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異世界コンサルタント  作者: kinboshi_8462
第2章 反攻計画
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04 反攻計画

 広げられた地図の上には、もう何本かの線と、小さな石の駒が置かれている。王都ヴァルガルド。そこから東へ延びる街道。湖と、その畔のエストホルム。その間に点在する、大小の領地。


 アストリッドはエストホルムの東側に広がる広大な森林地帯に目を向けた。

 昨日まで、自分たちはこの地図のどこかを、這うように進んでいたのだ。



「では、最初に王都の現状から」


 ベルンハルトが、手元の書類をめくった。


「王都から逃れてきた兵、商人、巡礼などからの聞き取りを、この半月で取りまとめたものです。証言同士に食い違いもありますので、確度の低いものはその旨を付しております」


 ここからは軍議の時間だ。気持ちを入れ替えねばなるまい。王都を取り戻すために。


「王都攻略に投じられたガーランド軍は、およそ一万。これは複数の証言でほぼ一致しております。対する王都の守備は、三千前後でした」


 三倍以上。


 数字として聞くのは初めてではない。それでも、改めて口にされると、頭の芯が冷える。


「ヴァルガルドの兵士たちは精兵で知られておりました。決して他国に劣った戦力ではなかった」

 ハルヴァルドが告げる。自慢ではない。一つの事実としての整理だ。

「一人ひとりが猛者だった。事実、一騎打ちで敵の将を討った者も、一人で門を支えた者もいた。ですが、ガーランドの兵は……崩れなかった。前の列が倒れれば後ろが埋め、ある隊が退けば別の隊がすぐに穴を塞ぐ。個々の武勇でいくら押し返しても、全体が揺るがなかった」

 あの夜の王都で、自分が見たものを、アストリッドは思い出さないようにした。


 ハルヴァルドの言う通りだった。王都の騎士たちは強かった。強かったのに、負けた。

 数も問題だが、あれだけの兵力を運用してみせたガーランドの軍事力こそが脅威だ。


 ベルンハルトも頷く。

「王都陥落以降、ガーランド軍の大規模な東進は確認されておりません」

 ベルンハルトは、次の紙をめくった。


「ただし、王都の周辺と、街道の幾つかの地点で、帝国の小部隊を見たという報せが複数あります。百、多くて数百。村々で徴発をしているもの、街道の要所に陣を張っているもの、逃げた者を追っているらしいもの。これは別々の者から、別々の場所の話として届いておりますので、確度は高いと見ております」


「占領した土地を治めるために、兵を散らしているのか」


 エドヴァルドが、地図の上で、王都の周りに指で緩やかな円を描いた。


「一万を王都に閉じ込めておいても、食わせる手間が増えるだけだ。周りの村を押さえ、街道を押さえ、徴発に回す。そうして兵を割いていけば、王都そのものに残る兵は限られる。私の見立てでは、王都の周りですぐに動かせるのは、二千ほどではないかと思う」


「王子殿下方については」

 ハルヴァルドが、低く問うた。


 ベルンハルトは、わずかに間を置いた。


「……第一王子殿下、第二王子殿下とも、確かな消息は掴めておりません。王都で捕らえられたという噂も、西へ逃れたという噂も、どちらも出所が定かではない」


 アストリッドは、膝の上で指を組んだ。


 兄上。それから、弟。


 生きているのか。どこにいるのか。それすら分からない。


 けれど、死んだという報せも、まだ届いていない。



「次に、手元にあるものの話をしよう。グンナル」


「は」


 守備隊長が、太い腕を卓の上に置いた。

「エストホルムの守備隊、即座に動かせるのはおよそ千。ただし、これは城壁に残す兵を勘定に入れておりませぬ。千を丸ごと外へ出せば、この街の守りは門番と自警の者だけになる」


