⑦
十季は、昨日よりも心が軽かった。
目覚めて、歯を磨き、顔を洗い、朝食をすませ、師匠にバレないように家を出た。
正美と志吹さんと話しただけで、心は羽根を生やしたようだった。
学校につくと、愛斗は、また泣いていた。
「何故、泣いてるの?」
『十季には、関係ないよ』
「関係あるよ」
『ないに決まってる』
「関係あるに決まってる。ってか、そもそも愛斗と話せるのは、僕だけなんだよ」
その言葉に、愛斗は僕を睨み付ける。
傷つけるつもりは、なかった。
なのに、愛斗に優しく出来なかった。
「ごめん。酷い言い方して」
去って行く、僕の腕を愛斗が掴んだ。
ドクン………。
走馬灯のように、愛斗の記憶が流れ込んだ。
『ごめんね』
「僕じゃ駄目?」
愛斗の冷たい頬に、手を当てる。
『どういう意味?』
「愛斗が、したい事。全部、わかった。僕じゃ、駄目かな?役に立たない」
『読んだの?僕の心を』
「ごめん。そんなつもりじゃなかった。」
『じゃあ、どんなつもりだよ』
愛斗は、怒って僕の首をギリギリと絞める。
身体が、中に浮かんでいく。
「愛斗、やめて、苦しい」
『勝手に読むなんて、酷いよ』
殺されるんだ。
僕は、殺されるんだ。
これが、運命なんだ…。
「いいよ。やって」
ドサッ…。
僕は、離された。
「ゴホッ、ゲホッ」
『僕の気持ちを読んだならわかるよね。』
「ゴホッ、ゴホッ」
十季は、むせながらも頷いた。
『だったら、もう僕に構うな』
「あ」
愛斗は、また消えてしまった。
首を押さえながら、さっきのビジョンを見ていた。
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「しーちゃん」
「愛斗」
「しーちゃんは、大きくなったら何になりたいの?」
「学校の先生になりたい。」
「凄いね。しーちゃんは、いい先生になれるよ」
「本当か?愛斗。俺、頑張ってみるよ」
叩かれた肩から、熱が広がっていく。
好き、好き、好き。
言えない好きが、降り積もっていく。
「うん!僕、応援してるよ」
「ありがとな、松村さん。おはよう」
「おはよう、………君」
女の子だったら、よかった。
そしたら、彼女みたいに…。
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「大丈夫か?遠藤」
「椎名先生」
「もうすぐ、チャイム鳴るぞ。ほら」
ドクン………。
「すみません」
「大丈夫か?」
「はい」
「なら、よかった。」
「あの、椎名先生。」
「何だ?」
「愛斗って、友達いませんでした?」
「いたよ。笹岡愛斗。事故で、死んだんだよ。」
「会いたいですか?」
「嫌、会いたくない」
「どうしてですか?」
「愛斗は、私を裏切ってたから」
「裏切った?」
「今の妻はね。松村美香って言ってね。中学の同窓会で再会したんだ。私はね、中学の時、彼女が好きだったんだ。愛斗がね、彼女に酷いことを言って。私と彼女がうまくいかないようにしてたみたいなんだ。」
「そうなんだね」
「ああ、だから、二度と愛斗には会いたくないよ。ほら、授業遅れるぞ!」
愛斗が、現れた。
『嘘つき』
椎名先生を睨み付けてる。
『僕は、松村さんに告白されたんだ。断ったんだよ。だから、そんな嘘を言ったんだよ。ねー。しーちゃん。僕を嫌いにならないでよ。』
すがりついても、見えやしない。
『しーちゃん、僕はね。ずっとね。しーちゃんだけを愛していたんだよ』
愛斗の声も、涙も、聞こえない。
「椎名先生」
「遠藤、どうした?」
「愛斗さんが、嫌いにならないでと言ってますよ」
「遠藤、またそんな事を言ってると皆に嫌われるぞ」
ドクン………。
掴まれた腕から、ビジョンが見えた。
「椎名先生」
「何だ、遠藤。早く行きなさい」
「椎名先生」
「だから、何だよ」
「愛斗さんを殺したの………」
「遠藤、ふざけるのもいい加減にしろ」
バシン………
「痛いよ、先生」
ギリギリと首を絞められる。
『しーちゃん、何してるの?』
「遠藤、何でお前が知ってるんだ」
「く、る、し」
『しーちゃん、やめて、やめて』
先生の目に怒りが、宿っている。




