六十三話
ヴァンが来て、レグルスにダメ出しされた日から早二週間経っていた。
結局、あのあと。管理に関しては保留となり、先に箱物。ハレムだけを建設することだけ決定した。いわゆる先延ばしである。
まぁ、最悪管理は男爵家当主の俺が行うことになるだろう。女好き当主の面目躍如だ。……いや、むしろ。汚名挽回クラスの面目丸潰れかもしれないが。
ちなみに、本来の用途で言えば汚名挽回でも意味合いとしては汚名返上と変わりないのだが、どうしても字面的にダメな意味合いで取られることが多かったりする。
それはそれとして、建設自体は順調に進んでいる。
なんだかんだ、レグルスも必要なものである。ということは理解しているようだ。もっとも、王族の保護施設ではなく、本来の用途。俺の、いずれ結ばれるであろう室たちの住居として、だが。
また、農業都市。あちらでも金鉱などの利益が少しづつ上がってきている。まぁ、利益の一部がハレム。離宮の建設費用として用いられているのだが。
そんなこんなで順調な我が領土だが、やはり問題もある。その中でも直近の問題は……。
「それで、レグルス。それは本当なのか?」
レグルスから報告された問題。それはある意味、俺の予想外で、同時に想定しておくべきことだった。
「えぇ、アインさま。……一部の奴隷が、解放を望まない、と」
「まさか、本当とはなぁ……」
思わず椅子に座ったままのけ反り天井を見上げる。
そう、それは一部奴隷が、自分たちを奴隷から解放してくれるな。と、デモを行っているのだ。
そのデモを元々寒村出身の住民たちは不思議そうに見ている。という、おまけ付きで。なお、イオネは話を聞いて爆笑していたし、メルは住民と同じくポカン、と目を丸くしていた。
それはともかく、正直おまけの方はどうでも良い。というか彼らからすれば理解できない話だからだ。そして、村で売られ買い戻された奴隷も同じだろう。
今回反対しているのは主に年老いた奴隷や独身の奴隷たちの一部。彼らの言い分はこうだ。
――ここで解放されても、どう暮らして良いか分からない。それよりは、男爵さまの所有物の方がいい。
と、言うものだ。
それを先ほどレグルスに聞かされ、頭を抱えているわけだ。
「ちなみに、だ。もし、俺がおとなしく解放されろ! と、言った場合どうなると思う?」
「まぁ、アインさまの言うことですから、素直に従うと思いますよ。……周辺の物笑いの種となるでしょうが。――ぷっ」
「笑ってんじゃないよ!」
思わず、怒鳴る。しかし、レグルスの言っている意味も分かるのだ。
そもそも人間自体、新しいよりも古い、慣れたものを好む保守的なところがある。なにしろ、古いものは新たな見地という正解はないが、同時に失敗もない。言い換えれば、安定している。
俺だってそうだ。端からみれば新しい物好き、革新的な人間と評されるだろうが、実態は前世の知識をもとに制度を引っ張ってきている。
そんな人間が革新的なはずもなく。もし、本当に革新的なら先日のハレムの件も軟着陸させられたはずだ。だが、出来なかった。それが俺、という人間の限界だ。
そして、そんな俺であるが。今回に関して、既に解を得ている。前世の知識として。
「それでどうするつもりです、アインさま」
「彼らの要求を一部飲む、という形にするさ」
「ほう? それは……」
「彼らに住居と畑を与える。また、兵役を義務付ける」
いわゆる農奴制だ。
ようは、彼らは土地がないから。地盤がないから不安なのだ。その地盤をこちらで用意する。その対価として労働力を提供してもらう。主に危険な区分で、だ。
「それはまた、思い切りましたね? ……反対はしないでしょうが」
「だが、現実的な落としどころでもある。違うか?」
「いえいえ、まったくその通りで。反発は少ないかと。ですが……」
「わかっている」
最初の方は問題ないだろう。だが、制度に慣れた段階で問題が出てくる可能性は高い。
なにしろ、今回施行する農奴制は自由民と権限的なほぼ違いがない。それでいて制約が多くなる。簡単に土地の移動が出来なくなるし、兵役という義務。負担もある。
それを放置しておけば、いずれ今回のような問題が噴き出るのは必定。そのため、あらかじめ制度を詰めておく必要がある。もしもの場合、領地を維持させるため。
「さて、とりあえず。詳細を詰めようか」
「了解いたしました」
そして、俺とレグルスで議論が執り行われた。
……出来れば、こんなことを行わなくても領地が回る。そんな未来を創りたいものだ。