「残すなら、何人だ」


「最低でも二百。できれば三百。足りぬ分は、周りの村から若い者を集めて埋めることになりましょう」


「周辺の領主たちへ声をかけ、彼らの兵を合わせれば――私の見立てでは、五千には届く」

 エドヴァルドが言うと、ベルンハルトが静かに口を挟んだ。


「あくまで、各領主が応じれば、の数字です。現時点で、兵を出すと書面で約したところは一つもございません。また、いつ出せるかも領ごとにまちまちでしょう。それに馬と糧秣も別の問題になります。五千を一か所に集めて十日食わせるだけで、この街の蔵の――」


「分かっている、ベルンハルト」

 エドヴァルドは片手を上げて遮ったが、不機嫌な様子はなかった。むしろ、言うべきことを言わせた上で止めた、という手つきだった。


「数字の裏付けは後で詰める。まずは、方針だ」

 そして、まっすぐにアストリッドを見た。


「殿下。私は、今動くべきだと考えております」


 


 やはりその方針か、と思っていた。

 昨日、城門で迎えられたときから、叔父がそう言い出すだろうことは、半ば予想していた。


「五千を待つのではありません」

 エドヴァルドは、地図の上のエストホルムに、駒を一つ置いた。


「まず、この街の千を動かすのです」


「千で、ですか」


「千で一万に挑もうと申しているのではありません」

 叔父は、首を振った。


「先ほどの話の通り、敵は兵を散らしております。王都の周りで即座に動けるのは二千ほど。それも、占領して間もない土地で、まだ足場が固まっておらぬ二千です。そこへ、敵が備えを整える前に、こちらから速く近づく」


 駒が、地図の上をゆっくりと西へ滑っていく。


「私たちには殿下がおられる」

 エドヴァルドが厳しい視線をアストリッドに向ける。親類のそれではない。軍略家であり政治家としての顔つきだ。


「殿下が動いておられるという事実そのものが、兵を呼びます。王女殿下の指揮のもとに進軍している。それを見れば、迷っている領主たちも、自分だけ城に籠もっているわけにはいかなくなる。道すがら、一つ、また一つと合流する。千は、千のままでは終わりません」

 西へ進む駒の周りに、エドヴァルドは小さな石を一つ、二つと足していった。


「五千を最初から一か所に集めようとすれば、それだけでひと月はかかりましょう。それだけの兵が集まれば、帝国にも必ず知れる。五千人分の糧秣と馬と寝床も要る。そうしている間に、王都の敵は備えを終えてしまう」


 叔父は、手を地図から離した。

「兵がすべて揃ってから動くのでは、遅いのです。動くことで、兵を集める。私はそう考えております」


 


 卓の周りが、静かになった。


 グンナルは腕を組んで地図を睨み、ベルンハルトは何かを書き留めている。ハルヴァルドは、いつものように表情を変えないまま、西へ伸びた駒の列を見ていた。


 アストリッドは、背筋を伸ばしたまま答えた。

「反攻すること自体には、私も異論はありません。王都をガーランドの手に置いたままにしておくつもりはない」


「では」


「ですが、千を先に動かすことには、同意できません」

 卓の周りの空気が、わずかに張った。


「私は、兄上を中心に王国軍を立て直すべきだと考えています」

 アストリッドは、地図の上の、何も置かれていない空白の辺りを見た。


「兄上は、父上の跡を継ぐべき方です。武に優れ、兵からの信も厚い。王国の軍を率いるなら、兄上をおいて他にいません。まず兄上を見つける。その上で、周辺の領主たちと手を結び、叔父上の言われる五千を、本当に一つの軍として形にする。そして、兄上を主将に立てて反攻する」


「殿下ご自身は」


「私は、兄上を支える旗になりましょう」


 迷わずに言えた。それは、王都にいた頃から、ずっと考えてきたことだった。


「千の軍が西へ進み、道々で兵が加わる――叔父上の言われることは、うまくいけば確かに速い。ですが、加わらなかったときはどうなりますか。領主たちが様子を見たまま動かなければ、千は千のまま、二千の敵の前に出ることになる。そこで旗が倒れれば、それを見た者たちは、二度と立ち上がりません」


