⑥
僕は、海斗から離れてリビングに戻ってきた。
手の出血を見ている。
さっきの人の話のせいで、僕は海斗を傷つけてしまった。
最低だ。
僕から流れるすべての液体が、海斗を傷つける事になってしまった。
僕は、フェイスタオルで血を拭っていた。
ダイニングテーブルのカレー皿を流しに置いた。
どうしたらいいのか、わからなくなった。
僅かでも、繋がり合えていたから僕達は一緒にいれてたのではないか…。
触れられなくなった。
そしたら、どうすればいいんだろうか…。
この10年間、僕達はキスしたり、添い寝したり、ハグしたり、そうやって愛を確かめあってきた。
それが、なくなってしまったらどうすればいいんだろう…。
そんな事より、海斗と僕が触れ合わないように生活出来るのだろうか?
僕は、海斗に触れずに生きていけるのだろうか?
そんな事出来ない。
海斗に触れずに生きてなどいけない。
でも、さっきの海斗の身体を見たら、もっと何て望めないし…。
死のうって言ったのは、本当だけど…。
海斗と生きていく道があるなら探してもみたいと思った。
そして、もし最後までせずに海斗が死んだらと思うと凛音は怖くなって出てきてしまったのだった。
凛音は、キャリーバッグに服をつめる。
海斗に触れられないのも、海斗に死にたいと言われるのも嫌だった。
だから、ここにはいられなかった。
明日と明後日は、凛音も海斗も休みだった。
いつもなら、映画を見て、一緒にイチャイチャをして、凛音は、海斗に寄り添って、スマホのゲームをする。
そして、海斗が凛音にキスをしてくれて抱き締めてくれて、お互いの下半身を慰めてあげる。
それが、休みの二人の過ごし方だった。
それをする事は、もう出来ない。
だって、さっきの海斗の痛みや湿疹を見てしまったから…。
そして、あの人の言葉…。
だったら、海斗の傍にはいられない。
キャリーバッグに、少しの荷物と仕事の道具を入れた。
海斗に会うと決心が鈍るから、凛音は黙って家を出た。
ガチャガチャと確認した。
ゴロゴロと、キャリーバッグを引きながら歩く。
ここに、一緒に住んで9年。
付き合ってからは、10年。
凛音は、海斗のいない生活が考えられなかった。
でも、海斗があんな身体になってる。
自分から出るすべての液体が、海斗を傷つけるのだ。
だったら、一緒にはいれなかった。
涙が流れてくる、海斗が拭おうとして痛みを味わったのを思い出した。
「ねぇー、ねぇー。お兄さん、泣いてるの?」
軽そうな男に、声をかけられた。
「別に」
「彼女に振られちゃった?」
「別に」
「俺と遊ばない」
そいつに、腕を掴まれる。
「遊ばない」
「お兄さん、俺、そっち何だよ。わかるよね?」
「はあ?」
「見た瞬間からタイプだったんだ!ね?どう?」
「離せ」
「いいじゃん。一発ぐらいさ」
「ふざけんな」
凛音は、男を振り払う。
「駄目なの?減るもんじゃないよね」
「触るな!!」
「チッ」
舌打ちをされた。
凛音は、男を睨み付ける。
「てかさ、人が下手に出てたら何様なわけ?」
「はあ?」
「テメー、ふざけてんのか」
「ふざけてんのは、そっちだろう」
喧嘩は、苦手だった。
人を殴る事は、好きじゃない。
ただ、イライラはしていた。
凛音は、無視して歩き出す。
「おいおい、シカトは困るから」
ドスッと腹にパンチをいれられた。
「うっ」
凛音は、うずくまった。
「あのさー。遊んでやるって言ってんだからさ!わかるよね?」
ドカっ、ドスッ、ドカ…。
凛音は、何発も殴られた。
「ねー、ねー、警察、呼びますよ」
「はあ?」
ドスッと、そいつの腹に一発くらわした。
男は、ヤバイ奴を見る目で、逃げていった。
「大丈夫か?兄ちゃん」
「すみません」
「嫌、いいんだけどさ。家くるか?」
そう言われて、その人についていく。




