⑬
夏は、バイトを終えて冬に連絡をする。
「何処いたらええかな?」
『駅前におっていくわ』
「車?」
『どっちがいい?』
「歩きがええかな」
『わかった』
夏は、駅前に向かって歩きながらさっきの事を考えていた。
里山は、春ではないのは理解している。
でも、好きって告白した時のあの感じが妙に嬉しかった。
春なら、気色悪いって顔をしただろう…。
でも、里山はしなかった。
それが、嬉しかった。
別の人間でも構わない。手を繋いで、街を歩いて、キスして、それで…。何考えてんねん。
夏は、破廉恥な思考に向かっていく自分の手の甲をつねった。
善意でゆってくれたのに、何を考えてるんだ。
駅前についた、もしかしたら里山となら電車に乗れたりするのだろうか?
あの日をやり直せるのだろうか?
「悪い、遅なったな」
「ううん」
「行こか」
「うん」
冬は、夏の手を握りしめられなかった。
触れそうな距離で歩くだけ。
冬は、スマホを見ながら、店に連れてってくれた。
「凄いな」
「どんなソファーにする?」
「革がええよな」
「そやな」
夏も冬も、もう考えるのはやめていた。
「これ、楽やん」
「めっちゃ、ええな」
「せまならんかな?」
「なっても、ええやん」
「せやな」
電動で、リクライニングするソファーに決めた。
「後、ベッドやな!」
「これは?」
「ええんちゃう」
「狭いかな?」
「充分やろ」
「ダブルがええかな?」
「セミダブルでええんちゃう」
「そやな」
ソファーとベッドを買った。
土曜日に、持ってきてもらうように手配した。
「帰ろか」
「泊まってけや!床で寝るけど」
「ええよ」
さっきの店で、薄手の毛布を買った袋を下げながら歩く。
「金曜日休んだわ!業者にきてもらって!あっち、空にするわ」
「うん」
「お酒と何か食べるもん買おか?」
「うん」
帰り道にある小さなスーパーで、惣菜とワインとプラスチックのコップを買った。
並んで歩いて、アパートに戻ってきた。
パチリと電気をつけた。
「開通してもうたん?」
「うん」
「電気の傘あってよかったな」
「うん」
「なかったら、冬の家やったな」
「うん」
「まだ、あつなくてよかったな」
「うん」
どんな風に、二人でいたのかわからなくなってしまっていた。
「直おきやな」
「本間やな」
鍵を閉めて、家に入る。
「なぁー。冬」
「うん」
「しよう」
忘れさせて欲しかった。
「シャワー入れんで」
「いらん」
夏は、冬に抱きついた。
「わかった」
いつものように、肌を重ねようとする二人。
キスするのに、目を閉じた瞬間。
現れた、残像に離れた。
「ごめん。やっぱ、僕。汗臭い」
「俺も、疲れとるわ」
「ほんなら、惣菜食べよう」
「せやな」
必死で、嘘を並べたてる。
「いただきまーす」
「いただきまーす」
二人で、一緒に食べる。
「これ、うまいで」
「本間やな」
「お疲れ」
「お疲れ」
ワインを飲む。
二人は、どうやって、笑っていたかわからなくなっていた。
冬は、さっき、夏にキスをしようとした時に篠村さんが出てきた。【冬、いいよ。】そうやってキスをせがまれた映像が流れた。そんな事は、15年間一度もなかった。その事に、酷く動揺したのだった。
夏も、同じだった。さっき冬にキスをしようとした時に里山さんが【夏、しよう】と言ってくれた映像が流れた。
15年間、そんな事は一度もなかったから驚いていた。
「あのさ、俺。篠村さんとデートしよう思ってるんやけど」
「僕も、しようと思ってんねん」
二人は、見つめ合う。
「終わらせてくるわ」
「僕も…。」
手を握りしめたくてもできないもどかしさを感じている。
「ごめんな。」
「僕も、ごめん。春を消せへんくて」
「ちゃんとけじめつけてくるから」
「わかってる」
「約束するから」
「もし、何かなるんやったらちゃんとワンムしてや」
「わかった。夏もな…。」
「約束」
「約束」
そう言って、指切りをした。




