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彩られる作品【仮】  作者: 三愛 紫月
待てを言われた僕達は…。
80/135

⑦

洗面所でうずくまって泣いていた海斗。


凛音が、何かをしている気がしていた。


玄関の音がした。


凛音が、出て行ったのを感じた。


「凛音、凛音」


触(ふ)れられない事


いなくなった事


絶望しかなかった。


凛音が、いない世界は考えられなかった。


最悪で、最低だ。


「幸せって、何で壊れるの」


凛音に触(ふ)れた指先が腫れて熱をもつ。


「もう、待つのは嫌だよ」


凛音の血に触(ふ)れた指先が腫れてる。


「犬じゃないんだ。俺は、人だ。お預けばっかり、食らうのはたくさんだ。」


凛音に触(ふ)れたい。


涙が、ボタボタ流れてくる。


「海斗、してあげるよ」


初めて、凛音が自分のに触(ふ)れてくれた日を思い出した海斗。


目を閉じて、自分のに触(ふ)れる。

.

.

.

.


「海斗、してあげるよ」


「凛音、そんなのいらないから」


本当は、したかった。


でも、怖かった。


自分が死ぬ事よりも、凛音が死ぬ事が何より怖かった。


「大丈夫だよ。手だけだから…」


「凛音、駄目だよ」


「大丈夫だから」


ソファーに座った俺の足の間に、正座をして座る。


凛音は、ゆっくりとベルトをはずした。


「恥ずかしいから、やめて」


「じゃあ、僕の顔見てて」


そう言って、凛音の顔が近づいてきた。


息づかいに、キス、手の動かしかた。


愛してる人が、してくれる行為はとても幸せだった。


汚(きたな)いって思っていた性行為を、初めて汚(きたな)くないと思えた。


凛音と、身体を重ねてしまいたい。


凛音の口に…。


あの日、母がしてたように…。


「やめて、凛音。はっ」


「よかった。イケなかったらって思ったら悲しかった。」


凛音は、ポロポロと泣いていた。


「凛音、ありがとう」


涙を拭ってあげた。


「ううん。」


「駄目、汚(きたな)いから拭かなきゃ」


その言葉も聞かずに、凛音は俺のを…。


なんだろう。


嬉しくて、涙が出た。


俺から出たそれを愛しそうに大切に扱った。


「気持ち悪くない?」


「大丈夫」


凛音は、そう言ってくれた。


凛音といたい。


「凛音、させて」


「海斗、いいよ。しなくて」


「やりたいんだ。」


「いいって」


「やらせてよ。でも、その」


「これは、しなくていいから」


「ごめんね。その」


「お母さんのせいでしょ?」


「うん。でも、手でしてあげたいんだ。」


本当は、怖かった。


ウイルスのせいで、どうなるかわからない身体が…。


「海斗、もう無理だよ」


「いいよ」


「はっ、あっ」


「よかった。イケて」


「海斗、手拭いて」


凛音は、ティッシュで俺の手を綺麗に拭いてくれた。


「いいのに…」


「駄目だよ」


「凛音、愛してるよ」


「僕も、愛してる。海斗」


抱き合った温もりが、身体中に広がって…。


凛音に触(ふ)れる喜びが、身体中に広がって…。


目を開けた海斗。


凛音はいない。


代わりに、ベタベタな右手を感じた。


身体中が、凛音のものだ。


凛音を想像するだけで、そうなれるのだ。


「凛音、凛音。」


涙が流れてくる。


血を広げた床にズボンに手を突っ込んで、丸まって泣いてる自分。


ダサくて、惨めな自分。


凛音が、いない世界はいらない。


凛音に…。


「凛音、どこ行ったの?」


海斗は、起き上がって洗面所で手を洗った。


自分への嫌悪と苛立ちが沸いてくる。


ペタペタと音をたてながら、リビングにやってきた。


凛音がいれてくれたカレーが、ダイニングテーブルにちょこんと置かれている。


スプーンをつかんで、口に運んだ。


「ニガッ、焦がしたな。なぁ?凛音」


いつも、ソファーにいる凛音に声をかけた。


いるわけないの、わかってるくせに、わざと大きな声を出した。


「ニガッ」


一口食べる度に、そう言った。


飲み込むように食べ終わった皿をシンクに下げにいく。


ガタンっ………。


凛音が、二度と帰ってこないと思った瞬間、眩暈がした。


それと、同時にお皿がシンクに落ちたのだ。


「凛音、凛音」


キッチンの床に泣きながら崩れ落ちる。


胸が潰れる程、痛くて堪らない。


凛音がいない世界は、いらない。


「なー、凛音。俺の隣でスマホ触(さわ)るの怒らないから、出てこいよ。隠れてるなよ」


そう言いながら、涙が止まらなかった。



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