⑤
十季から離れて出ていく正美。
十季は、その姿を見つめていた。
「正美…」
何も声をかけられなかった。
部屋から出て歩く正美に切り替わる。
「十季が、恋をしたか?」
志吹に声をかけられる。
「そうです」
「正美、十季にお見合いの話をしたんだな」
「はい。十季が、羨ましくて」
「もう、いいのか?彼女の事」
「そんな事を言うことは、許されないって志吹はわかっていますよね?」
「そうだな」
「五年前なら、僕も十季のように、何故って思っていたでしょうね。でも、二十歳になってわかったのは…。遠藤に産まれた限りは、自分に与えられた責務を全うするだけです。」
「正美、悲しいな。心を揺さぶられても、意味がないって言ってるみたいに聞こえるよ」
「実際に、意味がないだろ?心を燃やそうが、揺さぶられようが、遠藤に産まれた限りは、意味がないんだよ。志吹、わかるだろう?」
志吹は、正美を抱き締めていた。
「すまない、私が…。変わってあげれば、よかった。」
「志吹は、能力が強いから変われないよ。わかってるよ。そんな事は、昔からわかってるから」
正美は、志吹に抱き締められながら泣いていた。
「子孫繁栄だけで、正美が嫌な思いをして欲しくない。」
「でも、それが決められた事なんだよ。」
「正美は、子供を作るだけの存在じゃないよ」
「遠藤では、その為の存在だよ。志吹…。僕は、人だったかな?いつだって、命令通りに動くんだよ。それが、遠藤に産まれた運命でしょ?」
「悲しいね。普通の人間に産まれたかったね」
志吹の言葉に、溢れる涙を止められない正美。
「嫌な思いをするのは、僕だけでいいんだ。それに、お見合い相手を愛せるかもしれないだろ?」
「十季には、幸せになって欲しいね。そうだね。素敵な人かも知れないね」
正美は、志吹から離れる。
「僕は、まだましだよ。志吹は、結婚も出来ないじゃないか」
「気にするな」
「呪いだね。いつになったら、こんな呪縛からぬけれるかな」
「来世は、遠藤に産まれない事を祈るしかないよ。でもね、私は遠藤に産まれてよかったと思ってるよ。正美や十季と過ごせてよかったと思ってるよ。だから、呪いだとは思っていないよ。遠藤に産まれる事が出来たから、正美と十季に出会った。」
志吹の言葉に、正美は忘れていた気持ちを思い出した。
「志吹。僕も幸せだよ。志吹と十季と生きてこれて幸せだよ。それだけで、遠藤に産まれてよかったと思っていたのを忘れていたよ。ごめんね、志吹」
正美は、志吹にまた抱きついた。
「正美、十季だけは幸せになれるようにしてあげようね」
「勿論だよ、志吹」
そう言って、二人は笑い合った。
かわって、十季…。
部屋で、ゴロリと寝転がって天井を見ていた。
正美や志吹の気持ちなどしるよしもなかった。
手を見つめながら、自分は何故こんな場所に産まれてきたのかと思っている。
普通の中学生で、平凡な子供で、だったら、どれだけ楽だっただろうか…。
クラスのみんなのように、ゲームの話で笑っていられたら、どれだけ幸せだっただろう…。
何故、義務教育を受けているのかわからなかった。
別に、ここを継ぐならば必要ないではないか
何故、わざわざ学校という場所に行き、みんなの悪意を受け、幽霊と話をするのかが、十季には全く理解が出来なかった。
学校に行かなければ、他人の悪意を師匠以外で感じる事はなく。
ポカポカと陽だまりの中、ボッーと過ごせるのだ。
なのに、わざわざ悪意の中に飛び込まされている。
確かに、きっかけは自らが放った言葉だったのはわかっている。
十季は、頭をガシガシ掻いた。
【あー。もう、何なんだよ】
さっきと、違って何のピースも見つけられない。
答えさえもない。
なのに、また明日になれば行かなければならないのだ。




