204話 変身のスキルを持つ男の過去
「お前は私が何も知らないと?私がそんな無能な領主だと?お前は言いたいのか?」
さっきまでの態度は変わらないが、顔が青ざめているな。
「……すみませんでした。そんなつもりはなくて、ただ、また大切な人を失いたくなくて。」
「そうか?あの戦でお前は何を亡くした?」
「両親と妹を。」
「なぜだ?我が領の人的被害はそう居なかったはずだが?」
「あの日、両親と妹は熱を出した俺のためにトマートゥを採りにイリンの森に行きました。」
ああ、領の境だな。ただ、イリンの森は森に入る人を選ぶはずだが。
「その森には入ることの許されたものしか入れません。俺の妹は許された者のようでした。イリンの森に行くという妹に両親はついて行ったのです。その森に向かう途中のイッツイの谷のところで隣国の兵士に殺されました。」
「その話は覚えている。そうかあの親子3人はお前の家族だったのか。あれは残念だったな。見回りの騎士たちが争う声と逃げ惑う音が聞こえるからと現場に向かったのだが、犯行現場に着いた時には逃げる奴らと、そして無惨な親子の姿だった。あの時は守りきれなくてすまない。」
「いえ、領主様は、あの後あ奴らを打首にしたと聞きました。両親と妹の仇をとって頂き、感謝しております。ありがとうございます。」
「いや、領民の仇はとった。しかし、お前の家族は帰ってこない。辛かったな」
「はい、辛かったです。悲しくて苦しくて、だけど俺には双子の弟がいたから、弟と力を合わせて頑張って来れたんです。弟には最近子どもが産まれました。俺が買ってやったカイチェアに座ってニコニコしている可愛い姪がいます。この幸せ壊されたくありません」
「そうか、そうだな。領民にも幸せに暮らして欲しい。それは私だけが思うのでは無い。争いのない世界があればそれは素晴らしいものだ。そんな世界になればいい、みんなが幸せであればいいと思うぞ」
「しかしな、人には欲があるんだ。欲を出すと、人からものを奪う。奪われたら奪い返す。それが大きくなって戦になるんだ。お前もいい大人だから経験を積んできたはずだ、わかるだろ?」
「領主様、実は、俺は今、18歳です。そこまでの経験なんてないですよ」
なんだと?どう見ても30過ぎのおっさんじゃないか?私よりも若いのなんて有り得るか?しかも18だぞ。
「今のこの姿は仮です。実は俺のスキルは変身なんです。今日は他の人に舐められた真似をされないようにこの姿で来ました」
そうか。変身スキル、これは使えるな。
「当時は両親と妹が殺されて、戦を起こした人が悪いって貴族の方たちを恨んだりしました。しかし、戦後、俺たちのためにいっぱい頑張って、このマーシュ領を立派にされてきた領主様なら信用がおけるとお話します。新しい事業もいいですが、もっと俺を使って貰えませんか?」
「先程は生意気な態度をとってすみませんでした。領主様が何も考えてないはずはありません。どうか、もっと平和な世の中を続けて行けるために俺を使ってください。」
「お前を使うには情報が少なすぎるんだ。どうやってこのスキルを得た?このスキルの事は誰が知っている。それと変身とはどの程度だ?性別や声は変えられるのか?」
「このスキルは5歳のイカルダ様からの祝福の時に授かりました。家族しか知りません。今の家族は弟だけになりますので弟が知っています。変身は、見たこと聞いたことは変わることが出来ます。性別も見た目変わることができます。声も真似ることができます。今まで見破られたことありません。」
「わかった。お前の使い道は考えるとしよう。ただ今回の契約魔法は受けてもらう。お前のことは追って連絡する」
私は面白い人材を手に入れた。この男が使えるかどうか確認しなければならないが、出来ればスパイとして育てたいものだ。
「そうだ、お前の名前を聞いていなかったな。名はなんという?」
「アジムです」
「覚えておこう。」
契約魔法を交わし、去りゆくアジムを見ながら使い道を考えていた。




