流雲は,…アスペンの街に向かって、ロッキーの山中を走って行く........
第2部 アメリカ編 [12]ロッキーマウンテン
12-2 星降る杜の街 Aspen
アスペンの新緑の木洩れ陽の雫が乱反射する林道を走り、Aspenの街に入った。夏緑樹林をバックに古いレンガ造りの建物が建ち並んでいる。洗練された都会の雰囲気の中に西部開拓時代の面影を残した建物が建ち並んでいる。
夏緑樹林に守られた街アスペン。自然に自生した森と異なり、人々が暮らしの中で育んできた緑の杜に守られた街。流雲の第一印象は「杜の街」。何処となく鎌倉の街を思い起こさせた。
街中をゆっくりと走り、ビジターセンターを探す。赤い三角屋根のレンガ造りの建物に VISITOR CENTER のサインを見つけた。
インフォメーション・カウンターに進み、タウンマップを貰う。その時「ASPEN MUSIC FESTIVAL AND SCHOOL」のポスターが目に止まった。
「Excuse me, do you have any information about the Aspen Music Festival?」
「Yes, there are concerts, including classical and jazz, performed by local musicians......地元のミュージシャンによるクラシックやジャズなどのコンサートが行われ......」
「I like jazz and folk music. Is it possible to purchase tickets for this evening? Can I look at the pamphlet?」
「Will John Denver be performing at this concert?......ジョン・デンバーのコンサートが......」
「He is a local artist who lives in Aspen.」
「Can you please reserve a ticket for me? I'm a big fan of John Denver. I came from Japan to Colorado because of his music, and I really want to see his concert......私はジョン・デンバーの大ファンです。彼の音楽のためにコロラドに来たので、どうしても彼のコンサートを見たい」と話した。
案内カウンターの人が......。
「Aspen has held a fundraising concert every year since 1973.......アスペンでは1973年から毎年募金コンサートを開催している...... This year, a special fundraising concert will be held with John Denver and the Aspen Orchestra.今年は特別に、ジョン・デンヴァ―とアスペン・オーケストラの共演募金コンサートが開催される」と説明する。
早速、明日の夜のチケットを購入した。流雲は興奮していた。まさか、ジョン・デンヴァ―の音楽を生でそれもアスペンで聞けるとは想像もしていなかった。
アスペンの街を歩いたが、明日の夜のコンサートが気になって、何処を歩いたのか。良く判らずにモーテルにチェックインした。
モーテルのベッドの上で、コンサートのカタログを読み漁った。
「アスペン音楽祭は『Benedict Music Tent』の開催が始まりとされる。1890年代に建てられた石造りの WHEELER OPERA HOUSE が、20世紀初頭の放火により内部が損傷。その結果劇場は廃止された。その後『Aspen Ideas 』と呼ばれる民間運動が起こり、芸術、音楽、教育に必要な施設としてオペラハウスが再建された。1949年に芸術運動の一貫として音楽のサマースクールが開校され、アスペン音楽祭が始まりミュージックテントの音楽祭が毎年開催されるようになった」と記されていた。
流雲はジョン・デンバーの言葉を思い浮かべた。アスペンの星空を見る「Silver Queen Gondola Night Tour」に参加を決める。ゴンドラに乗り12,000フィート(3,650m)の山頂に昇り、星空を観察する。
夜8時。ナイト・ツアーに出発する。ゴンドラから眼下のアスペンの街の瞬きが霞んで見える。約15分の空中散歩後、山頂駅に到着する。陽の落ちたアスペン山中は寒く、真夏なのに吐く息も白く。駅を降り、懐中電灯を頼りに、街と反対方向の高原に向かって歩く。
すると、そこに現れたのは星が降り注ぐ満天の星空。流雲はその満天の星空の世界に息を飲む。アスペンの満天の星空は、神々しい程の世界が広がっていた。
流雲は慌ててカメラを取り出しセットする。
久しぶりの天体撮影に一抹の不安を覚えたが........。ファインダー越しに広がった世界を見た瞬間、大自然の悠久の時の流れに圧倒される。一心不乱にシャッターを切り続けた。只々、天空に広がる星空の世界に言葉を失った。
ジョン・デンヴァ―の詩が、走馬灯のように流雲の頭の中に蘇った。
「星が夜空一杯に輝き、空が驚くほど奥深く見え、星の光影が見える。流れ星の火玉が空を横切る白い尾まで見える。シューと言う流れ星の音が聞こえるように満天の空に星達が流れる街がロッキー山脈の麓の街アスペン」と記述していた。
