225話 マールやみんなにはまだ話せない
「ん?日本語?」
心臓がドクンと跳ねた。
空気が急に薄くなった気がする。
どーしよ、どーしたらいいの?
「あ、いえ、あのナップルの本の飾り、あれがどうやら日本語らしくて。ほら、カイト坊ちゃまはナップルの本も、あの虫の本も、あの飾り文字がお好きでしょ?よく目にしてますよね?だからあの文字が読めるのかと思ったんです。違いますか?」
どーしたらいいの?
思わず俯いてしまうボク。
「カイト坊ちゃま?カイト坊ちゃまがもし稀人だとしても私たちはこれまでと一緒ですよ。なにも怖い事ではありません。」
話したら楽になるかもしれない。
だけど、ずーっとずっと引っかかっていること。
ママのお腹で入れ替わっていることが………怖い――!
ずーっと今までボクを育てて、そばにいてくれて愛情をくれたマール。
祐仁さんの子孫だからボクを可愛がってくれたの?ボクが転生者だと知ったら?
怖い、怖い。
マールにも、皆んなにも、ニセモノなんて言われたらボクは生きていけない。
パパとママ、アリに見放されたらボクは立ち直れないよ。皆んなと離れたくないよ。
「ボクはよくわからない」
そう答えるのがやっとだ。マールからはわずかにショックを受けたような顔を見せて、すぐにいつもの笑顔になった。
「そうですか。」
誤魔化せたかは分からないけど。
話を変えたい、どうすればいい?
「坊ちゃま、少し話を戻しましょう。祐仁さんが王位に就く事になり、祐仁さんと奥様はマーシュ領から王都に移り住みました。祐仁さんたちがいなくなるとマーシュ領の豊かさを狙って隣国から幾度となく攻めてくる事ありました。 マーシュ領の領民は危険が増えてきたマーシュ領からだんだんとみな住まいを王都に移していきました。それからはマーシュ領は国境を守る兵士達の街となっていきました。」
「これまで小競り合い程度の戦でした。それでもマーシュ領の守りは強固で落ちることはありませんでした。しかし、10年前これまで友好関係でいたソルタ国が大軍を引き連れてマーシュ領に攻めてきたのです。」
「これまで不落の砦とも言われたマーシュ領の戦士達も大軍の戦力に押され気味になり、砦に立てこもりで守備に徹していたところ、ダウニー様引き連れたイスカダル国軍が援軍として現れたのです。そこからは援軍の戦力は凄まじいものだったのでしょう。孤高の大魔神、赤鬼、青鬼を筆頭に暴れ回って一気に逆転して勝利を納めたのです。」
「そんな歴史を私たち3人は見てきました。色々ありましたよ。人と人との争いは何も生み出さない。戦争は命を無くし、辛いだけです、悲しいだけですよ。」
ふと悲しそうな顔をしたマール。
「マール、色々教えてくれてありがとう。じゃあ、歴史の《《授業》》は終わりね。」
今度はボクが話を変える。
「ね、マールとセバスはいつ結婚したの?」
「私たちは祐仁さんが王位に就きしばらくしてから結婚しました。」
「ねーねー、親同然のセバスとなにがキッカケで結婚したの?」
「そうですね、私がセバスを異性として意識したのは、あの怪我の時でした。セバスを失うのはイヤ、その時セバスを男性として見ていたのでしょうね」
「え、そうなんだ。てっきりセバスがマールに惚れてると思ったよ。だってセバスはマールとのお惚気を寝ずに1ヶ月は話せるって言ってたよ」
「あの人、そんなことを言ってましたか。」
「お互いにいつしか惹かれあっていたのでしょうね。私から告白して、私からプロポーズして、私が押しまくり結婚しました。」
「先の戦争で成果を上げた旦那様が陛下より褒美としてこのマーシュ領をいただきました。その時に陛下からマーシュ家に行くようにとセバスに指令が降りた時、私はついてきましたよ。」
「兄は医療の資格を取るために頑張っていたので、そのまま王家に残しました。今は医師として王家で働き、緊急の時は転移魔法でこちらにやってきます」
「そうだったんだね」
「どうやら話し込んでしまいましたね。坊ちゃん、私からの話はこれでおしまいですよ」
かなり濃い話が聞けたね。きっとマールはボクが日本語がわかると気づいているんだと思う。だけど、ごめんね。まだ話す勇気がないんだ。




