七十八話
早いもんで、今年も年の瀬がやってきた。
アタシの仕事はほぼ終わり。仕事納め、ということもあり、とある部屋で酒、ワインを呑んでいた。
まぁ、もっとも。アタシひとりじゃなくて、他にも女性と一緒。いわゆる女子会、というやつさ。
ただまぁ、ちょっと重苦しい雰囲気ではあったけどねぇ。
「ねぇ、ちょっと――」
「なんだい、お嬢ちゃん。そんな重苦しいと疲れちまうよ?」
アタシの正面に座ってる嬢ちゃん。イオス公爵家の令嬢、エレイン・イオス。
「あの……。なんで、ボクもここに……?」
まだ年若い嬢ちゃん。ある意味アインのお気に入りの妹分であるメル。
そして、アタシ含む三人が今回の女子会メンバーだった。
それにしても、おかしなことを言う娘だねぇ。
「なぁに、ここにいる全員。アインに骨抜きにされた者どうしだろう? それで恋バナしようってんだ。なにかおかしなとこあるかい?」
「ぅえっ! あの、ボク。兄さんとはそんな――」
アタシの恋バナ発言にメルは、わたわたと焦っていた。お嬢ちゃんは険しい顔をしてるものの、よくよく見れば、頬が薄紅色に染まっている。
「ちょっと、いきなりなに言ってるのよ」
エレインのお嬢ちゃんは、言葉尻こそ鋭いものの、声じたいは覇気がない。というより、恥ずかしさが勝っている、ってのが正確かい。
まぁ、恥ずかしいとか関係なく、アインのことを話したいことは確かさ。とくにお嬢ちゃんとは、ね。
「それで、確認なんだけどさ」
アタシはテーブルに身を乗り出しながらお嬢ちゃんへ問いかける。
「お嬢ちゃん。エレインだっけ? あんた、自分がアインの正室になることくらい、聞いてんだろ?」
「えぇ、聞いたわよ! ……驚いたけど」
最後にボソッ、と付け足すお嬢ちゃん。どうやら、ちゃんと聞いてるようで一安心だよ。
「お父様もきちんと話してくれればいいのよ!」
ばん、とテーブルを叩いて憤るお嬢ちゃん。
ちょっと、待ちなよ。もしかして……。
「もしかして、最近聞いたのかい?」
「……ええ、そうよ! アインがあたしの家に来たとき、始めて聞いたのよ!」
「まじかい……」
おいおい、冗談だろ? 本人に正室の話、してなかったのかい。一番重要なとこだろうに。
横でメルも驚いた顔で見つめてる。まぁ、こっちはそもそも、アインに正室。という話が初耳なんだろうけど。
「わぁ、エレインさま。兄さ――男爵さまと結婚するんですね。おめでとうございますっ!」
「あ、ありがとう……」
メルの屈託のない。本当に裏表のない祝福に照れてるね。可愛らしいもんだよ。お嬢ちゃんも、メルもね。
「まっ、アタシとしても一安心さね」
「……えっ?」
アタシの言葉に心底不思議そうにしているお嬢ちゃん。もしかして、あの娘。アタシがアインに抱かれてたとこ見てたから邪推してんのかね?
「まさか、お嬢ちゃん。アタシがあの坊や相手に玉の輿狙ってた、なんて考えてんじゃないだろうね?」
「……えっ、と」
そう言って、つつつ、と視線をそらすお嬢ちゃん。まじかい。どうやら考えてたようだよ。
「おいおい、勘弁しておくれよ。アタシゃ、平民の傭兵だよ? 貴族さまの本妻になんてなれるわけないだろ。それこそ、本妻を狙うとなれば、まだメルの方が可能性あるさね」
「ふぇっ……?!」
まさか自分の名前が出るなんて考えてもなかったんだろうね。メルは、アタシが名前を出すとびく、と肩を震わせてたよ。
まぁ、今回は別にこの娘をからかおう、ってことじゃない。なにしろメルはフェネクス男爵領、元寒村の顔役。デミオの孫娘だ。つまり、言い方を変えりゃ地元の有力者の孫、とも取れる立場さね。
それを取り込む、という意味ではメルを本妻に迎える、ってのは悪い選択肢じゃない。ただ、今回はお嬢ちゃんを本妻、正室に迎える方が価値があった。って、話さね。
それはともかく。
まさかの指摘にメルがぐるぐる、と目を回してるよ。
お嬢ちゃんの方は、さっきの祝福もあって警戒はしてないようだね。まさか、年若い娘に悋気なんて笑い話にもならないからね。
「あと、出来れば早くアインと身も心も結ばれてくれりゃあ、こちらとしては願ったり叶ったりだね」
「ちょっ、なに言ってるの!」
アタシの切なる願いにお嬢ちゃんは顔を真っ赤にして、静かに怒鳴る。なんて、器用なことをしてるよ。
「いやいや、アタシとしては本気だよ。このままじゃ、身がもたないからねぇ」
「……へ?」
「あの坊や、ベッドの上では間違いなくケダモノさ」
「はぅ……!」
アタシの言葉になにを想像したのか、お嬢ちゃんは身を仰け反らせた。
でもねぇ、冗談みたく聞こえるかもだけどアタシに取っては本当に切実さ。
前までは、アイン。坊やも慣れてなかったから、こちらのペースに持ち込めてたけど。少しづつ慣れてきてからは、なんというか。求められる時間が多くなってねぇ。
いや、まぁ。愛した男に女として求められるのは、本当、女冥利に尽きるけどさ。
それにだって限度があるんだよ。
「本当、この頃は長けりゃ朝方まで求められてねぇ……。腰や節々も痛くなるってもんさ」
「ちょ、それ……」
アタシの生々しい物言いにお嬢ちゃんは口をパクパクさせてるし、メルはあわあわ言ってる。
「しかも、だ。アインは妙なところで律儀でね」
「律儀……?」
「あぁ、そうさ。持て余すんなら、遊びの女でも作りゃあいいものの――」
「ちょ、ちょっと!」
ばんっ、とテーブルを叩いて立ち上がるお嬢ちゃん。それを落ち着かせるように、アタシは手で制する。
「話は最後まで聞きなよ。……えっと、遊びの女の話だったね。……たぶん、アインも行きずりの女として万が一、なんてことも考えてるんだろうけどね。アタシ以外の女の影。影も形もありゃしないんだよ」
「えっと、それって……」
「喜びなよ、お嬢ちゃん。アインはこと浮気に関してまったく縁のない誠実な男、ってことだよ」
ぼひゅ、という音が聞こえた気がするのと共に、お嬢ちゃんがすとん、と椅子に座る。こりゃあ、完全に放心してるね。
まぁ、なんにしても。アタシにとっちゃ、ここ。フェネクス男爵領はもう第二の故郷みたいなもんさ。
そして、故郷の女たちとなんてことのないお話し合い。酒の、ワインのツマミとして楽しませてもらうさね。




