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5 冥官の仕事

「お疲れさま。初めての閻魔様の裁判はどうだったかな?」


 第百二十八部門の執務室。久場が衣装を脱ぎながら小野に聞いた。


「ちょっと驚くことが多すぎて、頭がまだ混乱しています」


「ははは、私も最初はそうだったよ。少し休憩しようか」


 久場がお菓子を、阿佐美がお茶をそれぞれ応接セットに用意してくれた。


 久場と阿佐美がソファに向かい合って座った。小野は恐縮しながら阿佐美の右隣に座った。


「閻魔様が裁判で何をしているのか説明しよう。あ、食べながら聞いてね」


「ありがとうございます。いただきます」


 小野はそう言って、テーブルに置かれた饅頭を一つ取って食べた。こしあんが美味しい。


 久場も饅頭を一つ取り、食べながら説明する。


「まず、閻魔様は罪人を『地獄』に送った。地獄と言っても、仮想現実だけどね」


「仮想現実?」


 意外な単語に、小野は思わず聞き直した。


「うん、最近はバーチャルリアリティ、VRって言うんだっけ? 罪人はそこで自分の罪と向き合うんだ。仮想現実の中で被害者の苦しみや悲しみを体験するんだよ。悔い改めるまでね」


「あんな一瞬で悔い改められるんですか?」


 小野が驚いて聞くと、久場が笑った。


「時間の流れを操作してるんだよ。こちらでは一瞬だけど、仮想現実の中では、悔い改めるまで何年も何十年も、もしかしたら何百年も体験しているというわけだ。まあ、大抵は一回経験すれば改心するみたいだけどね……それで、悔い改めたところで、閻魔様が地獄から罪人を引き戻す。悔い改めた魂は、その姿も変わるから一目瞭然だ」


 先ほどの凶悪そうな強盗殺人犯が純朴そうな少年の姿に変わったのは、悔い改めたからだったのか。


 久場が説明を続ける。


「そして、悔い改めた罪人を救うため、今度は罪人を『並行世界』へ送った。パラレルワールドと言った方が馴染みがあるかな?」


 小野が答える。


「はい。SF小説とかで出てくる概念ですよね。並行して存在する別の世界といった感じでしょうか」


「うん、そんな感じだ。さっきの『仮想現実』と違って、パラレルワールドは『もう一つの現実』だ。罪人は、別の現実世界で人生をやり直し、臨終時の幸福度が一定レベルに達する人生を経験できたら、天国へ行くんだ。ちなみに、臨終時幸福度が低かった被害者についても、別途パラレルワールドで『被害に遭わなかった人生』を過ごすなどして、幸福度が一定レベルに達したら天国へ行くことになる。単に臨終時幸福度が低かった人も同じだね」


「ということは、どんな人でも必ず幸せになって天国へ行くということなのですか?」


 小野が聞くと、久場が頷いた。


「うん、そういうことになるね。様々なパラレルワールドでの経験は、最終的に一つの魂の経験として統合されるからね。不幸な人生もあったけど幸せな人生も経験できて良かったと思って天国へ行くことになる。もちろん議論の余地はあるけど、最終的には皆幸せになると言っていいかもね」


 久場が湯呑みに手を伸ばした。


「まあ、例外はあるけどね」


 そう言って、久場が湯呑みに口をつけた。



 † † †



「さて問題です、閻魔様は裁判をするとして、我々は何をするのでしょうか?」


 一緒に久場の話を聞いていた阿佐美が、突然小野に質問してきた。小野は慌てて考える。


「えっと……」


「ブッブー、はい、不正解!」


 一秒もしないうちに不正解認定されてしまった。まあ、実際分からなかったけど。


「では正解は、司命様からどうぞ!」

「え? いきなりだなあ」


 阿佐美の無茶振りに笑いながら、久場が説明を始めた。


「我々の仕事は、大きく分けると、閻魔様の裁判の事前準備とフォローアップだね。まず、簡易判定で天国行きを判断できなかった人の一生の記録を精査して、『天国相当』か、別の人生を経験して臨終時幸福度を上げてもらう『援助相当』か、あるいは『地獄相当』かを検討する。次に、その検討結果を閻魔様に報告して、判断を仰ぐ。そして閻魔様の判断に応じて、正式な裁判をしたり、我々で決定の言い渡しをしたりする。その後、並行世界で臨終時幸福度が上がる人生を送れるようにサポートする……とまあこんな感じだね」


 なかなか大変な仕事のようだが、まだ分からないことだらけだ。


 小野は質問してみることにした。


「大変そうですね……ちなみに仕事の分担はどのようになっているのですか?」


 久場が答える。


「記録の精査や取りまとめ、並行世界の人生の流れの監視等を、司録と司録付が行うことになっている。そして、閻魔様の判断結果を対象者に伝えたり、並行世界まで赴いて人の幸福度を上げるサポートを行ったりするのが、司命と司命付だね」


「こんな大変な仕事なのに、司命様は、司録を兼務しながら司命付不在で仕事をしてたのよ。すごいでしょ?」


 阿佐美が自慢げに言った。小野は素直に驚く。


「ほんと司命様はすごいんですね」


「慣れだよ慣れ。あ、私のことは『久場』でいいよ。阿佐美さんは趣味で『司命様』なんて呼んでるだけだから」


「だって、何だか格好良いでしょ」


 そう言って阿佐美が笑った。久場も笑う。


「ははは。それじゃあ、小野君には、さっきの改心した強盗殺人犯のサポートから対応してもらおうかな」


 久場がそう言うと、阿佐美と小野の顔をそれぞれ見て言った。


「とはいえ今日は初日だし、もう少しで退庁時間だ。仕事はここまでにして、これから小野君の歓迎会でもしようか」


「賛成! お店予約します」


 阿佐美がソファから立ち上がり、スマホでどこかに電話し始めた。

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