222話 マール、セバスの昔話②
「食べるものがない私たちは、野に咲く草や、セバスが狩ってくるホーンラビットを分け合って生きていました。」
「しかし、そんな生活が長くは続きません。幼い私たちを育てながらの生活は、毎日食べるものがない状況になりました。ある時狩りに出かけたセバスがなかなか帰ってきませんでした。幼い私たちはただセバスの帰りを待っていたのです」
ずっと独り言のように話すマールの身の上話をボクは静かに聞く。マールは誰かに話したかったのかもしれない。ボクに知って欲しかったのかもしれない。
それがどんな意図があって話しているかは分からない。ただ話を聞く事、今ボクが出来ることは、それだけだ。
今幸せに暮らしているボクには当時のセバスやマール達の気持ちをわかるなんて簡単には言えない。
そしてマールは話し続ける。
「2日経ち、3日経ち、1週間経ってもセバスは帰ってきません。お腹を空かせた私たちは空腹よりも帰って来ないセバスが心配でした。ただ食べられる植物は覚えていたので餓死はしません。兄はセバスを探しに行くといい、私もその意見に同意しました」
「兄と私はセバスを探しに出ました。森は危険と言われ、比較的浅い部分しか入ったことがない私たちです。森の浅い所をいくら探してもセバスは見つかりません。そこに居ないとなるとあとは森の奥に居るかもしれないと私たちは意を決して森の奥に入って行ったのです」
「森は静かでした。いつもは聞こえるはずの鳥のさえずり、生命の息遣いがまるで聞こえないのを気に止めるべきでした。」
「そして私たちはリゴーの木を見つけたのです。美味しそうな赤い実が沢山なっていました。空腹だった私たちは恐る恐るリゴーの木の実をかじるとそれはそれは凄く美味しかったのです。私たちには初めてのリゴーの木でした。美味しさのあまり兄と私は夢中でリゴーの実を食べたのです」
「ガサッと音に気づき、その音に振り返るとそこにはドラゴンが居たのです。私たちを捕食しようとしたドラゴンは大きな口を開けました。私は兄に手を引かれ森に向かって走りました。どこを走ったのか分かりません。後ろからはドラゴンが木をなぎ倒しながら迫ってきたのです。」
「私たち兄妹は、エルフの特徴の一つである瞬足があります。逃げ切る自信はありました。走りながら洞穴に逃げ込み助かったと息を深くついた時です。洞穴に影が差し見ると洞窟の中を覗くドラゴンがいました。」
「ドラゴンは暫くはそこにいましたが、洞穴から離れて行きました。私たちはドラゴンが諦めて帰って行ったと思ってました。ドラゴンが入ってこれない穴だったので油断したのでしょう。少し様子を見に行った兄が突然洞穴に入って来たドラゴンの前足に捕まって洞穴の外に引きずられて行ったのです。」
「恐怖に振るえ、私はカタカタ震えているしかありませんでした。外から聞こえるはずの音も怖すぎで耳に入ってきません。耳を塞ぎ、目を閉じて、ただただ怖かったのは覚えています。絶望に声も出せません。そんな時に誰かに肩を叩かれました。私は泣き叫びました、もう殺されると。」
やばい、やばい。
マールの話にめちゃ聞き入ってしまうよね。なんだか情景が見えるようだよ。
「肩を叩いたのは見知らぬ人、それが祐仁さんとの出会いでした。ドラゴンは追い払ってくれたそうです。あまり詳しくは分かりませんが、兄を捕まえていた足を刀で切り落としたそうで、足を切り落とされたドラゴンは逃げていったそうです。」
刀?日本刀?
「兄はドラゴンに捕まえられた時にドラゴンの爪が体にくい込み酷いケガをしていました。兄が死ぬのかと私は絶叫して気を失ったのです」
「起きたらこのイスカダル国の祐仁さんの家でした。兄のそばで私は目が覚めました。なんとそこにはセバスが居たのです。兄以上に傷を負って。」




