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転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件  作者: 想いの力のその先へ
第二部 王国動乱前夜編 第一章 18歳 フェネクス男爵領領主、アイン・アルデバラン・フェネクス

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七十一話


「さて、どうしたものか……」


 ぎしり、と執務室の椅子が耳障りな音を奏でる。イクリルくんと姉上の結婚式から既に一週間の時が流れていた。

 このフェネクス男爵領でもそうだが、イオス公爵家に関わる貴族家の領地では、まだ祝賀の雰囲気が続いている。それほど祝ってくれるのは家族としてありがたい限りだ。


 ただ、それは今回重要じゃない。

 今回、重要なのは俺の前に立つ、年頃は俺より5つ程年上に見えるふたりの女性。


 ひとりはエレインを思わせる深紅の髪をポニーテールに纏めた、全体的に引き締まりながらも女性らしい丸みを帯びた女性。もうひとりは黄緑の髪をセミロングに伸ばし、どこか聖母を思わせる柔らかい気配を持つ女性。

 ふたりの女性には同じ特徴があった。それはみすぼらしい麻の襤褸服、そして首元に付けられた首輪。奴隷という身分を表す首輪が付けられていた、ということ。


 そのなかで、深紅の女性が凛とした雰囲気で話しかけてきた。


「それで、アイン・アルデバラン。あなたが私たちの新しいご主人、と言うことで良いのか?」

「……書類上は、ですね。殿()()


 そう、話しかけてきた女性はディオスクロイ子爵家が確保――保護した王族奴隷のひとり。アンジェリカ・パルサ殿下。そして、黄緑の女性はミレイユ・パルサ殿下。

 俺が保護すべき。つまりハレム、離宮の住人となるべき人たちだった。



 ――遡ること一週間前、イオス、ディオスクロイ、アルデバラン、そしてフェネクス。四家による会合の後、マイア夫人により引き渡されたのがお二人だった。

 そのことにとくに衝撃を受けていたのはエレインだった。

 なにしろエレインとアンジェリカ殿下は気質が近いこともあり、俺たち。ライナ、エレイン、そしてアンリと遊んでいた時、可愛がってくれたのが殿下だった。

 その殿下が、己が知らぬところで奴隷に落とされていた。その衝撃はいかほどか。

 それにミレイユ殿下もかつての王宮では多少関わりがあった。つまり、顔を知る仲だった。


 その証拠、というのは少し違うだろうが。エレインは今回殿下を見たことで単身飛び出し、こちらの帰還に無理やり着いてくるくらいには。


 ちなみに、件のエレインはいまイオネとレグルスに彼女らの住居となる離宮の案内を受けている。

 こちらに着いてくる時は大層ご立腹だったので、案内で少しでも溜飲が下がると良いのだが。


「しかし、無事――と言って良いのか分かりませんが、ともかくご無事で良かった」

「そう、だな……」


 俺の言葉に遠い目をするアンジェリカ殿下。

 なにしろ、マイア夫人から聞いた一部の王族奴隷。彼らの間に合わなかった末路が悲惨すぎた。

 男は鉱山の苦役で使い潰され、一部の見目麗しい若い者は男娼として売り払われた。女性は見せ物としての娼婦として辱しめを受けていた、という。


 これもまた、王国の後ろ暗い部分ではある。

 そもそもの話、どのような善政を敷く国家でも万人を幸福に、満足させるのは不可能だ。なんと言っても万人には万人の幸せのかたちがある。そして、とある者の幸せは別の者の不幸、等というのは往々にしてある。

 そしてパルサ王国が中世国家である以上、人権などという概念が成熟しているわけもない。そも、成熟しているなら表向き奴隷制など廃止されているだろう。実情はともかくとして。


 そんな国家に王族という高貴な身分の奴隷が現れたんだ。欲望の、ストレスの捌け口になるのは自然にして必然だった。

 その悪意を正面から浴びたんだ。

 アンジェリカ殿下こそ気丈に振る舞っているが、ミレイユ殿下はよく見れば、小刻みに身体が震えているのが分かる。

 たとえ身体を傷つけられなかったとしても、心は、精神はそうもいかない。しかも、聖母と称されるように、万人に優しかった殿下なら、なおさらだ。


 しかも、言っては悪いがお二方は運良く生き残り――言い方を変えれば、同胞の末路を見送った側だ。彼らの最後。言い換えれば自身のあり得た未来を見せられ平常でいられるわけもない。それでもなお、気丈に振る舞われるアンジェリカ殿下のお心がとくに強いだけだ。


「マイア殿にも苦労を掛けた」

「そのようなこと、夫人は気にしておられないでしょう」

「それでも、だよ」


 気丈に、それでいて苦笑を浮かべられる殿下。彼女がマイア夫人相手にへりくだっているのは単純に、夫人とは異母姉妹の間柄だからだ。

 本妻、王妃殿下の直接の子供は第一王子のダレス殿下。第二王子のアクラ。そして、第一王女だったマイア夫人。この三人だけ。残りの――ライナ含めて――王子、王女は妾腹の子供なのだ。

 さらに言えばこの三人。ライナ、アンジェリカ殿下、ミレイユ殿下もそれぞれ母親が違う。本来で言えば、国王たるサルガス王が多くの女性を侍らし子沢山、というのは喜ぶべきことだ。

 ただ、今回はそれが悪い方向へいって被害が拡大しているとも言えた。むろん、産まれた子供に罪、なんてものはない。あるいは運が悪かっただけだ殿下たちも、ライナも。


「ともかく、アンジェリカ殿下、ミレイユ殿下には辺境となりますが、我が領地で静養していただきます。身の振り方については、いずれ……」

「ああ、判っている。ありがとう、アイン・アルデバラン」


 ふっ、と柔らかく微笑むアンジェリカ殿下。俺もつられて微笑を浮かべた。

 そんな俺たちふたりの耳に、甘く蕩けそうな音色が届いた。


「ありがとう、アインくん。しばらく、お世話になるね」

「ミレイユ殿下も、ぜひおくつろぎください」


 ミレイユ殿下もまた、声が震えながらも健気に話しかけてきた。どうか我が領地で、少しでも心の傷を癒していただきたいものだ。

 俺はそう思いながら、イオネたちがエレインの案内から帰ってくるのを待つのだった。

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