⑥
コンコン
「はい」
「晩御飯の用意が出来たよ」
「うん」
正美の言葉に、ご飯を食べに行く。
歯を磨き、風呂に入り、同じ事の繰り返しだと思っていた。
「十季、話がある」
「はい」
この日に、限って師匠に呼び止められてしまった。
「何でしょうか?」
「ふざけているか、お前は?」
「ふざけているとは?」
「お前は、幽霊に恋をしているのか?」
何故、それを…。
「お前は、思春期で切り替えがうまく出来ていない。私には、全部わかっている。」
「すみません」
ぶたれると思った。
「十季、その気持ちはさっさと捨てるのだ。わかったか」
「はい、わかりました」
師匠の言うことは、絶対なのだ。
逆らってはいけないと幼き頃からずっと教えられていた。
だから、僕は愛斗を忘れるように努力しなければならないのだ。
それが、僕に運命られた運命なのだから…。
「わかったなら、もう寝なさい」
「はい、あの師匠」
「何だ?」
「何故、中学に行かないといけないのですか?」
「それは、お前の勤めだろ?お前は、今仕事をしていないだろ?お前にとっての仕事は、学校だ」
「でも、悪意に」
「悪意がなんだ?そんなものに、怯んでいたらこの仕事は出来ない」
「そうですね。すみません」
「もう、寝ろ」
「はい、失礼します。」
師匠にとって、僕の悩みなど、この世界に舞っている塵の一つと変わらないのだろう。
僕の事を考えてくれなどと思った考えがよくなかったのだ。
師匠は、僕の事を考えてくれるはずないのだ。
「泣き虫するか?」
「志吹さん」
「師匠にとって、私達はただの駒だよ。」
「嫌だよ、嫌だ。僕は、普通に恋がしたいよ」
「しっー。」
そう言って、志吹さんは僕の部屋に一緒に入る。
「十季、忘れろと言われたか?」
「うん、言われた。」
「忘れたくないのか?」
「忘れたくないよ。」
「なら、とことん楽しめばいいだろう?」
「でも、師匠に怒られる。約束したから…。」
「師匠なんて気にするなよ。自分がどうしたいかだろう?十季が、その人を好きなら、その気持ちに従って生きればいいんだよ」
「でも、人じゃないから…」
「何も言わなくても、全部わかってるよ」
志吹は、十季の涙を拭う。
「いいの?人じゃなくても?いいの?女の子じゃなくても」
「いいんだよ。そんなの関係ないんだよ。十季が、やりたいようにすればいいんだよ。まだ、子供なんだから…。大人にならなくていいんだよ。だから、恋を楽しめばいいんだよ。十季」
志吹は、十季をギュッと抱き締めてくれる。
胸いっぱいに広がる幸せ。
「志吹さん、学校に何で行くの?悪意が沢山溢れてるんだよ。」
「そうか。辛いね。でも、ここに居たら、もっと辛いよ。師匠が、許さないよ。十季は、学校に行ってるから子供でいれるんだよ。行かなくなったら」
「駒になるの?」
「そうだね。それでもいいなら、学校に行くのやめる?」
「やめない。師匠の駒になるのは、嫌だよ。僕は、人でいたい。」
「そうだね。十季が、人でいれるようにしてあげるからね」
「志吹さんと正美が嫌な思いをするの?」
「そんなの気にしなくていいんだよ。十季は、伸び伸びと過ごせばいいんだよ。思いっきり恋をして、楽しい人生を選ぶんだよ。」
「うん。志吹さん、ありがとう」
十季は、志吹に抱きついた。
「おやすみ」
「おやすみ」
志吹は、十季の部屋を出ていく。
誰かの不幸の上にしか、十季の幸せはない事を十季は知らなかった。
その事を知っていたら、きっと十季はこの恋を手放していたと思う。
でも、正美と志吹に応援されたから十季はこの恋を手放さずに貫くと決めたのだった。
明日、愛斗に会ったら話しかけよう。
そして、涙の理由を聞こう。
そして、僕の気持ちも告げるんだ。
十季は、ウキウキしながら目を閉じた。




