五十三話
エルファス閣下やマイア夫人との会談……という名の談合よりそれなりの時間。具体的に言うなら新緑が散り、灼熱の時期を通りすぎて、秋の実りに感謝する。
そんな時期まで過ぎた頃、ようやく新都市。農業都市の開拓目処が立ってきた。
「しかし、今さらながら魔法が羨ましく思えるよ」
「アインさま?」
思わず愚痴る俺を不思議そうに見つめたレグルス。
俺は嘆息しながら、考えていたことを話す。
「だって、そうだろう。土系統を使えれば整地や開拓が楽になるし、風系統なら材木の切断なんてお手の物。火は……ちょっと扱いづらいが鋳鉄、鋳造、製鉄。水系統は村……と言っていいのか? ともかく、ここや都市に水を引くのに便利そうだ」
ちなみに、メルは水系統亜種の氷魔法の使い手だが、彼女は騎士志望ということもあり、訓練を優先させている。
そして、残念ながら俺には戦士としての才能とともに魔法の才能も乏しかった。と、いうかそんなものがあればもっと早い時点で使っている。
ビバ、魔法だ。くそったれめ。
「まあまあ、アインさま。やさぐれても仕方ありませんよ」
「……それは分かっている」
そう、分かってはいるんだ。
ただ、魔法が使えればもっと楽だったよなぁ、と考えているだけで。
それに……。仮に俺が魔法を使えたとして、俺はそれを主軸には置かなかっただろう。
再三言っているが、魔法は才能、才覚。個々人で差があって代替が効かない。中央値、とでも言うか。それが計りづらいんだ。
それに魔法は利便性があるのは確かだが、頼りすぎると技術者。大工などをないがしろにしかねない、という問題もある。
技術、とは発展させるとともに継承させるものでもある。
だが、魔法という秘術はその技術を一足飛びに飛び越えて結果を出す。奇跡を起こす。そして、奇跡を当てにしすぎて魔法に傾倒すれば技術が断絶する。
長期的に見れば、それは間違いなく損失だ。
むろん、魔法を体系化させ学問として、技術。魔術としてとして均一化させる。そんな方法もあるだろう。
そこでも才能は要求されるだろうが、多少はマシになるだろう。
「魔法学校、か……。王都にそんなもの、あっただろうか? レグルス、知ってるか?」
「いえ、寡聞にして知りませんね」
「そうか」
学校はない、か。となると少なくとも民間では、個々人での師弟による継承が一般的なんだろう。そこに魔法の教育。新たな道筋を作る、という方法もある。
……まぁ、領地を発展させることが精一杯の現状ではとても手が回らない。後々の選択肢のひとつとして、心に留めおくとしておこう。
もっとも、貴族学校やその類いで魔法を教えている可能性は高い。俺やエレインは通っていないから判断つかないんだが。
「魔法学校はともかく、王都に騎士学校はあったはずだが……」
ただし、イオス公爵家の環境より良い教師を招聘できるかについては、疑問符を抱かざるを得ない。特にかの学校は各派閥の利権が関わってきて、嫌気が差した教師が出ていった、何て噂まで立つ始末。
それなら実家で養育する、という結論に至るのは極めて自然だろう。
「アインさま、領地にもいずれ学校を建てるつもりで?」
「……ん? あぁ、そうしたいと思ってる。が、まずは開拓と区画の整備だろうなぁ」
そう、開拓と平行してかつての寒村。フェネクスの拡張も行っていた。……なお、フェネクス改名の認可はまだ出ていないが、エルファス閣下とマイア夫人が連名で動いている。さすがに大物ふたりが動けば、遠からず認可されるだろう。
と、いうか。お二方が動いて半年以上。いまだに認可が降りてないのだから、どれだけ頑ななのか、という話だ。
それはともかく。
開拓している農業都市――に、隠れる形で金鉱の整備もバレないように進めている――は、順調なのだがフェネクスの方は頭打ちになってきている。
と、いうのもスタンピードが起きた後。専門家の意見を聞きながらゆっくりと拡張を進めていたのだが、さすがに拡張限界まで来たようなのだ。
これ以上拡張したら、ふたたびスタンピードが起きかねない、という意味で。
そのため、というわけでもないが。今後のことも考えて区画整備もしておきたいんだ。
具体的に言うと、開拓途中の農業都市に人口を集めつつフェネクスの住民たちもあちらへ引っ越しさせ、フェネクス自体は行政都市としての顔を持たせよう。といったところだ。
これは官吏、文官を一ヶ所に集めて防諜対策をしたいこと。政策、立案部署をコンパクトにしたいこと。農業都市と行政都市に別けることで領内物流による雇用、経済を回したいこと。
これら複数の理由によってだ。
そのことについて、俺とレグルスはこれまで何度も議論を重ねてきた。どうすれば効率的か、どうすればより良い配置にできるか、と考えてだ。
もちろん、イオネも参加できる時は防諜に関してのアドバイザーとして参加してもらっている。いまは少し忙しくて、こちらに参加できていないが。
「いまは一歩づつ、だな」
すべてを一足飛びにできるわけじゃない。区画整備もまた時間がかかるだろう。しかし、動かなければ始まらない。何事も最初の一歩から、だ。
それを考えながら、俺は議論を、会議を進めるのだった。




