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転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件  作者: 想いの力のその先へ
第二部 王国動乱前夜編 第一章 18歳 フェネクス男爵領領主、アイン・アルデバラン・フェネクス

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六十八話


 光陰矢の如し、とは言うが本当にその通りで、いまは暦の上では初夏。少し暑くなってきている。

 久々に俺は元寒村。フェネクス男爵領首都であるフェネクスを視察、という名の散策をしていた。


「りょうしゅさまっ!」

「おっと、どうした?」


 歩いている俺に抱きついてきた子供。フェネクス領が豊かだと聞いて、一縷の望みをかけてこちらに来た移住者の子供だ。

 両親はいま、引っ越しの準備で大わらわだろう。

 住居の区画整理。ならびに田畑拡充のため、農業都市やフェネクス付近にある河川。その下流に開拓予定の第三都市へ多くの移住者が移動している。

 俺に抱きついて、むふー、と満足げな子供。その頭をわしゃわしゃ、と撫でてやる。


「くすぐったいよぉ」


 笑いながらそんなことを言う。満面の笑みを浮かべるこの子に、絶望といった感情はない。

 これから、この子のような子供は増えて、領地は発展していくだろう。


「領主さま!」


 ビックリ、したような甲高い声。聞き覚えがある。この子の両親の声だ。我が子が領主に、貴族に抱きついているのだから、彼らの驚きは察するにあまりある。

 俺は子供の頭をぽんぽん、と優しく叩くと離れて両親の元へ行くよう促す。


「ほら、お迎えが来てるぞ?」

「……あっ、パパ、ママ!」


 子供は現金なもので、両親が来ていることを知ると、ぴゅー、とふたりの元へ走り去っていく。やはり、両親が構ってくれなくて寂しかったのだ。

 俺も彼らの元へ歩み寄ると、警戒させないよう気さくに話しかける。


「すまないね、大変だろう」

「いえ、そのようなことは……」

「あなたたちには苦労を掛ける」


 そして、俺は頭を下げた。

 本来、立場が上の者。しかも、貴族が軽々しく頭を下げるものじゃない。

 俺自身の評判にも関わるし、場合によっては彼らにも貴族に頭を下げさせた。という、レッテルを張られるからだ。


 だが、俺は敢えて頭を下げる。

 自己満足、という部分もあるが、なにより彼らに誠意を見せたいからだ。

 なにしろ、彼らの引っ越しはこちらの都合だ。彼らの都合じゃない。にもかかわらず、半ば強制的なお願いとなってしまっている。

 ならば、せめて。彼らにはこちらが感謝している、という姿勢を見せたいのだ。


 その後、家族たちと別れて帰路に着く。ばいばい、とこちらに手を振る子供が印象的だった。

 帰路のなかでがやがや、と賑やかなざわめきが聞こえてくる。


「よくもまぁ、ここまで建て直せたものだ」


 客を呼び込む露店の亭主が張り上げる威勢の良い声。子供たちの楽しげな笑い声。あるいは男女が愛をささやく声。

 それらの声が耳に入ってくる。


 俺たちがここへ、フェネクスとなる前の寒村ではあり得ないことだった。なにしろ、当時。村には絶望しかなかった。

 それがいまでは楽しげな笑い声が、人々の幸せそうな声が聞こえてくる。

 苦労もあった、絶望もあった。しかし、いまは希望がある。


「それもこれも、皆が頑張ったから、か……」


 俺たちだけでは到底、イオス公爵家やアルデバラン伯爵家の協力だけでもダメだった。

 本当の意味で重要なのは、領民たち。彼らが自ら救われたい、という意思。それがなければ、ここまでの復興はできなかった。




「兄さ――!」

「うん……?」


 いつの間にか、考えに没頭しすぎていたらしい。後ろから、俺のことを、兄さん。と呼ぶ声。そんな言葉を言うのは一人しかいない。


「メルか?」

「……は、はい。領主さま」


 どこか歯切れの悪いメル。外で兄さん呼びしようとしたことを気にしているようだ。

 ……どうにも、やりづらい。それに、俺はその程度で咎めるような狭量に見えるのだろうか?


「兄さん、で良い。いままで通りな」

「……でも」


 どこかためらっているメル。それでため息をつきそうになる。

 年を取れば、年齢を重ねるごとに常識、というしがらみが増えていく。


「ここが公的な場か? 違うだろう? そこまで気にしなくて良い」


 その言葉を聞いて、メルは泣き笑いの表情になっていく。気が張り詰めていたのだろう。

 いくら彼女が騎士志望で、有望株の女の子だとしても。いや、女の子だからこそ。

 メルはまだ女の子、大人になりきれない女の子なんだ。そんな子を見捨てるような大人にはなりたくない。


 その気持ちが通じたのかは分からないが。

 メルは涙を流し、とん、と抱きついてくる。


「……にぃ、さんっ!」


 こんな小さな、華奢な身体に大きなプレッシャーを背負い込むメル。

 そんな彼女の一助になれれば良い。そう考えていた俺はついぞ気づくことはなかった。


 ……ふたりが、俺とメルが抱き合っているところを見られていた、なんてことは。

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