六十七話
姉さん、アマテル・アルデバランが領地に来襲してから早くも一ヶ月経つ。その間、領地の発展に尽力してきた。
主に尽力したのは、やはり農業都市。鉱山関係だ。
いまはほぼ、金鉱、鉄鉱をそのまま出荷するのが過半だ。なにしろ、鍛冶屋が少ない。領内用の家具、建築。それに武具用の材料を冶金、製鉄するのが精一杯だからだ。
ただ、それもアルデバラン伯爵家、イオス公爵家。それにマイア夫人、ディオスクロイ子爵家から職人が派遣されたことで、少しづつ改善してきている。
「ふむ……。だいぶん軌道に乗ってきた、かな?」
「それなら良いんだがねぇ」
「そういってくれるなよ」
横で仕事をしていたイオネが茶化してくる。
ちなみに、レグルスはいま農業都市に視察に行っている。採用した代官のこともあり、現場の確認を兼ねてのことのようだ。
そのレグルスだが、姉さんにこってり絞られてさすがに堪えたようだ。代官側室の件を白紙に戻してきたのだから間違いないだろう。
むろん、それは別として任命された代官は続投。もともと、能力を重視して選ばれたのだから、そこはおかしくない。
まぁ、実際働いている合間に、俺や他の人間に見初められれば、という考えもまだある、と思われる。
「まぁ、なんにしても、だ。早く領地を安定させないと」
「あのお姉さんの話かい?」
「あぁ、そうだ」
イオネにもアマテル姉さんが来た件については話してある。また、前後して直接姉さんと話す機会もあったようだ。
その様子から見ると、ふたりの相性は悪くない。
実際、最初の方は情報交換に従事していたが、すぐにこやかな談笑へと変わっていった。
まぁ、話すことに気まずさはあった。ある意味、俺の醜聞を話すことでもあるのだから。
だが、結果として、話す方がプラスだった。
以前の冷たい目の件が誤解と分かり、少し態度が軟化したからだ。ついでにメルの方の誤解も解いてくれる、とのことだった。
なお、そのことについて少しはあの娘のことを考えてやりなよ、とお叱りも受けることになった。
「ともかく、安定させないことには長く領地を空けることもできないしな」
「そりゃあ、まぁ。でも、レグルスに任せても良いんじゃないかい?」
「ふむ……?」
イオネの提案に、少し思案する。
確かに、レグルスをフェネクス男爵家の家宰に任命している以上、奴に任せて領地を空ける。ということも問題ない。
と、言うか以前にもやっている。
イオス公爵領やディオスクロイ子爵領で話し合いをしたのがそれだ。
それを考えると、イオネの指摘も道理だ。
「そうさな。もしもの時は奴に領地のことは任せるか」
「あぁ、そうしなよ。式には王女さまも来るんだろ?」
「……あぁ、そうだな」
イオネがライナのことについて触れてくる。
今回、色々と話すついでにライナのことも情報共有しておいたのだ。
とくに、今後のことを考えるとイオネにはマイア夫人との連携を取ってもらう可能性は十分にある。そのときに情報を知らなければ、協調も出来ないから当然だ。
「しかし、坊やも難儀なことだね。本来する必要なんてないんだろ?」
「必要ならあるさ。俺が後悔する」
その言葉が予想外だったのか、イオネはぽかん、としたあと呵々大笑した。
「そうか、そうか! 後悔する、か! そいつは重要だ!」
あまりの笑いぶりに、むかっ腹が立ちそうになる。しかし、これは俺の意地、意思だ。他人に共感してもらうも、押し付けるものでもない。
ただ、多少顔に出ていたようで、イオネは笑いすぎで出た涙を拭いつつ、こちらへ詫びを告げた。
「すまないねぇ。あんたのこと、笑った訳じゃないよ」
「分かってはいる。しかし、な……」
「ごめん、ごめんて……」
笑いつつも頭を下げるイオネ。
彼女がわざとじゃないのは理解しているし、引き摺るつもりもない。
「まぁ、良い。それよりイオネ。今後はマーネン商会。マイア夫人と歩調をあわせてもらう可能性がある。大丈夫か?」
「大丈夫に決まってんだろ? 信用しなよ、このアタシを、ね?」
「あぁ、そうだな。もしもの時は、任せる」
「あいよ、任されて」
ふたりでの軽い応酬。気安い関係、とはこういうことを言うんだろう。今さらながら、こんな空気が、いつまでも続けば良い。
そんな益体もないことを考えてしまった。




