第8話 きみがきみの鬱憤を晴らす為にあの人達に怒りをぶつけても、それは後であの女の子に帰って行くだけだよ
前回までのあらすじ
海でクローディアがナンパされるも返り討ちにしてしまい一触即発状態になってしまった健登達御一行。
なんとかその場を穏便に済ます為に弥命が提案したのはビーチバレー対決、これで白黒ハッキリつけようと言うのだが、弥命やクローディアそして悠紗に日々鍛えられていた芳乃にボコボコにされたナンパ集団は遂に暴力に訴えようとする。それに立ち向かったのは坂や橋場達貧弱男子達であった。
結局ボコボコにされてしまう男子達であったがファルコンがナンパ男達を追っ払い、身体を張って守ってくれた男子達の苦労を女子達は笑顔で労うのであった。
※注意※
この話から胸糞な描写が増えます。
まあそんなこんなでその後は一同夏の海を満喫、正午あたりになりそろそろ腹も減って来たので昼飯にでもしようとなった。
買い出しじゃんけんの結果、健登と芳乃とクローディアが買い出し係となる。
「守羽ー俺はわかめラーメンとコーラとかき氷なー、イチゴ味だぞイチゴー」
「じゃあ、俺は焼きそばとカレーとあと適当になんか飲み物ー、ちゃんと俺好みのものじゃなかったらやり直しになるからなー」
ここぞとばかりに健登をこき使おうと色々と注文してくる男子達に、健登はなんだか納得いかないが負けたもんはしょうがないので、ブツブツと文句をいいながら注文を聞いている。
みんなの要望を確認し手分けして三人屋台に並ぶのだが、健登の並んだかき氷屋がえらい繁盛、もの凄い行列ができていた。
その列には若い男ばかりが並んでいるのだが前の方で突如歓声があがる、なにがあったのかと健登は背伸びして身を乗り出し屋台の中を見ると絶句した。
どうやら店員の女の子達がサービス旺盛なパフォーマンスをしているらしい。
金髪のおさげを揺らした女の子は黒のビキニを身に着けているのだが、シロップのかけ方が異様にエロい、なぜ練乳をわざわざ胸の谷間に垂らす意味があるのか、零れたそれを指で掬うとペロリと舐めて完成した練乳いちごのかき氷を客に渡している。
そして氷を削っているもう一人の銀髪おさげの女の子、同じく黒のビキニを着ているのだが、機械の取っ手をぐるんぐるんと回すたびにそのバストがぷるんぷるんと揺れて列待ちの客達の視線を釘付けにしている、流れ落ちる汗が胸の谷間に吸い込まれ、そして飛び散るのだが氷と一緒に容器に落ちると大当たり、それは客達の間で「天使の滴入り」と命名され高値で取引されていた。バカじゃねえの……
げんなりしながら自分の番になると店員の二人が健登に気が付く。
「守羽健登?奇遇だなこんな所で」
「能子ーなにやってんだできたぞーって、守羽健登なにやってんだこんな所で?」
皆さんは覚えているだろうか?日布能子と田名透子と言う名の者達を、そう、店員はヒュプノスとタナトスであった。
「おまえらこそなにやってんだよ? あ、イチゴとメロンと抹茶ミルクな」
「私達は家計を支える為にここでアルバイトをしているのだ、抹茶ミルクは450円だから全部で1050円だ」
ヒュプノスが答える、なんでも夏の海は書き入れ時だとハーデウスに言われてここで働いているらしいのだが、一応見た目はかわいい女の子なのであっと言う間に評判になり繁盛しているらしい。
それにしても仮にも神様である二人がバイトをしているなんて、貧乏とは聞いていたがなんだか哀れに思えてきた。
「ハーデウスはなにやってんだよ?」
「ハーデウス様は向こうでカレー屋をやっている」
ヒュプノスの指差す方を見ると向こうには若い女子の行列ができていた。
なんでも冥界カレーとか言うブラックカレーが人気らしく、さらにハーデウスに魅了された女の子達が毎日のように行列を作っているらしいのだが、列に並んでいる芳乃が青褪めているのが見えるから、たぶん気が付いたんだろうな。
そして隣で氷を削っているタナトスが不満げな顔で言う。
「わたしは本当はこんなことやりたくない、家でゴロゴロしていたいのに、メドゥーサの奴が大飯食らいだから食費を稼ぐのも大変」
どうやら悠紗の食費を稼ぐ為に三人身を粉にして働いているらしいのだ。
ハーデウス曰く、「悠紗は学生なので学業が本分、家計の事は保護者の三人がなんとかしなければならない」らしいのだが、そんな設定に律儀に従っているなんて真面目な奴らだな。
「おまえが居ると言うことはメドゥーサも来ているのか?あとで手伝いに来いと言っておけ」
「いいけど絶対断ると思うぞあいつ」
「だろうな……」
そんなことをヒュプノスと話しながら健登は出来上がったかき氷を受け取るのだが、なんだか待機列にいる男達の視線が痛い、なんでだろう?
