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王都に程近い〝ブレッザ〟と呼ばれる街でキアラは生まれた
特徴と云えば坂と高い建物が多い事だろうか
内陸に位置する為、海はないが変わりに〝セルぺンテ〟と言われる大きな河が流れているのもまた特徴だった
「ヨル」
キアラは二階に位置する自室の窓から外を眺めていた
呼び掛けに応える様に小さく鳴き、現れたディーオにキアラは肩に乗る様示す
「ほら、これがわたしたちが住む街だよ。キレイだよね」
煉瓦造りを基とした建物は元日本人としてはとても美しく感じられた
コンコンコン
小さなノック音が三回
はい、と振り向き答えればギッと鈍い音を立てて部屋の扉が開いた
「キアラ」
「なぁに?おにぃちゃん」
入って来たのはキアラより4つ年上の兄だった
名はアルフレード
母親譲りの焦げ茶色の髪に同年代より高い背
顔立ちも母親に似て優しげな垂れ目だった
「キアラのディーオ…まだ生まれないの?」
「え?」
「おかあさんがキアラがみせるまで待ちなさいって言ってたけど、ボクのラルバと遊ばせたいし」
ラルバとはアルフレードのディーオの事である
鼬の様な姿形だが白い毛は光を纏っているかの様に淡い
柿の種形の深緑の瞳がとても綺麗だった
「生まれてるよ」
言われている事が良くわからない
キアラは小首を傾けながら事実を告げた
隠す事でもないし、いずれは必ず目にする事になるのだ
「ほんと!」
パッと顔を輝かせたアルフレードはラルバ!と自身のディーオを呼んだ
するとシュルリとアルフレードの背中から首に巻きつく様にして真っ白なラルバが滑り出て来る
「キアラも!」
期待に満ちた眼差しに兄の意図を悟り渋々姿を隠していたディーオの名を呼ぶ
「ヨル」
すると、キアラの肩辺りに黒い霧を纏いながらヨルは現れた
「ラルバが遊びたいって」
「ギッ」
短く鳴いて答えたディーオから目線を外し、正面にいる兄へと向き直る
「いいみたい、」
「なに…それ」
キアラの言葉を遮ってアルフレードが呆然とヨルを見詰める
「それがキアラのディーオなの?」
「そうだけど」
「黒いし変」
「ギィ!」
アルフレードの言い様に講義する様にヨルが声を上げた
「それに、コワい」
「こわい?」
それはヨルの事だろうか?
キアラはパチリと瞬きまさかと笑った
だってヨルはラルバより小さいし、愛くるしい顔はマスコットキャラクターの様ではないか
所謂、ゆるキャラに属する
そんなヨルを怖いだなんて気のせいだとキアラは小さく笑い片割れと同じ様に怯えるラルバにも大丈夫だと云うふうに笑ってみせた
「ヨルはなにもしないよ」
ね、と問いかければアーとよくわからない答えが返って来たが無理やりキアラは肯定だと納得した
「ね、ヨルもこう言ってるでしょ」
「ギッ」
でも、とアルフレードは不安げに呟く
「やっぱり変な感じがする。おかあさんに聞いてみようよ」
「あ!おにいちゃん!」
止める間もなく部屋を飛び出して行ったアルフレードに、キアラは訳が分からないまま立ち尽くすしかなかった
ディーオは本来、実をもいだ者の中で暫く潜む
それはディーオがその者に適応する為、馴染む為、繋がる為と理由は定かではないが形となるのは数時間から数日を有する
人によって個人差はあるが総じて一度人間と同化しなければならないのだが――…
「キアラ、ディーオを出しなさい」
優しい口調ながらに有無を言わさない物言い
父親であるアリオトを前にキアラはチラリとその横に座る母に目を向ける
心配そうにオドオドする姿に彼女が父に告げ口したのだとわかった
告げ口と云うより相談の方が正しいかもしれないが…
発端である兄のアルフレードはいまこの場にいない
きっと今頃ベッドの上で眠っている事だろう
だから、キアラは両親と向かい合う形で普段は食卓を囲むテーブルについていた
「お前の話を聞く限り、お前とディーオは同化しなかったんだね」
コクンと一つ頷く
「ユグドの根に悪質なモノが入り込むとは思っていない。けど、ディーオはまだ明確にされている事が少ない。だから、キアラのディーオがもし他のディーオと違うなら対処は早い方がいい。わかるね?」
勿論、3歳の娘が理解しているなどアリオトは思っていない
しかし、今は理解しているかどうかが重要ではなく相手を頷かせる事が目的なのだ
案の定、キアラは素直に頷いてみせる
「わかりました。ヨル」
キアラの呼び掛けに、闇色の霧を纏いテーブルの上にヨルは現れた
「どうだ?」
声を掛けずとも後方に音もなく現れた自身のディーオに気付き、アリオトは短く問いかける
『ディーオである事は間違いない。しかし、底は渦巻く闇の様に見えない』
低く清涼な声で告げた熊程はある牡鹿
樹木の様な立派な角にホワイトグリーンの身体
毛並みは白く光、その輪郭を曖昧なものとさせていた
暗緑の瞳が鋭く輝いている
『私よりもチヴェッタの方が適役かと』
「そうか、ありがとうヴァランカ」
アリオトの言葉を後にヴァランカはスッと溶ける様に消えた
「あなた…」
「アン、大丈夫だよ。取りあえず、ランディに頼んでチヴェッタにみてもらおう」
手と手を取り合って憂い合う夫婦をよそにキアラはチラッとテーブルの上のヨルを見やる
するとギッギッと呻きながらテーブルで爪?を研いでいた
可愛い…っじゃなくて傷付くからやめなさい!
ピッとミミを摘めば、ヨルはギュルンとした白い目でキアラを見る
「ヒマならもどる?」
「アー」
ガクンッと首を傾けたヨルを見つめつつキアラは湧き上がる欠伸をそっとかみ殺した
そして後日、キアラは新たな出会いをする事となる




