【温度】⑨
roseに入った二人。
「服のタグ切るのないかな?」
「ハサミって事?」
「あるわけないよね」
「だね!ライターとかは?」
「それで、いけるかな?」
「歯でちぎる?」
「ワイルドすぎない?」
「そうだよね。クルクル回したらとれるってTVで見た気がする」
「クルクルか」
一輝は、クルクル回した。
服が飛んで行った。
「ハハハ」
「ハハハ」
二人で笑い合って泣いていた。
「泣かないでよ、花香」
呼び捨てにしてしまった。
「ごめん」
「ううん。一輝も泣かないで」
花香も一輝を呼び捨てにした。
一輝は花香の、花香は一輝の、頬に手を当てて涙を拭った。
一輝は、花香に吸い寄せられる。
ゴンッ…
「イタッ」
花香のおでこに、一輝のおでこが当たった。
「何してんのかな?ハハハ」
「本当だね。」
「向こうがしてるからってしなくていいよね」
「そうだな」
「何か、一輝だったらいいかもって思っちゃった」
「俺もだよ。花香ならいいかもって」
「これぐらいは、許される?」
花香は、一輝に近づいた。
一輝は、気づいて花香を抱き締める。
「ごめんね」
「私こそ、ごめんなさい」
昨日から、誰かに抱き締められたかった二人
誰でもいいわけじゃなかった。
一輝は、花香に抱き締められたかったし、花香も一輝に抱き締め
られたかった。
「花香、離婚が成立したら新しい人を見つけた方がいいよ。まだ、花香は綺麗だよ」
「42歳だよ。私は…。それに、まだ孝輔を嫌いになれないの。一輝の方が、若いんだから新しい人を見つけた方がいいよ。」
「花香、俺は期待させる自分の体が嫌いなんだ。期待させて、裏切る。この体が嫌いなんだ。」
「わかるよ。私も同じだから」
一輝は、花香の頬を流れる涙を拭ってあげる。
「慰謝料もらって、新しい人生に行こう。それが、俺も花香も幸せになれる道だから…」
「うん、そうだね」
二人は、暫く泣きながら抱き合った。
その後、一輝が映画をつける。
「これ、見ようか?」
「うん」
【欠けたピースは戻らない】がやっていた。
二人は、並んでそれを見て泣いていた。
「子供がいなくても、不倫されたら辛いよね」
「そうだね」
再放送のドラマだったようだ。
「服、着替えてくる」
「うん」
花香は、服を着替えに行く。
「どうかな?」
「めちゃくちゃ似合ってる」
黒を着ると花香の美しさと色気が二割程増していた。
「俺も、着替えてくる」
「うん」
一輝も着替えた。
「どうかな?」
「凄く似合ってるよ」
一輝の美しさをパステルの色が引き立てて、より一層美しかった。
「そろそろ行こうか」
「うん」
二人は、立ち上がって部屋を出る。
「ヤバい」
まさかの、桜と孝輔と鉢合わせた。
「はーちゃん、こっち」
少し、声色を変えた。
「うん」
朝、一輝は桜にバレないように録音式の盗聴器をしかけておいた。なのに、ホテルに来たならバレなかったのだ。
孝輔と桜は、二人が後ろにいるのも気づかずに話し出した。
「昨日さー」
「うん」
「久々に妻に求められちゃったんだよ。」
「えー、奇遇だね。私もよ」
「離婚したくないって言われてさ」
「私も…」
それなりの声だから、一輝と花香に聞こえていた。
花香は、一輝の手をギュッと握りしめてきた。
一輝も花香の手を握りしめる。
清算機で、お金を払ってる。
「だから、暫く離婚無理かもしれない。もう少し待っててくれる?」
「うん。私も無理かも」
「まだ、妊娠出来ると思ってんだろうな。」
「えー。無理でしょ?42歳だっけ?それに、20年でしょ?」
「そうなんだよ。桜のとこもだろ?」
「そうそう!でも、断れないじゃん。」
殴りたくなる気持ちを押さえる一輝と花香。
「買い物してくだろ?」
「うん、行こうか」
花香の足が止まった。
「ごめん」
「いや、場所はわかってるから」
「うん」
二人は、車に乗って行った。
「ゆっくり、歩こうか?」
「うん」
花香の目に涙が一杯溜まってるのを見てしまった一輝
思わず引き寄せて、抱き締めてしまった。
「ごめん」
「酷い嘘だね。」
「帰ったら、盗聴器の音声聞くんだけど…。俺だけで、聞こうか?」
「ううん、私も聞くから」
「じゃあ、音声送るから」
「わかった」
花香は、一輝から離れた。
「行こう」
「うん」
歩いて、二人がいるスーパーに向かう。