 ベルンハルトの報告が、頭の中に残っていた。


「それに、王都で私たちが負けたのは、兵が弱かったからではありません。ガーランドは、一人ひとりの強さではなく、軍そのものの形で勝った。でしたら、こちらも軍の形を作らなければ、同じことを繰り返します。寄せ集めた兵を走りながら束ねるのではなく、正しい主将の下に、最初から一つの軍として」


「第一王子殿下が、どこにおられるか分からぬ間にも」

 エドヴァルドは、静かに言った。


「王都の敵は、備えを固めております」


「ええ。ですから、兄上の捜索を急ぎます」


「待つことも賭けです、殿下」

 声を荒げたわけではない。むしろ、諭すような柔らかさがあった。


「我々が第一王子殿下をお探ししている間、敵もまた兵を整えております。王都を落としたばかりの今が、彼らにとって一番落ち着かない時期です。占領した街を治め、兵に寝床と食い物を与え、逃げた者を追い、周りの村を押さえる。それらが一度に押し寄せている」


 地図の上の、王都の駒を指で軽く叩く。

「時が経てば、それが全部片付く。片付いた敵は、今よりずっと強い」


 王都を陥とした軍が、そのまま王都の主になるまでには時間がかかる。兵站を整え、城壁を修繕し、民を従わせ、役人を据える。それが済んでしまえば、王都はガーランドの拠点になる。攻め落とすべき相手は、混乱した占領軍ではなく、整えられた城塞になる。


「一万を養い続けるのは、ガーランドにとっても重荷のはずです」


 それでも、アストリッドは言った。


「時は、敵の側からも削っていきます」


「少なくとも、最初に削られるのは、王都に残った民の蓄えです」

 エドヴァルドの声が、ほんの少しだけ低くなった。


 アストリッドは、言葉を失った。

「敵が何をどこから運び込むにせよ、まず手を付けるのは足元にあるものでしょう。王都に残った者たちの麦であり、家畜であり、冬の備えです。我々が待てば待つほど、まず削られていくのは彼らです」


 叔父は、責めてはいなかった。ただ、アストリッドが見落としていたものを、卓の上に置いただけだった。


 時は、敵を削る。


 同時に、敵の足元にいる自分の民も削る。


 分かっていたはずだった。分かっていたはずなのに、反論の材料として「時」を持ち出したとき、その裏側を自分は見ていなかった。


「……ええ。その通りです」

 認めるしかなかった。


 エドヴァルドは、勝ち誇るでもなく、小さく頷いた。

「正直に申し上げます」

 叔父は、背もたれから身を起こした。

「私は、このエストホルムを戦場にしたくない。領主として、それが本音です」


 グンナルが、わずかに顔を上げた。


「ガーランドが王都を固めたあと、さらに東へ手を伸ばさぬとは、誰にも言い切れませぬ。もしそうなれば、その先にあるのはこの街です。湖があり、城壁がある。守るには易い。ですが、城壁の外の村々は守れぬ」


「私としては、エストホルム市民の安寧も重要です」

 グンナルが、短く言った。


「来るかどうかは分かりません。ですが、来たときに戦をこの街の前でするか、それとも西のどこかでするか。選べるうちに選んでおきたい。私が早く動きたいと申すのは、それもあってのことです」

 それは何も間違っていない。叔父がこの街の民を一番に考えるのは当然のことで、それを責めるつもりはなかった。立場が違えば、自分も同じことを言うだろう。


 


「では、周辺の領主たちへの呼びかけは」


 アストリッドは、話を一歩先へ進めた。

「すぐにでも始めたいと思っています。私の名で書状を出し、私が生きてエストホルムにいることを伝えます。兄上の行方を共に探し、王国軍を立て直すために手を貸してほしい、と」


