④
海斗が、寝に行ったのを見届けた。
ここ1ヶ月暑くなったせいか、海斗は疲れていた。
帰宅するとソファーで寝てしまってるし…。
何か、悩んでる気がして凄く心配だった。
冷蔵庫から、鍋を取り出した。
「カレー食べたくなかったのかな」
火にかける……。
僕は、料理が上手くなかった。
海斗も、お弁当や惣菜が多かったみたいで出来なかった。
少しでも、節約する為に料理を覚えた。
それでも、カレーの頻度は多かった。
海斗、嫌だったかな…。
グツグツとカレーが煮込まれてくる。
ゆっくりとかき混ぜながら、温める。
海斗の為に、もっと料理を上手くなりたい。
ピンポーン
インターホンが鳴って、火を止める。
「はい」
「あの、関口です。」
「はい」
僕は、鍵を開ける。
ガチャ…。
「はい」
「あの、関口と言います。」
「はい」
「市川海斗君は、いますか?」
「あっ、休んでて」
「あの、あなたは?」
「的場凛音です。彼氏です」
「少しだけ、話せますか?」
「はい」
僕は、関口さんを家にあげた。
「お邪魔します。」
「はい」
関口さんは、ダイニングの椅子に腰かけた。
僕は、冷蔵庫から麦茶をくんで関口さんに渡した。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「いえ」
「あの、海斗君がセックスをすると死ぬのは知っていますか?」
「えっと…。」
僕は、関口さんの言葉に返す言葉が見つからなかった。
海斗が、そんな重病を抱えている事を10年も一緒にいながら、何も知らなかったのだ。
「本人から聞いていないのですね。では、失礼します」
「待って下さい。海斗は、きっと話してくれないです。だから、もしよかったら教えていただけませんか?」
「私から聞いたと言わないでいただけますか?」
「はい」
「では、お話します。」
僕は、関口さんから海斗の病気の話を聞いた。
「失礼しました。」
「お気をつけて」
バタンと扉が閉じて、膝から崩れ落ちた。
映画やドラマや漫画の世界じゃあるまいし。
死ぬって…………。
立ち上がって、鍵を閉めた。
キッチンで、またカレーを温め直す。
「海斗君の父親が…」
「後、三年後に…」
「死ぬのです。」
「残念ながら…」
「すみません」
さっきの関口さんの言葉をきちんと頭に入れられていなかった。
海斗が、いない世界なんていらない。
グツグツとカレーが、音をたて始める。
焦げた匂いがして、とめた。
「あちゃー。明日までは、無理だ」
器によそいながら、泣いていた。
ウイルスがうつるとかじゃない。
海斗が、死ぬのが怖かった。
「海斗」
ガタン…凛音は、キッチンの床に膝から崩れ落ちる。
「海斗」
【三年後に…】
関口さんの言葉が、耳にこびりついて離れない。
海斗に、話してくれと頼まれたわけじゃない。
ただ、改めてもう一度来ると言われた。
【最近、わかったんだ。】
さっきの話が、頭を流れては消えていく。
【この…】
「ふざけんなよ」
ガンっ
凛音は、キッチンの棚を殴っていた。
海斗がいない未来、海斗がいない生活、何も考えられやしない。
セックスなんかいらない。
子供なんかいらない。
結婚なんかいらない。
凛音にとって、海斗は必要なんだ。
命と同じだけ、必要な存在
海斗が明日死ぬなら、自分も死にたい。
何度も話す凛音に、海斗はこう言うんだ。
【人は、産まれた時も死ぬ時も一人だよ。凛音】
凛音は、その度にこう言った。
【それなら、二人で死ねる方法を見つけよう】
と言った凛音に、「それは、無理だよ」と海斗は笑う。
でも、凛音は海斗がいないと生きていけないのだ。
だから、さっき言われた話を聞いて。
それなら、セックスして死んでしまおうと思ったのだ。
同時に死ねる、まさにいいことじゃないか…
海斗だけを、死なせない。
もう、立ち上がる時には頭の中で一緒に死んでいく未来を見ていた。
答えは、シンプルで簡単だったじゃないか…。
海斗は、焦げたカレーを手に取ってダイニングに座る。




