⑫
冬は、好きを飲み込むように玉子サンドを食べる。
「三上さんとは、長いの?」
「15年になる。」
「凄いなぁー。羨ましい」
「そうかな?」
「そんなおれるって凄い事やん」
もう、言ってしまって楽になろう。
展開は、早い方が世の中の人間は喜ぶし、俺だってウジウジ引っ張るのは大嫌いだ。
「あの、好きです」
「えっ?」
「驚くんは、わかります。せやから」
冬は、スマホの待受画面を見せた。
「俺を振って欲しいねん。お願いします。」
篠村は、驚いた顔をしてスマホを見つめる。
「めっちゃくちゃ、俺やん!!」
「だから、振って下さい」
「待って、待って、ちゃんと話しよう。振るって何?ちゃんと教えてくれへん?」
冬は、篠村に秋の話を全部した。
少し考える篠村…。
「わかった。一日だけ、デートせーへん?」
「えっ?」
「そやな!来週の日曜日とかどう?」
「なんで、そんなん」
「ええから、ええから」
「でも…。」
「彼には、ちゃんと了解もらわなアカンよ!連絡先、交換しよ」
「はい」
篠宮は、ワンムを開いた。
冬も、ワンムを開く。
【ワンワン】と鳴って、連絡先が交換された。
一方夏はと言うと…。
「何で、珈琲苦手なん?」
「何か、気持ち悪なるねん」
公園で、パンを食べている。
さっきから、手が触れそうな距離感にいるのがもどかしい。
好きを飲み込むように、クリームパンを食べるのも疲れた。
楽になりたかった。
「あの」
「なに?」
「好きです。」
「えっ?!」
里山は、いつどのタイミングで好きになられたのかわからなくて…
困っていた。
「これは、ちゃうくて。何てゆうんか」
夏は、スマホの待受を見せた。
「えぇー。俺やん!めっちゃ、俺やん」
夏は、春の話を全部した。
「そうやったんやな」
「だから、僕に無理ってゆうて下さい。それやったら、終わるから」
里山は、考える。
「そやな!デートしよか?」
「はっ?何で!」
「気持ち終わらせたいんやろ?」
「そやけど」
「彼氏に許可とって!一日だけ、デートしよう」
「ええんかな?」
「ええんやない。連絡先教えて」
里山は、ワンムを開く。
「はい」
夏も、ワンムを開いた。
【ワンワン】と鳴って、連絡先が交換された。
「ヤバイ!俺、遅刻するわ。そっちは?」
「本間や」
「ほな、行こか」
急いで、立ち上がって早歩きで歩いた。
「ほんなら、日曜日でどう?」
「行けます」
「また、時間はワンムして!ほな、頑張って」
「里山さんも、頑張って」
「ありがとう」
手を振りながら、心が満たされていくのを感じる夏だった。
そのころ冬は…。
「ほんなら、帰ろうか」
「うん」
篠村と歩き出す。
「どれぐらい好きやったん?」
「三年間」
「自殺やったん?」
「うん」
「それは、前に進まんな」
「うん」
「彼を好きになりたいん?」
「わからん」
「難しいんやな」
「うん」
アパートについた。
「じゃあ、日曜日ね。朝から、行ける?」
「うん」
「じゃあね」
「じゃあ」
手を振った。
バタンと扉が、閉じた。
篠村の笑顔に声に仕草に、心が満たされていくのを冬は感じていた。
部屋に入る。
冬は、引っ越し業者を依頼する。
夏が終わるのは、夕方やからソファー見に行ける!
冬は、夏にワンムを送る。
【ベッドとソファー、見に行くから!終わったら、連絡して】
【ワンワン】と鳴った。
了解というスタンプが送られてきた。
夏、ごめんな。
さっき、好きって言った言葉に対して嫌悪感を向けられなかった事に安堵したと同時にあの人は秋ではないのをハッキリと感じた。
秋は、あの日男が好きなのかと聞いた顔が引きつっていた。
もし、俺が自分を好きだと言ったらどうしようとそんな目を向けてきていた。
隠して生きることしか出来んかった。
まだ、俺はカミングアウトもしていなかった。
多分、この先もするつもりはない。
大抵の人は、そうやって気持ちを飲み込むと聞いた事がある。
俺は、その他大勢に紛れて生きていたかった。
秋じゃないのを解っている。
それでも、あの人とそうなれたら…。
アカン、アカン。
身体だけの薄っぺらい関係を重ねていただけやなかったはずやった。
夏が、嫌なものも好きなものも、俺は、ちゃんと知ってる。
15年、一緒におってよくわかってる。
なのに、何で秋と違うあの人に心を奪われてるんだろうか?




