6 歓迎会
「それじゃ行きましょう!」
阿佐美が執務室のドアを開けた。その先は廊下ではなく、何故か和風の居酒屋になっていた。入り口の暖簾には「居酒屋えんま」と書かれている。
小野達三人は暖簾をくぐった。とても広いお店で、数多くのテーブルで様々な服装の冥官が飲食していた。
中には先程法廷で見た大きな牛頭と馬頭の鬼もいた。大きいテーブルと椅子を使って、体の大きさが全然違う他の冥官と楽しそうにお酒を飲んでいる。
「お、鬼がいるんですが……」
驚く小野に、久場が笑顔で言った。
「ああ、あれは、ある異世界の管轄庁の冥官だよ。その世界の種族がたまたま日本の鬼に似てたんで、閻魔庁に出向してもらって廷吏の仕事をしてもらってるんだ」
三人は、和服姿の店員に案内されて、テーブル席に座った。久場と阿佐美が向かい合って座り、阿佐美の右隣に小野が座った。
「小野君は、享年は二十歳以上だったっけ? お酒は飲めるの?」
阿佐美が聞いた。テーブル近くの壁には「お酒は享年二十歳から。享年二十歳未満の方は応相談」と書かれている。
小野がその貼り紙を見ながら言った。
「はい、ちょうど二十一歳になったばかりでした。お酒は嗜む程度です」
「了解! それじゃ、好きなの頼んでね」
そう言うと、阿佐美が小野にメニューを渡した。ごく普通の居酒屋メニューだが、「チーズ地獄」とか「血の池ジュース」等々、気になる名前もある。
小野は、レモンサワーを頼んだ。久場は「鬼撃沈」という日本酒を、阿佐美は「血の池ジュース」を頼んだ。ブラッドオレンジジュースらしい。食べ物は阿佐美が慣れた様子で適当に注文していた。
ほどなくしてお酒とお通しが来た。三人は乾杯した。
† † †
「そっかあ、子どもを助けて亡くなったのね。残念だったけど最期に人助けができて良かったわね」
阿佐美が小野に言った。小野が苦笑しながら答える。
「はい。あの子が助かって本当に良かったです。ただ、あまりパッとしない人生でしたね。結局彼女もできなかったですし」
「ここに美少女がいるでしょ、恋せよ若者! とはいえ、私は享年九十五歳だけどね」
「え、そうなのですか?」
小野が驚いて阿佐美に聞くと、阿佐美が笑いながら言った。
「そうよ、孫やひ孫に囲まれて、まさに大往生。最期はちょっとボケちゃったけど、まあいい人生だったわ。しかも、あの世に来たら女学校時代の姿に戻れて最高よ。心は若かったということね」
そう言って阿佐美が笑った。若すぎるにもほどがあるが、「女学校時代の姿に戻った」ということは、元々美人だったようだ。
「二人ともいいよなあ。私はどうしてこんな厳つい顔になってしまったんだろう」
久場が悔しそうな顔をして日本酒を飲んだ。小野が久場に聞く。
「久場さんも長生きされたのですか?」
「いや、私は享年四十五歳だね。陸軍法務官として高等軍法会議で勤務していたんだが、結核になってね。生前はもっと優男だったんだけどなあ」
陸軍法務官といえば、確か戦前の陸軍の裁判官のような仕事だったはずだ。優秀な人なのだろう。ということは、戦前に亡くなったのだろうか。優秀なだけでなく、相当なベテランなのかもしれない。
「司命様は、優しさだけでなく威厳と包容力があったんで、そういったお姿になったんですよ」
笑顔で阿佐美が言った。久場が笑う。
「そう言ってくれると嬉しいけどね。いやあ、二人には私の生前の写真を見せたいんだけどなあ。先に天国に行った妻や娘に、今度写真を送ってもらおうかな」
「あれ、久場さんじゃないですか、今日はよく会いますね」
先程「法廷前室」で会った第三十四部門の爽やかイケメン司録・山田が、久場の後ろを通りながら声をかけてきた。そのまま小野から見て左隣のテーブルに座る。
山田の向かいには、燕尾服を着た大層な美少年が座り、小野達に会釈した。
久場がその美少年を見て山田に話しかける。
「あれ、山田君、その子は第三十四部門じゃないよね?」
「ええ、少し前に第三十六部門に配属された子なんですが、何と、異世界経由であの世に来たそうなんですよ。ちょっと珍しいんで、食事がてら色々話を聞かせてもらおうかなと思いまして。ね、ワタル君」
「は、はい。そんな大した話ではありませんが」
ワタル君と呼ばれた美少年が、はにかみながら答えた。
「え、異世界経由? 珍しいですね。もし良ければ一緒に話を聞かせてくださいよ」
阿佐美が食いついた。久場も小野も興味津々だったので、ワタルの話を一緒に聞かせてもらうことにした。
† † †
「同じ元官吏として、君の苦労はよく分かるぞ! よく頑張った!」
久場が号泣しながらワタルの左隣の席に移動して酒を注いだ。ワタルは元公務員で、苦労して病死した後、ネコに似た住民が住む異世界に召喚されたそうだ。
ワタルは、久場に注いでもらったお酒を一口飲んだ後、照れながら言った。
「異世界でも色々大変ではありましたが、できる限りのことはしましたし、何よりも人生最高の親友に出会えたので幸せでした。閻魔様にお聞きしたところ、天国は各世界共通らしいので、いずれその親友がこちらに来るのをのんびり待とうかと思っています」
「美しい友情! 素晴らしいわ!」
阿佐美も泣きながら立ち上がって、ワタルの右側からお酒を注いだ。久場も阿佐美も泣き上戸のようだ。
小野は、泣きながらお酒を注ぎ続ける久場と阿佐美に挟まれて、戸惑いながら座っているワタルに声をかけた。
「ワタルさんも閻魔様にスカウトされたのですか?」
ワタルが笑顔で答える。
「ええ、閻魔様の執務室に呼ばれて、頭を下げてお願いされまして……流石に断れませんでした」
「僕も一緒です! あれだけお願いされると断れないですよね」
「ほんとですよね。あれは反則です」
そう言ってワタルが笑い、小野も一緒に笑った。
ワタルの異世界での活躍にご興味のある方は、別途掲載している「転生後も裏金作りをすることになった僕が命を賭けて頑張る話」と、「冷酷な司政官になった私が悪戦苦闘する話」をご覧いただければ幸甚です。




