており、警察は事件事故両方の可能性を考えて捜査をしているとのことです。』
まったくもって気分転換にもならない。
「ええいっ!辛気臭いっ!ファルコンあれを流すぞっ!!」
「合点悠紗ちゃんっ!あれだねっ!!」
そう言うとカーステの電源を入れて選曲するファルコン。
流れ出したのはアニメ「PRETTYLIVE」の作中に出てくるアイドルユニット「Me♪♪dy」の1stアルバムであった。
曲が流れだすとノリノリでリズムを取る悠紗と、そして目を輝かせてどこから取り出したのかサイリウムを振り出すクローディア、各メンバーのソロパートでは器用にそのイメージカラーへと瞬時に切り変えていた。
(今は恋に興味はないの~♪ だって青春したいから~♪ Song for melodyこの歌を口ずさむのよ~♪)
実は男子達もPRETTYLIVEは大好きである、車中は大合唱もう喧しいくらいの大宴会となるのだが、健登の気分はまったく晴れないのであった。
源治が昼過ぎに聞き込みを始めてから4時間余りが経とうとしていた。
夏のお日様は西に傾こうとしているもののまだまだ沈む気配はない。
昨夜、とは言っても日付は今日になっていたが、深夜に男の遺体が見つかってから朝方に少し仮眠を取った程度で碌に寝ていない、刑事の仕事なんて言うものはこんなものである。
ドラマや映画や漫画なんかでは悪党どもを追いつめて大立ち回り、拳銃を格好よくぶっ放してハッピーエンド、そんな華やかな職業の様に描いているがとんでもない、こうやって足を棒にして延々と地道に聞き込みをして回る、刑事の仕事の9割方がその繰り返しだ。
それでも日本の国民性なのだろうか、警察だと言っても快く質問に応じてくれて何かあれば連絡しますよと、大抵の人が言ってくれるのはまあありがたいものだ。
一般市民からの通報と言うものは侮れない、ほんの些細な気付きからの一報が犯人検挙に繋がるケースもざらである。
研究室に閉じこもって証拠品と睨めっこしている研究員にはわからないであろう。
聞き込みを開始してからすぐに、ラブホテルで見つかった被害者の足取りは掴めたのだが、もう一人の容疑者の方である女の行方は掴めないままだった。
被害者は遺体で発見される前日の夜7時過ぎから駅前の居酒屋で友人達と飲み会、今の若いもんたちは合コンと言うらしいが、その店で二時間ほど飲むと近くのカラオケボックスへと移動、そこで被害者はなにやら店員と揉め事を起こしているらしいのだが特に事件に発展するわけでもなくその場は収まったらしい、そのおかげで被害者の顔を覚えていたらしいのだが、1時間も居ない内に被害者だけが店を出て行くのを同店員に目撃されている。
そこからの足取りも容易に判明する、目撃者が多数いたからだ。
被害者は自宅最寄の駅で降りると一度帰宅しようしたのであろうが、その後引き返してくる、その時には既にホテルの監視カメラに映っていた女性と一緒であった。
駅から自宅までの間にどこかでナンパでもしたのだろう。被害者は女性と二人ラブホテルへとしけこむことに、そこでお楽しみの筈が数時間後に遺体で発見されることになるなんてその時は思いもしなかっただろう。
部屋で見つかった遺体は検視報告を待つまでもない、誰がどう見ても男であった。であれば犯人は一緒に居た女であると考えるのが妥当だ、女は男を殺すと服を奪い自分の服はどこかへ捨て、髪は室内で切ったのであろう、切った髪はトイレにでも流し、監視カメラと言ってもそこまで顔が鮮明に映るわけではない、上手くカモフラージュしてホテルを出て行ったのではないかと推理する。
ちょっとばかし強引すぎるかぁ……
或いは美人局、別の男が待機している部屋に被害者を連れて行き情事の現場を押さえると、脅迫して金品を要求したところ揉み合いになり殺害、男が被害者に成りすましチェックアウトした後、女は裏口辺りから逃走した。
これの方がしっくりくるな
そう思うのだがどうしても引っ掛かる、犯行動機や犯行の手口もさることながら、やはり一昨日港で見つかったあの女性の死体との関連性が否定できないからだ。
今回の犯行が美人局によるものであれば、あの女性の死体とは結びつかない。
となればやはり別人による犯行なのか?たまたま同じ所轄内でたまたま顔を焼かれた死体がそう日も開かない内に見つかり、たまたま目や鼻や口の孔がない状態になったと言うのか。
そんな馬鹿な話があるか……
口の中で言葉を噛むと、ズボンのベルトに取り付けている携帯ケースから着信音が鳴る、スマホなんていう洒落た物は性に合わないので持っていない、ただ単に使いこなせないだけなのだが、源治が電話に出ると掛けてきたのは監視カメラの映像を一緒に見た若い刑事、山口であった。
『ゲンさん今どこに居るんですかっ!?』
「あぁん?ガイシャの降りた駅の周辺でジドリだよ、どうしたんだ?」
電話口の向こうでどうも慌てた様子の山口の声に源治は眉を顰める。
『今入電で、顔から血を流している男が徘徊しているって通報が何件も入ってるらしいんですよ』
「なんだってえっ!?そいつぁどこだ?」
顔面から流血だと?もしかして犯人に襲われたのか?源治は場所を聞くと怒鳴り声を上げた。
「馬鹿野郎おっ!すぐ近くじゃねえかっ!!キンパイはかかってるのかっ?」
『緊急配備なんてかからないですよ、警ら隊のPCに至急報は出てるでしょうから現場には向かってますよ』
そうしていると鳴り響くサイレンの音、源治は「アホ共がぁ」と毒づくと電話を切り走り出す。
犯人は連続殺人鬼の可能性もあるのだ、「キンパイかけて即座に包囲網を敷かねえとまた逃げられるぞ」頭の中で呟いたつもりが声に出していた。
一刻も早くその男を見つけなくてはならない、源治は何か虫の報せの様なものを感じていた。
もしかしたらその被害者と思われる男が危険人物かもしれない……急がねえとやばいことになるかもしれねえ
それは本当に単なる予感でしかなかったのだが、この源治の予感は後に的中することになる。




