流雲は,…夏休みにロッキーの旅に........
第2部 アメリカ編 [12]ロッキーマウンテン
12-1 Aspen への旅路
8月11日にサマースクールが終了した。流雲のデンヴァ―滞在が3ヶ月を経過した。明日からサマーバケーションに突入する。
流雲はサマーバケーション中にコロラド州内を旅する計画を立てていた。コロラド州の何処かに行くか迷ったが、結局ロッキーマウンテンを目指すことにした。とにかく、コロラドの雄大さを肌で感じないと落ち着かなかった。
最終日の期末進級テストに緊張したが、無事テストにパスした。一番タフなライティングテストも無事進級テストに合格した。数日間、ライティングの特訓をホーリーから受けたのが、功を奏したのだろう。次の学期から上級クラスへの進学が決まった。クラス全員進級テスト合格は珍しい出来事のようで、先生も驚く快挙だった。秋のクオーターから上級クラスへの編入が決まった。
デンヴァ―大学の入学条件は、TOEFL 試験700満点中500点以上の厳しい条件が設定されているが、来学期末の試験で500点以上を獲得すれば大学への入学が認められる。
1978年8月13日。デンヴァーは、爽やかに晴れ渡っている。
流雲を見送りにジェフが態々アパートに戻ってきた。ジェフに見送られ『鷹』に乗り込む。出発に手間取り、結局出発したのは昼近くだった。
Georgetown を目指し走り出す。ゴールド・ラッシュに沸いた鉱山の町を勧めたのはジェフだ。
「You would be amazed at the old western townscape that looks like a western movie.」と言われ、西部劇の町を目指すことにした。
デンヴァ―大学から South Universuty Builverd を北上しI-25ノースに乗る。朝のラッシュアワーを過ぎたI-25は走行車両が少なく走りやすかった。『鷹』は上機嫌に快調に飛ぶように走る。ジョージタウンまでI-70ウエストに乗り換え、約1時間のドライブになる。
I-25からUS-6ウエストに乗る。US-6を走り、街中を抜けると正面にロッキーの山影が見えて来る。 Genesee Park を過ぎたあたりから、景観が変わり岩肌がゴツゴツしたロッキーらしさが増して来る。
青葉の茂る夏木立のロッキー山中に入り、風を肌に感じながら走り続ける。I-70の出口220番で降り渓流沿いの砂利道 Argentine St を走る。砂ぼこりを上げながら、渓流沿いの荒々しい山肌を眺めながら走る。この爽快感はロッキーでしか味わえないだろう。
砂利が『鷹』を叩く音を聴きながら、峠道を走ると正面にクラシカルな西部劇風のアイアン・アーチが現れた。「GEORGETOWN 」と記されたアイアン・アーチの下を潜りゆっくりと砂利道を進むと、寂れた古い町並みが見えて来た。
ロッキーの山肌をバックにしたレンガ色やカーキ色の古いビクトリアン様式の建物が建ち並んでいる。町のメイン・ストリートの正面にロッキーの山並みが迫っている。渓谷の谷間に栄えた町なのだろう。2車線程の道は緩やかな坂道になっている。
町の入り口にビジターセンターの看板を見つけると『鷹』をビジターセンター裏の駐車場に停める。
アンティークな木製ドアを開くと「チィリィーン、チィリン、チィリィーン」とドア上部に取り付けられたベルが鳴る。
流雲は正面カウンターに進み、ジーンズ姿のお下げ髪の少女に........。
「Hello, do you have tourist information and a map of this town? If so, may I have it?」
「Yes, I do. If you don't mind, I'd like to give you an overview of Georgetown. Georgetown is located at an elevation of 2,630 meters and is surrounded by the mountains of the Clear Creek Valley,........標標高2,630mに位置しクリアクリーク渓谷の山々に囲まれ......After the gold rush of 1859, mines dotted the area west of Denver, and when the railroad opened in the 1870s, Georgetown became the center of Colorado's mining region. When the railroad opened in the 1870s, Georgetown became the center of Colorado's mining region, and later developed into the "Silver Queen" of the Rocky Mountains.........1859年のゴールドラッシュ以降、デンバーの西には鉱山が点在していたが、1870年代に鉄道が開通し銀鉱山の中心地として「Silver Queen」....... 