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彩られる作品【仮】  作者: 三愛 紫月
【心だけが繋がらない】
38/135

⑬

夏は、バイトを終えて冬に連絡をする。


「何処いたらええかな?」


『駅前におっていくわ』


「車?」


『どっちがいい?』


「歩きがええかな」


『わかった』


夏は、駅前に向かって歩きながらさっきの事を考えていた。


里山は、春ではないのは理解している。


でも、好きって告白した時のあの感じが妙に嬉しかった。


春なら、気色悪いって顔をしただろう…。


でも、里山はしなかった。


それが、嬉しかった。


別の人間でも構わない。手を繋いで、街を歩いて、キスして、それで…。何考えてんねん。


夏は、破廉恥な思考に向かっていく自分の手の甲をつねった。


善意でゆってくれたのに、何を考えてるんだ。


駅前についた、もしかしたら里山となら電車に乗れたりするのだろうか?


あの日をやり直せるのだろうか?


「悪い、遅なったな」


「ううん」


「行こか」


「うん」


冬は、夏の手を握りしめられなかった。


触(ふ)れそうな距離で歩くだけ。


冬は、スマホを見ながら、店に連れてってくれた。


「凄いな」


「どんなソファーにする?」


「革がええよな」


「そやな」


夏も冬も、もう考えるのはやめていた。


「これ、楽やん」


「めっちゃ、ええな」


「せまならんかな?」


「なっても、ええやん」


「せやな」


電動で、リクライニングするソファーに決めた。


「後、ベッドやな!」


「これは?」


「ええんちゃう」


「狭いかな?」


「充分やろ」


「ダブルがええかな?」


「セミダブルでええんちゃう」


「そやな」


ソファーとベッドを買った。


土曜日に、持ってきてもらうように手配した。


「帰ろか」


「泊まってけや!床で寝るけど」


「ええよ」


さっきの店で、薄手の毛布を買った袋を下げながら歩く。


「金曜日休んだわ!業者にきてもらって!あっち、空にするわ」


「うん」


「お酒と何か食べるもん買おか?」


「うん」


帰り道にある小さなスーパーで、惣菜とワインとプラスチックのコップを買った。


並んで歩いて、アパートに戻ってきた。


パチリと電気をつけた。


「開通してもうたん?」


「うん」


「電気の傘あってよかったな」


「うん」


「なかったら、冬の家やったな」


「うん」


「まだ、あつなくてよかったな」


「うん」


どんな風に、二人でいたのかわからなくなってしまっていた。


「直おきやな」


「本間やな」


鍵を閉めて、家に入る。


「なぁー。冬」


「うん」


「しよう」


忘れさせて欲しかった。


「シャワー入れんで」


「いらん」


夏は、冬に抱きついた。


「わかった」


いつものように、肌を重ねようとする二人。


キスするのに、目を閉じた瞬間。


現れた、残像に離れた。


「ごめん。やっぱ、僕。汗臭い」


「俺も、疲れとるわ」


「ほんなら、惣菜食べよう」


「せやな」


必死で、嘘を並べたてる。


「いただきまーす」


「いただきまーす」


二人で、一緒に食べる。


「これ、うまいで」


「本間やな」


「お疲れ」


「お疲れ」


ワインを飲む。


二人は、どうやって、笑っていたかわからなくなっていた。


冬は、さっき、夏にキスをしようとした時に篠村さんが出てきた。【冬、いいよ。】そうやってキスをせがまれた映像が流れた。そんな事は、15年間一度もなかった。その事に、酷く動揺したのだった。



夏も、同じだった。さっき冬にキスをしようとした時に里山さんが【夏、しよう】と言ってくれた映像が流れた。

15年間、そんな事は一度もなかったから驚いていた。


「あのさ、俺。篠村さんとデートしよう思ってるんやけど」


「僕も、しようと思ってんねん」


二人は、見つめ合う。


「終わらせてくるわ」


「僕も…。」


手を握りしめたくてもできないもどかしさを感じている。


「ごめんな。」


「僕も、ごめん。春を消せへんくて」


「ちゃんとけじめつけてくるから」


「わかってる」


「約束するから」


「もし、何かなるんやったらちゃんとワンムしてや」


「わかった。夏もな…。」


「約束」


「約束」


そう言って、指切りをした。


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