六十二話
仕事の最中、イオネ殿からアインさまの呼び出しの話を聞き、現場へ向かったわけですが――。
「――と、言う訳なんだ」
「なにが、と言う訳ですか……」
我が主、アイン・アルデバラン・フェネクス卿の話というのは、相変わらず突拍子もなく。それでいて効率的なものでした。
「もう一度聞きますが、アインさま。領主館に併設する形でハレムを建設。そこにお歴々を保護する。それのカバーのために、敢えて女好きの風聞をバラまく、と」
「あぁ、そうだ」
「……控えめに言って、バカですか。あなた?」
確かにそれなら効率的に保護できるでしょう。ですが、貴族にとって評判は大切なものでしょう。それを切り捨ててどうするんですか……。
と、そういう苦言を呈したいのですが。アインさまはそういうものには無頓着ですから。
横ではイオネ殿も頭を抱えています。
「いや、バカは言い過ぎじゃないか。レグルス」
「なにが言い過ぎ、ですか。むしろこれでも歯に衣着せています。本当ならバカもバカ。大馬鹿者と言われても可笑しくありませんよ!」
私の啖呵にアインさまは、顔を引きつらせています。
それに、イオネ殿もどこか私から距離を取ろうとしているご様子。頭取殿はそんな我らを面白そうに見ておられました。
ともかく、溜まりに溜まったものを吐き出した私は深呼吸して心を落ち着かせました。
「……それで。仮に、仮にハレムを建設したとして、誰に管理させるのですか?」
「そこは……。イオネに依頼しようかと――」
「冗談はおよしよ! アタシに出来るわけないだろ!」
アインさまの突拍子のないお話に、イオネ殿はがたり、と跳ねるように立ち上がり否定します。
私としてもそう思います。今でさえ、イオネ殿は領地の陰として働いておられます。そういった意味では、打ってつけなのかもしれませんが、それはそれとして、傭兵の彼女にお歴々の管理など、どう考えても厳しいでしょう。
……まぁ、アインさまの思惑も理解できます。
おおよそ、イオネ殿にハレムを管理させることで予行練習をさせたいのでしょう。自身の奥向きの管理、という練習を。
彼女とアインさまがそういった関係になっているのは知っています。と、言うよりイオネ殿より相談を受けていました。
正直、それ自体は問題ありません。とくにアインさまは新興貴族。血筋、という点で言えば女性を囲うことに問題は――。
「あぁ、そういうことですか。アインさま」
肚にストン、と腑に落ちました。
女好き、という風聞はイオネ殿を側室に迎えるための地均しを兼ねている、ということです。
私の確信が正しかったようで、アインさまは悪どい笑みを浮かべられています。
「分かったか。で、どう思う?」
「ダメですね」
「む……」
私が即切り捨てたことで、アインさまは不満そうにしています。対して、イオネ殿はホッと胸を撫で下ろしています。
ただまぁ、仕方ありません。アインさまの思惑も分かります。しかし、イオネ殿では格が足りません。言い換えれば、家柄。家格です。
アインさまが市井から側室を見出だし、それをイオネ殿に管理させる。と、言うことであれば問題ありません。ですが、今回相手は王族。さすがに見劣りする、としか言えません。
あと、可能性があるとすれば。イオネ殿をどこか、貴族家の養女とする。ということですが、生半可な御家ではダメですし、伝手もありません。
はっきり言って、イオネ殿に管理させるのは現実的ではないでしょう。
……一応、管理できるかどうかは置いておくとして。家格的に問題なく、親交もある方はおられます。
――イオス公爵家令嬢、エレイン・イオス。かの姫騎士さまです。
彼女の名代としてイオネ殿を指名してもらう。いわゆる名義貸し、という形ならば不可能ではないでしょう。
……かなり苦しい。こじつけに等しい方法ですが。
まぁ、問題はそんなことを言えば、本人が乗り込んできかねない。と、いうところですが。以前の黒鍬隊のこともありますし。
それにさらに言えば、手伝いをすることに対して公爵家へのメリットがありません。むしろ、中央の政局に巻き込まれかねない、というデメリットの方が大きい。
最低でもそこら辺りの調整は必須。それこそ、エレインさまを正室としてお迎えする。それくらいのことが必要でしょう。
ただ、そうすると、今度はアインさま。新興貴族の男爵、という家格の低さがネックとなりますが。
「まぁ、なんにせよ。イオネ殿を管理者にするのは諦めてください。ハレム建設については、いずれ必要になるものを前倒しにする。という名目でどうにかなるでしょう」
「やれやれ。やっぱ、ダメか?」
「ダメです」
アインさまは私のダメ出しを受けて、しょぼん。と落ち込んでおられました。
――ただ、まぁ。
イオネ殿と目を合わせてこくり、と頷き合います。
アインさまのことです。どこかで無茶なことをやりかねません。
だからこそ、私とイオネ殿。ふたりでそれとなく、アインさまを監視することにいたしました。
……はぁ。また、余計な仕事が増えましたねぇ。




