⑧
かわって、凛音。
さっきの男についていく。
ガチャ…
鍵を開けて、家に入った。
「お邪魔します」
「堅苦しくなくていいから、手当てするよ」
「ありがとうございます」
「俺、安藤。よろしく」
「的場です。よろしくお願いします。」
「だから、堅苦しいのはいいって」
そう言って、安藤の家に上がる凛音。
「そこ、座って!救急箱持ってくるから」
「はい」
ソファーに座る凛音
安藤は、救急箱を持って凛音の隣に座った。
「結構殴られたね。知り合いだった?」
「知らない人です。」
「酷いことするね、染みるよ」
「ッツ」
「大丈夫?」
「はい」
安藤は、消毒をして絆創膏を貼ってくれた。
凛音は、ポロポロ泣き出してしまった。
「痛かった?ごめんね。」
「そうじゃないんです。」
「彼女と喧嘩したの?俺でよかったら、話聞くよ。」
その言葉に、凛音は全て話してしまった。
「彼氏だったんだね」
安藤は、凛音にティーバッグのほうじ茶を入れて渡した。
「お酒がよかったかな?」
「いえ、これでいいです」
「敬語じゃなくていいから」
「はい」
「的場君は、どうしたいの?」
「出来れば一緒にいたい」
「それ、よくわかるよ。」
安藤は、そう言って凛音に微笑んだ。
「本当に?」
「あぁ!俺は、妻だったんだけどね。流産してから、俺に触られたら吐くようになってさ。俺、それでも妻の傍にいたよ。寝室は別、キスもハグもない。妻に触れないようにだけを考えて生活してた。」
「それで?」
「5年続けたけど、離婚しようって言われてね。今、別居してる。彼女は、別に俺が嫌いになったわけじゃないと言ってくれた。ただ、流産してから俺が駄目になったらしい。俺は、そういうのなくてもいいって言ったんだけどね。彼女は、嫌らしいんだよ。だったら、恋人を作ってもいいから!何て言ったんだけどさ。彼女は、困ってしまってね。」
「どうなるんですか?」
「どうなるのかな?俺は、一緒にいたいだけしかないから…。彼女次第だろうね。彼女が、別れを望むなら別れるしかないよね。」
安藤の言葉に、胸が締め付けられる凛音。
「一緒にいれる方法、探してみたらどうかな?絶対無理なんて、世の中には案外少ないもんじゃないかな?あー。でも、俺は、子供は絶対無理だ。的場君も、同じだね」
「そうですね。安藤さんは、子供欲しいですか?」
「嫌、俺はね。彼女がこうなってからいらなくなったんだ。でも、彼女は欲しいと思うんだよ。一度お腹に命が宿ったからね。でもさ、ハッピーエンドの物語って何で家族でいる設定なんだろうね?」
「確かに、そうです」
「欠けていたら駄目なのかな?世の中は、子供がいる人生、結婚してる人生、それを正解にしようと動いてると思わない?」
「確かに、そうです」
凛音は、安藤の言っている意味が理解できる。
最近になって、母親は子供や結婚というキーワードを使って凛音に連絡してくるのだ。
○○ちゃんが、産まれたや妊娠したや結婚した。
それは、母親の中の常識で凛音には何も関係なくて、それを母親に言うと「そんなんだから、凛音は駄目なのだ」と言われるのだ。
母親の年齢の人にとっての常識は、結婚と子供であるのが理解できた。
そして、そんな親に育てられた人達の常識も同じで…。
「的場君も苦しんでるね」
安藤は、凛音の眉間に寄った皺を見てそう言った。
「的場君、一緒にいたいなら…。出来る事探したらいいんだよ。ウイルスだっけ?」
「はい」
「どうにかならないか調べてもらってさ!好きな人と生きて行ける道を探してみなよ」
「はい」
安藤の言葉に凛音は、泣いていた。
自分は、海斗と死にたいと思っていた。でも、安藤の言葉を聞いて違ったのがわかった。
死にたかったのではなく、生きたかったのだ。
海斗と同じ世界を生きたかったのだ。
「人生は、一度きりだよ!的場君が、的場君の姿で生きれるのは一度きりだ。この人生だけだよ。それなら、100歳まで目指すぐらい生きなくちゃ!長すぎるぐらい生きなくちゃ!勿体ないだろ?せっかく、産まれたんだから」
安藤の言葉に、胸のモヤモヤが晴れていくのを凛音は感じていた。
「今日は、泊まっていきな!毛布、持ってくるよ。そのソファー。ベッドになるんだ」
そう言って、安藤は毛布を取りに行った。