 エドヴァルドは、すぐには答えなかった。


 少しだけ考えるように顎に手をやり、それから、慎重に言葉を選んだ。

「殿下。そのことについては、一つ、申し上げておかねばなりません」


「何でしょう」


「殿下のご生存は、今、帝国が知らぬことです」

 アストリッドは、瞬きをした。


「昨夜、道中の話を伺いました。森で、殿下が亡くなられたように見せかけ、敵の追っ手を退かせたと。であれば、帝国は今、殿下はもうこの世におられぬと思っている。少なくとも、そう思っている者が多いはずです」


 アストリッドは、表情を変えなかった。

「それは、殿下が持っておられる、一度きりの切り札です」


 叔父は続けた。

「領主たちに書状を出せば、その書状は何人もの手を通ります。使者、書記、家臣、その家族。一人でも口の軽い者がいれば、あるいは帝国に通じている者がいれば、殿下のご生存は、ひと月と経たずに王都へ届きましょう。一度知られれば、もう二度と、死んだことにはできません」


「それは、承知しています。ですが、兄上を中心に軍を立て直すためには――」


「第一王子殿下がご健在であれば、何よりです」

 エドヴァルドは、遮るのではなく、言葉を重ねるように言った。


「ですが、そうでなかった場合も、考えねばなりません」

 卓の周りが、しんとした。


 ハルヴァルドの肩が、わずかに動いたのが分かった。


 アストリッドは、膝の上で組んだ指に、力が入るのを感じた。

「兄上は、まだ……!」


 叔父の声は、少しも冷たくなかった。

「もし。もし万一、第一王子殿下にも、第二王子殿下にも何かあったとすれば。そのとき、王国に残る王家の旗は、殿下お一人になります。そして殿下のご生存が帝国に知られていれば、その旗は、立つ前に狙われる」


 王女として、願いと可能性は分けて考えなければならない。それは分かっていた。

「領主たちへの問い合わせは、まず、エストホルム領主である私の名で行いましょう」


 エドヴァルドは、穏やかに言った。

「王都陥落後の状況を問い、兵をどれほど、いつまでに出せるか、帝国の動きをどう見ているか、王子殿下方について何か知らぬか。それを尋ねるのに、殿下のお名前は要りません。殿下のご生存を明かすのは、相手の腹が見えてから、明かしてよい相手にだけ。それでも、遅くはないはずです」


 その通り、なのだろう。

 


 アストリッドは、地図に視線を落とした。


 兄を中心に王国軍を作る。それが、勝つための形だと思っている。

 叔父は、千で先に動き、動くことで兵を集める形を見ている。


 生存を明かして人を集めたい自分と、生存を伏せて切り札を守るべきだと言う叔父。


 話が、絡まり始めていた。

 ふと、トーコの顔が浮かんだ。


 森の中で、こういう行き詰まりに陥ったとき、あの人はいつも、まず質問をした。分かりきったようなことでも、皆の認識を確認するように。あのときは、ずいぶん回りくどいことを聞くものだと思った。けれど、答えようとすると、なぜか頭の中が少しずつ片付いていった。


 トーコなら、今、何と聞くだろう。


 アストリッドは、もう一度地図を見た。

 叔父と自分は、何について争っているのか。

 反攻するかどうか、ではない。それについては、最初から一致している。

 争っているのは、どの形で反攻を始めるのか、だ。


 千が先に動き、兵を呼び寄せていく形か。兄を見つけ、軍を形にしてから動く形か。

 そう分けてしまえば、どちらの形を選ぶにしても、今すぐ始めて損のないことが見えてくる。


「……叔父上」


 アストリッドは顔を上げた。

「私たちは、反攻するという点では一致しています。違うのは、どの形で始めるかです。そして、どちらの形を取るにしても、今から始めておくべきことは同じはずです」


 エドヴァルドが、わずかに眉を上げた。

「兄上と弟の捜索を、急ぎます。王都とその周辺、西の諸領も。私の手の者にも探らせます」


「異論はございません」


「周辺の領主たちへの問い合わせは、叔父上のお名前でお願いします。兵の数と、出せる時期と、帝国の動きと、兄上たちについて知っていること。私の生存をどこまで明かすかは――」

