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湖畔の屋敷で昼食を済ませると、カタリーナ達はベランダへと出た。
「あれは……もしかして『プティノの山』ですか?」
湖の奥、緑深い山々の間から見えるその山だけ異質だった。
木が一本も生えていない、赤茶けた山肌がむき出しの、まるで塔のように一つだけそびえ立つ山。
その山頂からは黒い煙がたなびいている。
「そうだ」
「初めて見ました……」
あれが聖鳥の棲む山。
ベランダの手すりに手を添えるとカタリーナは感慨深くその山を見上げた。
この国は四体の聖獣に護られている。
東の空に棲み、風を操り天候を左右する聖竜ドラコーン。
西の森に棲み、魔物や禍から人々を護る聖狼リーコス。
北の海に棲み、海難から船や土地を護る聖魚イクテュス。
そして南の山に棲み、火を吐き生き物に生命力を与える聖鳥プティノ。
建国当時はその姿を人々の前に現し、共に国を作ったと言われているが、今となっては幻の存在だ。
『プティノの山』と呼ばれるその山は、聖鳥の棲む山として崇められてきた。
上がる煙は聖鳥が吐く火で、木が生えないのはその熱さで生物が育たないからという。
「———実は今日ここへ来たのはあの山を見るのが目的でもあったんだ」
ハインツはカタリーナの隣へ立った。
「……最近あの煙の量が少なくなっているらしい」
鋭い視線を山頂へ向けながらハインツが言った。
「煙の量が……?」
「減ったといっても少しだが、今までそのような事がなかったため領民から不安の声が上がり始めているそうだ。……確かに記憶にあるよりは細くなっているようだな」
始めて山を見るカタリーナには違いが分かるはずもないが、何度かここへ来ているであろうハインツには分かるのだろう。
「神殿の者によると、もしかしたら聖鳥に何かあったのかもしれないそうだ」
「聖鳥に……?」
「———そういえば」
側で話を聞いていたフリードリヒが口を開いた。
「アルムスター領でも最近魔獣の数が以前より増えていて……もしかしたら『聖狼』が原因ではという噂があります」
「何だと?」
「増えたといっても極端に増えたり実害はなく、ギルドの冒険者達が体感的に感じている程度です。領主宛の報告は未だないのですが、噂を耳にしたので今実際の数字を調査中です」
国の西部にあるアルムスター領には聖狼が棲むとされる森がある。
建国前は魔獣が支配していた土地で、聖獣と人間が協力し国を開いてから人間が住めるようになったのだ。
アルムスター家の人間がギルドに登録し魔獣を倒す技術を身につけるのも、そういった土地の歴史と関わりがある。
他の地に比べて魔獣の数が多いのだ。
フリードリヒは頻繁にギルドに出入りしているため、冒険者達の噂話も自然と耳に入る。
最近魔獣の数が多少増えたように感じるというだけなら動かなかったが、『聖狼』という言葉が気になり、実態を調べるようギルドに命じたのだ。
「調査結果の内容次第で王都に報告する予定でした」
「そうか……」
ハインツは思案するように視線を落とした。
「———他の、北と東も調査する必要があるな」
「……何かがあると思われるのですか?」
「そうだな。変化は僅かだが、聖獣の棲む二つの土地に同じような事が起きているのだ、念のために調べた方がいいだろう」
カタリーナの問いにハインツはそう答えた。
建国前後は争いが多かったこの国だが、その後は長く平和が続いている。
それは全て聖獣のおかげだという。
もしもその聖獣に何かがあったとしたら———どうなるのだろう。
カタリーナはもう一度聖鳥の棲む山を見上げた。




