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転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件  作者: 想いの力のその先へ
第二部 王国動乱前夜編 第一章 18歳 フェネクス男爵領領主、アイン・アルデバラン・フェネクス

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七十二話


「まったく、もぅ……!」


 ずんずん、と力強い足取りになる。

 ぐつぐつ、と魔力が煮立っているのが分かる。熱気が、ともすれば炎が漏れるかもしれない。それくらいにはあたしは苛立っていた。


 あたしが女性の傭兵。イオネさん、そしてレグルスに離宮を案内された夜。あたしはアインの行動に――いえ、イクリルやマイアさんもどういうつもりなのかしら!

 あの離宮がアンジェリカさまやミレイユさまの保護をするための施設、というのは良く分かったわよ。でも……!


「そもそも、奴隷の身分なら、解放すれば良いだけじゃないっ!」


 ……もちろん、あたしだって公爵家の娘だから、そういう横紙破りが難しいのは知ってる。でも、何事にも特例というのがあるわ。それが今回は適用できるはず。

 だから、あたしはそれを提案するため夜の領主館の通路を突き進んでいた。

 それに警備も警備よ。まるで人と出会わない。不用心すぎるわ。


 ――もっとも、それはあたしの勘違いで。もしも、その理由を察していれば、歴史は違ってたかもしれない。



 こんな時、アインは大抵自分の執務室にいる。だから、あたしは執務室を目指していた。

 そして、その直感は正しかったようで、扉の隙間からランタンの光が漏れ出してた。

 あたしは怒鳴り込むようにドアノブを捻り――。


「ぁ――!」


 アイン、と怒鳴ろうとして尻窄みになった。

 聞こえたの、声が。悩ましげな、艶やかな声が。

 軽快な、いつも聞くものとは少し違うような気がするけど、肌がぶつかるような音が。

 どこか湿ったような、まるで水が掻き出されているような水音が。



 ――あたしは扉の隙間から見えた光景に釘付けになった。

 昼間の傭兵。イオネさんとアインが半裸で抱き合っている姿に。愛し合っている姿に。


「……ぁ」


 喉がからからになってる。


 ――なんで。


 心臓がばくばく、と脈打ってる。


 ――なんで?


 胸が、そして、お腹の奥がきゅう、と締め付けられる。


 ――……なんで!


 頭が、視界がぐるぐる回って気持ち悪い。


 ――なんで、なんでなんでなんでなんで……!


「ぅ、あ……!」


 足から力が抜ける。ふらふら、と後ろへ下がってとん、と壁にぶつかった。ずるずる、と座り込んだ。

 頭の冷静な部分がスカート姿で足を開くなんてはしたない、と告げる。

 頭がガンガンする。目の奥が熱い。ぽろぽろ、と涙があふれてくる。


「ひ、ぐっ……!」


 なぜ、嗚咽が漏れるんだろう。


 ――悔しい/なんで悔しいんだろう。


 ――苦しい/なんで苦しいんだろう。


 ――悲しい/なんで悲しいんだろう。


 ――妬ましい/……ああ、そうか。


「あたし、バカだっ……!」


 ……あたし、アインのことが好き、だったんだ。幼馴染み、というだけじゃなくて、ひとりの男性として。

 でも、アインは伯爵家の四男坊で。男爵家の当主で。公爵家のあたしとは家格で釣り合わなくて。

 そんな考えで言い訳して、勝手に諦めて。挙げ句、勝手に傷ついて……!


 これがライナならまだ諦めが着いた。認められた。でも、なんで、その人なの。

 あたしたちの知る人じゃなくて、それどころか貴族ですらなくて。それなのに、なんで。なんで、愛しい人(アイン)に愛されてるの。


「あぁ、そっか……」


 アマテルさんのブーケトスの時、あたし、どうしても取らないと、って思って。でも、失敗して。そして、受け取ったのはあの人。イオネさんで――。


「……あたし、最初から敗けてたんだ」


 これじゃ、あたし。ただの道化(ピエロ)じゃない。当て馬にされて。好きな人を取られて。あたしが先に好きだったはずなのに。

 ぽろぽろ、と滂沱の涙が止まらない。

 ……寒い。寒さを堪えるようにま自分の身体を掻き抱く。


 頭の中がぐるぐるして、考えがまとまらない。


 泣き止まないと/――――なんで。


 ここから立ち去らないと/――なんで。


 アインにこんな姿、見られたくない/なんで!


 ……なんで、そこにあたしがいないの!


「ぁははっ……」


 いやだ、いやだよ。あたしがすきだったのに。あいんは、あのひとを愛していて――。


「いやだよぅ……」


 こころが、むねがひきさかれそうで……。




 ……その後の事は、よく覚えてない。ただ、アインたちには見つからなかった、と思う。

 翌日、あたしは逃げ帰るようにフェネクス男爵領を離れた。

 アインはどこか心配そうにあたしを見てたけど、きちんと笑えてただろうか?


 あたしはイオス公爵家の令嬢、エレイン・イオス。そして、アインたちのお姉ちゃんなんだ。だから、心配なんかかけちゃ……。

 それでも、しばらくアインの顔を見たくなかった。見れなかった。そうすれば、あたしの中にある嫉妬が、悲しみがあふれそうで。

 だから、あたしは逃げ帰るように……。


 あたしは、また、笑えるだろうか?

 ――分からないよ、アイン。あたし、どうすれば良いの?

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