とりあえず溶けちゃうのでかき氷だけ持って戻ろうとすると、芳乃がカレーを手に駆け寄ってきてげんなりしながら言う。
「なんかあのカレー屋にホモの人がいたぁ……あんたのこと根掘り葉掘り聞かれたからまだあきらめてないわよあれぇ」
マジかよあいつ、勘弁してくれ……
かき氷を持って戻ると、馬鹿か先にラーメン買ってこいよ、と言われて苛っとする健登であったが、甲斐甲斐しくもう一度ラーメンを買いに行くのであった。
昼を過ぎ14時半くらいにもなってくると少しずつ海水浴客も減って来た。
あまり長居すると帰りの渋滞で遅くなってしまうのでそろそろ帰り支度を始めるのだが、そこで健登は海辺に居る人物に気が付く。
それは小学校1~2年生くらいの小さな女の子であったのだが、海だと言うのに水着を着るでもなく長袖長ズボンを着用し、一人波打ち際で砂堀をして遊んでいた。
周りには親や友達がいる様子もないのでおかしいなと思いつつ暫く見ていたのだが、唐突に打ち寄せた高波に飲まれる女の子、大人であればたいした波ではないが小さな女の子がしゃがんでいたのだ。
あっと言う間に波は女の子の身体を攫っていく、健登は瞬間走り出していた。
海に飛び込むと女の子を抱えて岸に上がってくる、海水を飲んでしまったのだろうか、ケホケホと咽ているがほんの一瞬の出来事だったのでまあ心配はないだろう。
「大丈夫かっ!?」
健登は険しい顔で女の子に問いかけるのだが、小さな女の子にそんな大声で聞いたらびっくりしてしまうだろう。
女の子は何も言わずに俯いているのだが、その時健登は思いっきり誰かに後頭部を引っ叩かれた。
「そんな怒っているみたいな聞き方したら怖がっちゃうでしょうっ!」
芳乃は健登を叱ると、にこにことしながら女の子に優しく話しかける。
「ごめんね、このお兄ちゃん馬鹿だからすぐ怒鳴るのよ、あなた一人?お父さんとお母さんは?」
そう言う芳乃の問いにも女の子はなにも反応しない、余程の人見知りなのだろうかずっと下を見つめたままモジモジと……いや、これは恥ずかしがっているわけでも怖がっているわけでもないように見えた。
なんだかこの女の子には表情がないのだ、生気がないと言ってもいい、まるで死人のような顔、こんな子供が海に来てはしゃぐでもなく一人で無表情のまま砂をほじくり返していたのだ。
健登と芳乃は困ってしまう、なにを聞いても女の子は返事どころか無反応なのだ。
どうしたものかと思っていると遠くから駆け寄ってくる女性の姿、きっと母親に違いない、二人は安堵するがその女性から出た言葉に驚く。
「おまえなにやってんだよっ!探したんだぞっ!!」
そう言うと健登達には何も言わず睨み付けると、女の子の手を掴んで力任せにぐいっと引っ張る。
「おまえが海に行きたいって言うから連れてきてやったのに、一日中つまらなそうな顔しやがったと思ったら迷子になんてなってんじゃねーよっ!」
本当に母親なのだろうか?姉?それくらいの年齢にも見える、派手な水着に焼けた肌、頭は金髪に染めていて化粧も濃い、どこからどう見てもアレな人だ。
女の子はその言葉にようやく反応して小さな声で呟く。
「ごめんなさい……」
「ああっ!?聞こえねーよ!」
そう言うと頬を叩く、女の子は何も言わずに俯いている、その顔にはなにもない、怒られて怯えるわけでも悲しむわけでもなく、ただただ無表情な顔をしていた。
その様子を黙って見ていた健登と芳乃であったが、もう我慢の限界であった。
いくらなんでもやりすぎだ、子供が迷子になったのを心配して、親の言うことを聞かないからこうなるのだと注意する為、そうとは到底思えないような叱り方に文句を言ってやろうとする健登であったが