その暗空が目の前にあった。流雲は必死に火玉が空を横切る白い尾を探した。その時、頭上に白く輝きながら流れる星を見た。本当に........。星が流れる空がある。
Aspenの空に星が降っていた。幾筋も白く流れる星が降っている。それも、数え切れない程の星が........。闇空に瞬く星空の下に、杜の街は黒く沈んでいた。
ひとり見上げる星空の下は静寂に包まれ、微かな星のささやきさえも聴こえぬ無音の世界。流雲の求めていた自然世界に巡り合えた。
翌朝。アスペンの青空にロッキーが輝いていた。素早く朝食を済ませ山に向かう。アスペン林道にさわやかな風が吹き抜けると、アスペンの葉がサラサラと涼やかな音を響かせている。新緑のアスペン木葉の中に、既に黄緑に染まり始めた葉が見える。アスペンゴールドのブローチのように、秋の紅葉シーズンには黄金色に色づくのだろう。
アスペンの山中は、若葉から青葉に濃緑色へと様々な変化をみせている。微妙な彩度や色味に彩られた緑のハーモニーの中、リスが忙しく走り回っている。そんな樹々の木陰から鹿が顔をのぞかせていた。ロッキーの山は、大山より野生動物の営みを何時でも感じられる自然の山だった。
夜、コンサート会場に出掛ける。細い小道を少し登った芝生の上に、野外音楽堂は建っていた。ベネディクト野外音楽堂は、1965年にフィンランド人建築家 Eero Saarinen 氏によりデザインされた。白頭鷲が白い羽を広げ、広場に舞い降りたような形をしている。きっと、サーリネン氏は自然との一体化を意識したのだろう。
流雲は、ユニークなテフロン製テント屋根構造のコンサートホールが気に入った。アスペン住民の暮らし方をサーリネン氏がデザインした形が、このユニークなコンサートホールなのだろう。
コンサート会場前の芝生は、サンドイッチをつまむ人や散歩する人で賑わっている。
開演前、テント前は大勢の人で溢れ返っていた。会場の芝生は演奏中は無料開放される。
流石に夜になると芝生の上は冷えこむだろうが、満天の星の下で音楽を楽しめる。アスペンの街の人の暮らしの中に、音楽が溶け込んでいる証拠なのだろう。
流雲は開演前の6時前に会場に到着した。会場入口でチケットを手渡すと、若い女性が座席に案内してくれた。座席はステージの前列から10列ほどの真ん中の最高の席だった。隣の人に挨拶しながら着席する。良く見ると、知り合いだった。
「Good evening, I remember you. You're the one who worked at the Visitor Center, right?」
「Yes. Good evening. It's a pleasure to meet you. I'm Jane and this is my friend Jake.」
「It's nice to meet you. Thank you for the tickets.」
「My friend couldn't come, so I had an extra ticket. And since you said you wanted to go to the concert so badly. So I gave them to you.」
「Oh, I see. Thank you very much.」
簡単に挨拶をかわした。どうやら、特別にチケットを譲ってくれたらしい。そうでなければこのチケットは手に入らなかっただろう。会場を見渡すと千人位を収容できる会場は満席で後方扉は開放され、外の芝生の上にも観客が溢れている。
アスペン・フェスティバル・オーケストラの演奏が始まった。
オーケストラ編成は、サマースクールに参加する生徒で構成されている。アスペンの音楽校の生徒と言っても、世界中から参加したプロの音楽家達であり、夏の間に更なるテクニックや音楽知識習得に集まった一流の演奏家達だ。
コンサートホールは優れた設計が施されていた。アスペン・オーケストラの演奏が耳に心地良くテントの隅々まで響くようにデザインされている。
アスペン・フェスティバル・オーケストラのクラシックの演奏が数曲演奏された後、ジョン・デンヴァ―が登場した。会場は割れんばかりの大歓声に包まれた。
ジョン・デンヴァ―がギターをつま弾くと一瞬にして静寂がコンサートホールを包んだ。 コンサートは「Fly Away」のオーケストラ演奏で始まり「The Eagle and the Hawk」と2曲フルオーケストラの演奏でステージが始まった。3曲目に「Late Winter, Early Spring」の弦楽器演奏が終わると、4曲目にあの澄み切ったジョン・デンヴァ―の「 Starwood in Aspen」歌声がステージに広がった。
その後「Take Me Home Country Roads」「 Follow Me」「I'd Rather Be a Cowboy」とヒット曲を歌い続ける。コンサートの中盤に「 Rocky Mountain High」のイントロが流れると観客の大合唱が一斉に巻き起こった。そしてジョン・デンヴァ―のしっとりしたバラード「Annie's Song」「Calypso」の歌声が響くと場内は最高の盛り上がりを見せる。コンサートを締めくくる「 Boy From the Country」歌声が、コンサート・ホールからアスペンの山々に木魂した。
ラストソングに再び「Starwood in Aspen」のギター弾き語りが流れると、再び大合唱に包まれた。約2時間の圧巻のステージが終わる。流雲は最高の時間を共有した実感を噛み締めた。