211 historic Victorian-style buildings built during the height of Colorado's silver boom are preserved here.......ビクトリア様式の歴史的な211棟が現存......」
「Thank you. Well, I'm going to take a walk around town, then.」
ビジターセンターを出て案内図を見ながら町中を歩く。アーチ窓のノスタルジックな雰囲気のヴィクトリア様式の建物が、何故か懐かしさを感じさせる。
2階建ての建物がレゴブロックのように整然と建ち並んでいる。メイン・ストリートは、踏み固められた赤土の泥道と板張りのボードウォークが連なっている。アンティークな店舗が軒を連ねるボードウォークを町外れに向かって、ゆっくりと登って行く。古いレストランの看板が掲げられた建物の前に馬車が止まり、馬が数頭繋がれている。
町ゆく人はテンガロンハットを被っている。映画の撮影風景かと錯覚したが、周りを見ると殆どの人がカーボーイハットを被っている。これが普段の暮らしのようだ。
ボードウォークの軋む音を聞きながら町を歩く。古めかしい薬局や床屋や銀行などの店舗が並んでいる。商店街の中程にクリスマス専門店があった。
(ここは1年中、クリスマス商品だけを販売しているのか……)
ボードウォークに、ビヤ樽の花壇に朽ちた木製のベンチが並んでいる。花壇に植えられた花はコロラドの高山植物なのか、紫やピンクの可愛らしくも鮮やかな花が彩りを添えている。派手な看板や電線や電信柱も無い。時代に取り残された素朴な風景が広がっている。タイムマシーンに乗り、西部劇の町に迷い込んだような錯覚を流雲は覚えた。
SALOON の看板を掲げるバーがあった。入り口は、西部劇でお馴染みのスイングドアのある本物のウェスタン・スタイルのバーだ。(入って見よう……)
流雲がスイングドアを押し開け、一歩踏み込みながら木製のバーカウンターに立つとカーボーイ達が一斉に振り返った。(よそ者をにらみつける西部劇そのままじゃないか)と思いながらカウンターの中に声を掛ける。
「Beer, please !」と注文する。バーテンダーが Coors のボトルをカウンターに滑らせた。
(えぇ、もろに西部劇)
「Menu, please...... A hamburger, please......」
「Okay. Are you traveling? Where are you going?」
「Yes, I am traveling in the Rocky Mountains. I would like to explore the nature of the Rockies.......ロッキーの自然を満喫できる所を....... Where should I go and do you have any recommendations?......推薦出来る所は?」
「Absolutely. I recommend Hunter Pass in the Rocky Mountains. This pass can only be crossed at this time of year. At over 3000 meters above sea level, it's a sight to behold!.......ハンター・パスかこのシーズンしか越えられない....... It is located halfway between Aspen and Twin Lakes. ..... Good luck. Give me $4.50 for a beer and a burger.」
「Thank you very much.」
「Hmm, hmm.」
「Thanks.」
ジョージタウンを行き交う人達の装いは、デンヴァ―の街とは全く異なり、テンガロン・ハットにジーンズだ。夏なのにフランネルのシャツにブーツがファッションのようだった。