 一度、言葉を切った。

「協議の上、決めましょう」


「承知いたしました」


「そして、その間に、この街の千の出兵準備は進めてください。兵と、馬と、装備と、糧秣。いつでも動ける状態にまでは」

 グンナルとベルンハルトが、同時にエドヴァルドを見た。


「ただし」

 アストリッドは、はっきりと言った。

「いつ、どの形で動くかは、まだ決めません。兄上の消息と、領主たちの返答が揃ったところで、改めてこの卓で決めます」


 エドヴァルドは、しばらくアストリッドを見つめていた。

 それから、ふっと目元を緩めた。

「動ける支度を整えながら、動き方を見極める、と」


「はい」


「よろしいでしょう。千が動けるようになれば、どちらの道を取るにせよ、選べる手は増えます」

 叔父は、二人の部下に向き直った。


「ベルンハルト、領主たちへの書状の手配を。文面はまず私が見る。グンナル、出せる兵の割り振りと、残す兵の算段を」


「は」


「かしこまりました」

 二人が同時に立ち上がる。ベルンハルトはもう、手元の紙に何かを書き付け始めていた。


「ただ、殿下」

 叔父は、立ち上がりかけたところで、一度だけ振り返った。

「揃う報せが、殿下の望むほど確かなものであるとは限りませぬ。戦の報せとは、たいていそういうものです。そのときは――」


「分かっています」

 アストリッドは、遮るように答えた。

「そのときは、ちゃんと決めますとも」


 エドヴァルドは目を細め、それから深く一礼した。



 


 会議室には、アストリッドとハルヴァルドだけが残った。


 窓の外は、いつのまにか日が高くなっていた。


 アストリッドは、地図の上に残されたままの駒を、一つずつ眺めた。王都。街道。エストホルム。西へ向かう途中で止まったままの、叔父の置いた駒と、その周りの小さな石。そして、何も置かれていない、空白の場所。兄と弟がいるかもしれない場所。


「ハルヴァルド」


「は」


「あなたは、どう思いますか」


 ハルヴァルドは、少しの間黙っていた。

「軍事だけで申し上げれば、エドヴァルド様の言にも理があります。敵が固まる前に叩くのは、戦の常道です」


「そうですね」


「ですが、殿下の言にも理がある。主将も定まらぬ寄せ集めで当たれば、王都の二の舞になりかねません。第一王子殿下の下で戦えるなら、それに越したことはない」

 そして、いつも通りの、堅い声で付け加えた。

「決めるのは、殿下です」


「ええ。分かっています」


 アストリッドは、小さく笑った。


 ヴァルガルド奪還。帝国の大軍勢の撃破。それには兄上が……あの人が必要だ。あの人が、そう簡単に倒れるはずがない。剣を持たせれば誰より強く、兵の前に立てば誰より大きく見えた人だ。


 けれど、叔父の言葉が、胸の底に小さく残っていた。

 ――そうでなかった場合も、考えねばなりません。

 無意識に、胸元へ手をやっていた。


 指先が、何もない布に触れる。

 そこにあったはずの首飾りは、今はもう、あの森の中だ。


 あのときも、自分で決めた。誰かに決めてもらったのではない。自分の手で、母の形見を、メイアの亡骸と一緒に置いてきた。

 手を下ろした。


 兄が見つかれば、兄が軍を率いる。自分はその隣で、兄を支える旗になる。そのつもりでいる。

 けれど、兄が見つかるまでの間、この卓で何かを決めなければならないのは、自分だ。父はもういない。兄も弟も、ここにはいない。


 王家の一人として、ここに生き残ったのは、自分だけだ。

 アストリッドは地図の上から王都の駒を取り上げ、掌の中で、しばらくその重さを確かめていた。

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