「ちょっと!やりすぎじゃないですかっ?」
先に口を開いたのは芳乃であった。
言われて女はキッと睨み付けてくるのだがすぐに笑いながら言う。
「あーめんごめんごー、マジあんがとさーん、これうちの教育方だから気にしないでー」
なんとも舐めた態度である、芳乃のカチンと来た様子を察して健登は「やめろ」とそれを宥める、いつもなら立場が逆なのだが芳乃は相当頭にきたのだろう、健登以上に憤慨している様子だ。
そうこうしていると近づいてくる数人の男女、その中の一人が女に話しかける。
「おーい、ガキ見つかったのかよ、だから一緒に来るのは嫌だったんだよ」
「ごめーん、マジでちゃんと教育しとくからさー」
そう言いながら健登達にはなにも言わずに女の子を引っ張りながらその場を去ろうとするのだが、なんだかこのまま行かせるわけにはいかないと思い健登が怒鳴った。
「おい待てよっ!」
「あん?なんだこのガキ?」
呼び止められて、男が睨み付けると負けじと健登も睨み返す。
一触即発の状況だが女が男に説明する。
「あーそいつらがこいつ見つけたみたいでさ、一応礼は言ったんだけどまだ絡んでくるんだよねー」
「あぁ?ガキが迷子の面倒見たからってたかってきてんのか?」
その言葉に健登は激怒する。
「な!?舐めんじゃねえっ!おまえら、ちっちゃな女の子が迷子になってたのになんで心配する様子も見せないんだよっ!」
「はあ?心配したから探してたんだろうがよ、なに絡んできてんだおめえ?」
「それが心配してるって態度かよ」
なんだなんだと他の男達も近寄ってくる、3人の男達に囲まれるも健登は怯む様子もない、まーた意地になっているのだがここで退くような奴じゃないと言うことは百も承知だし、今回は相手を許せないのは芳乃も一緒だ。
しかしながら、これは少々まずいかもと芳乃は駆け出し助けを呼びに行くのだが後方で怒声が響く、どうやら始まってしまったようだ。
「みんな大変っ!健登がまたやらかしたの、お願い早く来てっ!!」
健登がやらかしたって、初っ端はおまえだろうがと言う突っ込みはともかく、芳乃の言葉に一同が状況をなんとなく理解、取っ組み合いの喧嘩になっている現場に駆けつけると男子達は健登を羽交い絞めにして引き離した。
「ざっけんじゃねえええっ!離せおめえらっ!あいつらマジ許せねえっ!!」
「やめろ馬鹿っ!これじゃあどう見てもおまえの方から喧嘩売ってるようにしか見えねえぞアホっ!」
坂の言う通りである、まあ一人で三人も相手にしていたのだからボコボコになっているのは健登の方なのだが、男達も数発健登に殴られたのだろう、顔をおさえながら忌々しく睨み付けてきている。
するとファルコンがスッと前に出て深々と頭を下げた。
「大変なことをしてしまいすみませんでした。これは保護者である私の監督不行届の所為です。本当にすみません」
遠くに監視員の姿が見える、誰かが呼んだのであろうか?
男達もこれ以上騒ぎを大きくしたくないのか、「しっかりガキの躾けをしとけよおっさん」と言いながら、ファルコンの頭をペチペチと数回叩くと砂浜に唾を吐き捨てて去って行った。
その様子を見て健登はさらに激怒、こうなってはもう止まらないのだがファルコンが健登の眼前にグイッと顔を近づけると真剣な声で言う。
「守羽君、きみの気持ちは痛いほどわかる、けれども私達にはなにもしてあげられない、ここできみがきみの鬱憤を晴らす為にあの人達に怒りをぶつけても、それは後であの女の子に帰って行くだけだよ、悔しいかもしれないがそれが現実だ」
そう言われ去って行く奴らの後ろ姿を見ると、「おまえの所為で変なガキに絡まれたじゃねーかっ!」と女の子は頭を叩かれていた。