この見慣れない装いの統一感が素朴さを感じさせるのか。踏み固められた馬車道は、時代に取り残された町並みと一体化していた。この町には日本ともデンヴァ―とも異なる刻が流れている。ロッキーの山に囲まれた谷底にある町、ジョージタウンを離れる。
(不思議な町だった。普通にフリーウエイを走っていたら、先ず立ち寄ることは無いだろう。寂れた田舎町のようで観光の町の輝きがあった)
I-70ウエストに戻り西に向かって走る。ロッキーの山並みを切り裂く高速道路を1時間程走ると、突然湖が現れた。展望パーキングエリアに『鷹』を止める。
案内板を見ると、ディロン貯水池とある。どう見ても、ディロン湖だ。貯水池という人工的な景観ではなく、自然な湖の景観が広がっている。
ロッキーの山間部を縫うように40分ほどI-70を走る。左手に Copper Mountain のスキー場が見えてきた。シンプルなスキー場だった。スキーリフトの乗り場があるだけでレストランも見当たらない。季節外れの今の時期は、リフトも止まり閑散としている。すり鉢状の広大な斜面を見上げても頂は遠くに霞んでいる。
カッパー・マウンテンの頂上は標高3.753メートルの頂にある。雄大なロッキーの景観は、高速道路に覆いかぶさるような圧倒的な存在感を見せている。
流雲は Cupper Montain を後にし、次の目的地 Vail を目指した。ロッキーの頂きが迫り、頂上感が増してきた。
I-70を時速70マイル近くで走り続ける。突然、森林地帯が開けたエリアに到着した。
高速道路の出口を Vail の中心に向けて走る。ジョウジタウンともカッパーマウンティンとも異なる洗練された人工的な町が出現した。ドイツやアルプスに建つような山荘風建物が軒を並べるヨーロッパ風のリゾート・タウンが出現した。
山間の小さなスキー・タウンは大都会並みの活気に包まれている。銀座にも無い高級ブランド店や高級レストランが軒を連ねる世界有数のリゾート地だった。
ゲレンデ前の Visitor Center に立ち寄ると、ヴェイル山頂のハイキングを勧められた。スキーゴンドラに乗り山頂駅から高山植物の平原を目指す。コロラドの高山植物が観察できるのは夏の時期しかないそうだ。流雲はこの時期にヴェイルに立ち寄ったのはきっと高山植物に会うためだろうと、明日早朝の山頂ハイキングを決断しヴェイルに泊まることにする。観光案内所でモーテルを紹介された。
ゴンドラ駅は、ヴェイル・ヴィレッジのゲレンデの麓にあった。緑の草原のゲレンデ越しに、雪を被ったロッキーの山並みが見える。
早朝のゴンドラはガラガラだった。流雲はゴンドラから眺める絶景をひとり占めして、約30分の空中散歩を楽しんだ。
眼下にニッコウキスゲに似た黄色い花が一面に咲いている。 Eagle Bahn Gondola 駅に到着する。標高10,350フィートからのヴェイル・バレーの眺望は素晴らしく、Gore 山脈の峰々が一望できる。南東方向に北部ロッキー Sawatch 山脈の最高峰「Mount of the Holy Cross」14,011フィート (4270.5m)が雪を被った雄姿を見せている。
流雲は、ステーションの横を流れるゴア川に向かって歩き始める。ゴア川に架かる橋を渡り、Berry Picker trail 入口に到着する。トレイル入り口には案内板があり、ゴンドラ駅で手渡された地図と見比べてルートを確認する。
全長約3.2マイルのトレイルに足を踏み入れる。なだらかな登り道が続く。前方に、山野草の平原が見えてきた。
早速、カメラを取り出す。今日は35㎜カメラにマイクロズームを装着してきた。紫の可憐な花を見つけて、カメラをセットしていると.......。
「Are you a photographer? I'm a park ranger. If I may, I would like to introduce you to a wildflower that is native to this highland……パーク・レンジャーです。この高原に咲く山野草を説明させて下さい…… Do you know the name of this alpine plant?」
慌てて、地図の裏の植物図鑑を見ながら、
「Let's take a look. Is this flower a penstemon?......ペンステモンですか?」
「That's right. This flower can be identified by its 5 petals... 5枚の花びらで識別できます........ Penstemon resembles a pentagon by having 2 petals at the top of the flower and 3petals at the bottom......花の上部に2枚の花びら、下部に3枚の花びらがあり、五角形に似ています」と、パーク・レンジャーは説明する。
