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civetta



アリオト・レムードは王国騎士団に所属し、支部であるブレッザの副師団長としてその地位を築き上げていた



「キアラ、着いたよ」



腕に抱きかかている小さな娘に顔を向ければ、彼女は物珍しげに周囲を見渡している


今まで外出すること事態殆どない為、街中から騎士団まで落ち着きなく無防備だった


そんな年相応な娘の反応にアリオトは自身でも気付かぬ内に安堵した



「あれ?副師団長、今日は非番ではなかったのですか?」



迷いなく敷地内を歩いていると厩から出てきた部下の騎士団員が小首を傾げながらアリオトに声をかけてきた



「ああ、ちょっとランディに用があってね」


「それでしたら救護室にいるのを見ました!」


「そうか、ありがとう」


「いえ!」



ちょっと力み過ぎじゃないかとキアラが返答した騎士を見やれば憧憬の眼差しで彼は父親であるアリオトを見ている


そこで漸くキアラは父が人から尊敬される様な位置にいるのだと知った


改めて父親を見つめれば、確かに顔は整っている


濃い灰色の髪にキリッとした眉


二重の目は鋭いが口元は柔らかく凜とした高潔さが滲んでいる


見た目は非常に男らしいが柔和な人柄が態度にも現れていた



そこで、不意にキアラは自身の髪に触れる



少し癖のある真っ黒な髪


父親とも母親とも違うそれはキアラにとって重要な意味を持っていた


光に透かせば焦げ茶色にも見えるそれは確かに梅木千歳の色だった


顔立ちも心なしか千歳に似ている


それはキアラが千歳であると云うアイデンティティだ



「ランディ」



ぎゅっと自身の髪に触れたまま思考の海にに潜っていたキアラは耳元で聞こえた呼び名に反応し顔を上げた



「副師団長?」



気付けば真っ白な廊下に場所は変わっており、扉から出てきたのだろう青年がドアノブから手を放し此方に駆けて来た



「今日は非番の筈では?」


「お前に少し私事でお願いしたい事があってね」


「私事――…そちらの子どもは師団長のお子さんですか?」


「ああ、キアラだ。キアラ、ランディだ。第3席の位に付く優秀な私の部下だ」



ほら!と未だ腕に抱え上げられていたキアラは向かい合う形で前に突き出された


パチリと瞬けば近い位置に青年の顔が来る



「キアラ、です」



もう一度パチリと瞬きザッと青年の姿を見る


赤銅色の髪にバッサリした睫毛を持つパッチリクリクリの目


女性なら羨む様な目だが、しかし輪郭も体格も明らかに男でありアリオトよりは低いがそれなりに身長も高い


キアラをパチクリと見詰める榛色の瞳はとても綺麗だった



「えっと、始めましてキアラちゃん?俺はランディと言います」


突然のご対面に彼も動揺しているらしい



「それでだね、ランディ。改めて君にお願いがあるんだけど、君のディーオでキアラのディーオを視て欲しいんだ」


「ディーオを…でありますか?」



思いもよらない願いにランディは疑問が隠しきれない



「ああ、先月キアラは生誕の儀を受けたのだが…ディーオが少し特殊でね。私のディーオでは視ても詳しい事は解らなかったが、君のディーオならと思ってね」


「…わかりました。場所を変えますか?」


「そうだな、救護室には誰かいるか?」


「ノーブルがいますが…」


「ならば中で行おう」


アリオトの促しによりランディは今出てきた扉を再び潜り抜けた



「あれ?ランディ…と、副師団長?」



中には先客がいた


くるくると強い渦を巻くススキ色の髪に垂れに垂れた細い目


薄い唇と掘りの浅い顔立ちは彼の印象を淡くさせる



「やあ、ノーブル。失礼するよ」


「…出た方が良いですか?」



困った様に顔を潜める彼は薬草をすり潰していた手を止め、腰を浮かそうとする



「いや、構わない。君にも居て貰った方が助かるかもしれないからね。ほら、キアラ。彼はノーブル。我が騎士団の救護長さ」


「副師団長、それではわかりませんよ。…こんにちは、キアラちゃん。僕はノーブルと言います。イタいをないない出来るんだよ。よろしくね!」



目線を少し下げ、ニッコリと告げて来るノーブルは子ども慣れしている印象を受けた


「おねがいします」



キアラも拙く答えれば、良くできましたと言いながら頭を撫でられてしまう



「えっと、副師団長…チヴェッタを喚びましょうか?」


「ああ」



居心地悪げにランディが声を上げ、アリオトは近くの椅子にキアラを座らせながら頷いた



「キアラ、お前もディーオを喚びなさい」


「はい」



キアラはヨルと声を落とす



「ギィー」



すると、いつもの様に黒い霧を纏い現れたヨルは不満げにキアラの手の上で尻尾をたしたしと打ち付ける



「チヴェッタ」


同じ様にランディが喚べば現れたのはバスケットボール大の毛玉


灰茶色の毛色にフワフワの身体


手も目も足も見当たらない中で、唯一ちょこんと取って付けた様な赤銅色の嘴が鈍い光沢を放っていた



「チヴェッタ、頼む」


『んー、はーい』



非常に緩い声が響いたと思えばキアラは次の瞬間ヒィッ!?と内心悲鳴を上げ身体をビクつかせた



『どれどれ~』



身体の半分以上は占める割合でカッ!と勢い良く開かれた両眼


突然の事にヨルも驚いたのかミミと尻尾をピンと立てギチギチと威嚇の様に鳴いている



『あ~、属性なしぃ?能力も見当たらないしぃ。う~ん、あ!うわぁ~、でも何か危険度MAXだねぇ。うーん、でもディーオとの絆は強固だよ。まだ幼いから思考までは読めないかなぁ』


「属性も能力もないのに危険なのか?」


『始めてだよねぇ。今まで視てきたディーオと違うのは確かだよー。何かね、黒いの!』



まあ、確かに黒いけど…


ヨルを見ながらキアラはよしよしと不快そうに身体を震わすヨルの頭を人差し指で撫でる



『アリオトがお考えの方法で良いんじゃないかなぁ。それが一番最良だと思うよぉ』


「こら!副師団長の思考まで覗くな!」


『えぇー、見えちゃうんだよぉ。ランディのいけずぅ!』


「あ!こら、つつくな!」



1人と一匹(?)が戯れるのを視界の端に収めながらアリオトはハァッと軽い溜め息をつく



「仕方ないか」


「副師団長?」


「まだ幼い娘には酷だと思ったが」



ノーブルの心配そうな表情に気付きなながらも敢えて触れず、アリオトはキアラを再び抱きかかえた



「帰ろう、お母さんが待ってる」



そう呟いた彼の声は気落ちした覇気のないものだった




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