【欠けたピースは戻らない】⑧
「トッシー」
「どうした?」
「俺ね、あいつにね。」
「うん」
「まーくんは、ママの大切な宝物だよってずっと言われてた。でもね」
「うん」
「心中する前に、あいつから電話がきたんだ。」
「うん」
「その電話でね。俺にこう言ったんだよ。」
「うん」
「まーくんはね。お母さんをね、選ばないのは何でなのって言われたんだ。何でって意味がわからないって言ったよ。俺は、あんたに一度も選ばれてないって言ったんだよ。そしたら、あいつはだってまーくんが選ばないからだよって笑ったんだよ。俺が、選ばないからあんたは不倫したのかって聞いたんだよ。そしたら、そうよって笑ったんだ。彼は、まーくんと違って私を選んでくれたものって言ったんだよ。それで、次の日に心中したんだ。俺が、あいつを選ばなかったから悪いのか?」
「そんな事ないよ」
俊之は、昌也の手を握りしめる。
「トッシー、俺。許せないんだよ。あいつを絶対許せないんだよ。」
昌也は、俊之の頬に手を当てる。
俊之は、昌也の手を握り返す。
「許さなくていいんだよ。昌也が、嫌なら許す必要やなんてないんだよ。俺だって、あいつを許せないし…。あいつがわかるって言った気持ちを一度もわかる事なんかなかったよ」
「俺もだよ。わからない。いまだに、あいつが言った意味が…。」
「物みたいだとか言ってたか?昌也んとこも…。」
「言ってたよ。モラハラだってな!ものみたいに扱われてとか!何なんだよな。モラハラ、モラハラ、モラハラ。うるさかったよ。あいつが、俺にしてた事じゃねーのかよ?俺は、自慰行為を何度も止めさせられたんだよ。トッシー」
「それは、お母さんが嫌だったから?」
「お母さんじゃなくて、あいつでいいんだよ。そうだよ。嫌だったからだよ。お前は、父親みたいになんのか!汚らわしい。汚い。見つからないようにしようとしたよ。だってさ、普通だろ?中学生で覚えるのおかしいか?」
「おかしくないよ。」
「だろ?早いやつは、小学生だったって話してくれたよ。俺は、あいつに見つからないようにしようとした。なのに、あいつは俺がそれをしたってわかるんだよ。わかったら、俺は掃除機の棒で殴られた。髪の毛を引っ張られた。極寒の外にパンツ一枚で立たされた。謝ったって許されなくて。身体中の痛みで、次第にそれをやめた。嫌、機能しなくなったんだ。俺は、もう二度と性を考えなくなったよ」
昌也は、ポロポロと泣き出した。
俊之は、涙を拭ってあげる。
「俺が、高校生になってあいつに男が出来て、俺も初めての彼女が出来たんだ。」
「うん」
「俺、出来なかった。機能しなかったんだ。」
「うん」
「友達とそういうの見ても不能だった。俺は、女で、機能はしないのがわかった。だから、バイトにあけくれたよ。」
「うん」
「だから、俺、死のうかなって思ってたんだよ。トッシーに会った日。」
「奇遇だね、俺もだよ」
「ハハハ、やっぱりそうだったんだ。あのまま、ホテル行ってさ。トッシーと出来た時。俺、泣いてたって知ってた?」
「知らなかった」
「やっと、あいつの呪縛から抜けられたんだよ。すげー。嬉しかった。だから、俺生きようって思ったんだ。」
「昌也」
俊之は、昌也を抱き締める。
昌也は、ソファーに座ってる俊之の上に座った。
「どうした?」
「俺ね、トッシーのお陰だよ」
「それの事?」
「トッシー、違う。これは、不可抗力だから」
ボフッて音がしそうな感じで、昌也は俊之の胸に顔を埋める。
「よかったね。そうなれて」
俊之は、昌也の髪を撫でる。
「トッシーじゃなきゃならないんだよ。わかってる?」
「わかってるよ、昌也」
「だから、俺さ。ビックリしたんだよ。不能だったから、俺。トッシーにそうなれた時、ビックリしたんだよ。本当にビックリしたんだよ。」
「昌也、嬉しいよ。俺は、めちゃくちゃ嬉しかったんだよ。」
俊之は、昌也をギューっと抱き締める。
俊之が、頭を撫でてくれるだけで胸の奥からポカポカしてくる。
それが、心地よくて好き。
二人は、抱き合いながらあの日を思い出していた。