レンジャーは「更に5月から8月にかけて青、紫、ピンク色の花を咲かせる。この時期は、一番多くの山野草が見られる。もう少し上に上ると COLUMBINE、BLUEBELLS、HEART ARNICA、GERANIUM などが見れます。ラッキーなら真っ赤 PAINTBRUSH や純白の MARIPOSA LILY も見れるでしょう」と説明してくれた。
直ぐ側に葉のない細長い茎に萌えるような赤い花が、トランペットのようにぶら下がっている。花弁が5枚ラッパ状に開いたように咲いている。日本では見たことが無い花だ。
早速、植物図鑑を開くと、SCARLET GILIA とある。辞書を調べるとハナシノブ科の多年草とあるが、写真が無いから同じ花なのか解らなかった。
(ちょっと、鬼百合に似た毒々しさがある。草原に咲く可憐な花のイメージとは違うな) トレイルを1時間程登る。トレイル脇にレモンイエローの尖った花を発見する。日本の野草の花に比べて、ひと回り大きな花だ。図鑑を確認すると「Castilleja」またの名をペイントブラシュ、確かに絵筆の先っぽのような形をしている。カナディアン・ロッキーでは真っ赤な花を咲かせると記されている。
(赤よりこのレモンイェローの方が、ロッキーに似合うな)
山野草ウォチングは雑木の陰とか岩陰を探すようにと、レンジャーにアドバイスされたのを思い出し草原の中を花を探しながら歩く。岩陰にひっそりと、隠れるように咲いてる花を見つけた。図鑑を調べると「MARIPOSA LILY」の花。純白のチューリップ型の可憐な花。大きな白い3枚の花びらと花芯に黄色と紫の花粉を付けていた。マリポッサは蝶の意味があるから、蝶が羽を広げたような様子を表現しているのだろう。日本に自生する山野草に比べて、コロラドの花は大きく華やかさがある。
遂に、流雲が探していた COLUMBINE の花を見つけた。岩場の陰に廻った草原に咲いていた。(凄い。野生のコロンバインは、こんなに綺麗なのか……)
図鑑を開くと、ロッキーマウンテンコロンバインは白とラベンダー色に特徴があると記されている。コロラド州議会はこの花の摘み取りを禁止している。
日本のセイヨウオダマキに似ているが、より可憐な花だ。外輪花弁のベランダー色は江戸紫の気品を感じさせ、花芯の白との組み合わせは西洋貴婦人のような優雅さがある。
辺りを見渡しながら、少し下ると草原一杯に香水のような香りが漂っている。草原の中に20センチ程の間隔にコンバインの花が咲き誇り、空想的な絵本の世界が広がっていた。
草原一面のコンバインの花園が目の前に出現した。(一体全体、何千何万のコンバインが自生しているのだろう)
余りの幻想的な光景に、流雲は思わず立ち止まり、花園の光景を心に刻むように眺め、記憶を留めるようにシャッターを切り続けた。
コンバインの花は2色の花びらが絶妙の色彩バランスで花開いている。流雲のこれまで見てきた花の中で、最も美麗な花のひとつだろう。黄色の雄しべに純白の5枚の花弁、包み込むように江戸紫の5枚の花弁が美しく調和している。カメラのファインダーに映るコンバインの花は神々しい美しさを纏っていた。コロラド州の公式の州花に指定されるのも、納得できる優美な花だ。白と黄と紫。この調和のとれた色彩の美しさは、モネもセザンヌも描けないだろう。
山野草を愛でながら、トレイルを歩き登り切った所にレストランがあった。
山頂レストラン BISTRO FOURTEEN に入る。夕刻に少し早いが山頂の絶景を見ながら夕食にする。標高14,000フィートの「Mount of the Holy Cross」に因んだレストランの眺望は素晴らしく、テラス席はロッキーの山々に触れる場所にある。
リゾート地の山頂レストランのリーズナブルな価格に流雲は驚かされた。数組のファミリーが食事を愉しんでいる。流雲は窓際のテラス席に案内される。開け放たれた窓から、山野草の高原から爽やかな風に乗って、芳醇な花の香りが舞ってくる。
流雲はカジュアルなレストランで温かいビーフシチューを注文する。寒い山頂で食べたシチューはほっこりと温かく美味しかった。
山頂からの下山ゴンドラは無料で運行されていた。
数十種類の山野草の撮影ができた。ちょうど、山野草の季節にヴェイルに来れたのはラッキーだった。流雲は、ロッキーの自然をひとつ記録できたのが嬉しかった。
早朝、流雲は眩しくて目覚めた。モーテルの窓から差し込む朝陽は、強烈な光を放ちベッドを包み込んでいた。
窓の外は雲一つないピーカンの青空が広がり、雪被った荒々しい山頂がくっきりと浮かんでいる。
流雲はバーテンダーに教えられた Hunter Pass を目指している。
モーテルで Hunter Pass の行き方を尋ねると「Independence Pass」ですか。と確認された。昔は「Hunter Pass」と呼ばれ、冬季は閉鎖され夏季の数週間しか通行できない峠道になる。
ヴェイルから US-24を南下し Leadville にある Twin Lakes を目指し、山の中を分け入るルートを教えられる。
標高14,440フィート (4,400m)の Mount Elbert を左手に望み緑豊かな山道を走る。窓を開け放して走る。ロッキーの爽快な風が車内に溢れ、清涼感に包まれた香りが広がる。
目の前にツイン・レイクが現れる。82号線を左に折れ「インディペンデンス・パス」に進路を取る。エルバート山を過ぎたあたりから峠道に入る。急な登り勾配が続く。途中から舗装路は砂利道になり、ガードレールの無い切り立った崖道になる。
緑濃い森林の中を走る。窓を開け放った『鷹』の車内に森が発散する Phytoncide の香りが充満する。
昔、祖父月堂龍禅は「森にはフィトンチッドの殺菌性や香りだけでなく、『神奈備の神』が宿ると、そして森に暮らす人々は木や森と交信し何百年と暮らしてきた」と語っていた。
流雲は、祖父の語った森の話を思い浮かべていた。
(もしかしたら、ロッキーの山にもカムナビを感じ交信できるかもしれないと期待した)
登坂道は急角度の登りになった。道路脇の道路標識は「勾配度15%」を示している。
森林は混合林になり、ロッジポール、トウヒ、アスペン、モミの樹々が車窓を流れて行く。登坂道は徐々に森林限界の高度3,000メートルに近づいてきた。
道路脇に「勾配度35%」の標識が目に止まる。「インディペンデンス・パス」の頂上に近づいて来た。一気に急角度の登り坂になり、フロントガラスいっぱいに青空が映る。一気に、展望が開けてきた。車内が冷え込む。慌ててヒーターを入れる。峠道は狭くなり、すれ違うのもやっとの道幅になる。
「インディペンデンス・パス」の最高地点に到達した。多分、9合目付近にいるのだろう。峠道の両脇に大きな岩がゴロゴロしている。
切り立った崖の上に雪を抱いた三角に切り立った頂きが、直ぐ眼の前にある。残雪が残る路肩ギリギリに駐車し、写真撮影の準備に標高3,680メートルの天空峠に降り立つ。
天空の峠に佇むのは『鷹』と流雲だけだ。天空を踏みしめると、山々を切り裂く風の音だけが「ヒューひゅー」と聴こえる。
空の蒼さ。白く輝きを放つ三角の頂が空を貫いている。崖っぷちにカメラをセットする。寒さに悴む指先に息を吹き付け、雲間が晴れるのを待つ。
一瞬、山頂に風が吹き雲が流れ、雪を被った尖った頂が蒼空にくっきりと姿を表す。チャンスを逃さず、シャッターを切り続ける。
前方を眺めた時、尖った頂に「光輪」が差し込む幻想的な光景を見た。太陽の周りに現れた「光輪」は日暈だろう。「光輪」の内側が赤色に外側が紫色に輝いて見える。
(多分、ハロ現象だろう。この峠でハロ現象に遭遇するとは……)
標高3,680メートルの峠頂きで超自然的なパワーを感じた。不思議な現象だ。
ロッキーの蒼空に、白く輝く頂の姿は神々しいまでに美しかった。ロッキーの頂をこんな間近に望める峠は他にはないだろう。この峠に立ち頂きを仰ぎ見れるのは、真夏の限られた時だけだ。特別な時に幻想的な光景に遭遇するとは........。
天候に寄り、峠は閉鎖される年もある。人跡が許された貴重な時を楽しむように峠の歩道を散策する。淡い紫やレモン色の高山植物が花を咲かせていた。
標高3,680メートルの頂は見渡す限り蒼い空が広がり、静寂に包まれていた。
「インディペンデンス・パス」の峠を越える。峠を越える時、壮観な眺めをひとりじめする高揚感に包まれた。
これまで遠藤先生と山岳撮影に同行した時にも高揚感に包まれた。この頂の高揚感は「天頂」に登る浮揚感に包まれる初めての感覚だった。
峠を越えると、急勾配の下り坂になり、砂利道の滑る感覚がハンドルに伝わる。ガードレールも無い崖路をゆっくりと走っていく。岩崖の雑木に、2頭のビッグホーンが新芽を食みながら佇んでいる。慌てて、車を止めた。カメラを取り出し素早くスナップ撮影する。間近で見たビッグホーンは、鹿より一回り大きかった。
コロラド川の渓流沿いの曲がりくねった道を行く。アスペンの樹々に覆われた渓流が涼やかな景観を見せている。
砂利道にハンドルを取られながら、渓流沿いの峠道を走る。やっと砂利道が終わり、舗装路になる。アスペンの樹々の間から、山荘風の建物が軒を連ねるのが見え隠れする。




