#91
一度寮へと戻ることに決めたミックスたち。
その帰り道の途中にあったコンビニエンスストアで傘を購入し、雨の中を歩いていた。
サービスは物めずらしいのか、雨音を鳴らしている傘を不思議そうに眺めている。
ミックスはそんなサービスを肩車すると、彼女に傘を持たせた。
すると、サービスははしゃぎだし、ミックスは思わずバランスを崩しそうになっている。
揺れるミックスの上に乗ったサービスは、遊園地のアトラクションにでも楽しむかのように、さらに嬉しそうにしていた。
ニコはそんな彼を見ると、ため息をついて呆れている。
(あの警備ドローン……。どうしてサービスを狙ってたんだろう……)
ジャズはそんな彼らの後ろで、先ほどのサービスが襲われた理由を考えていた。
監視員の副隊長エヌエーの話では、バイオニクス共和国にあるすべてのドローンは、購入者以外には操作できなようにセットされている。
外部から操れないとすれば誤作動ということになるが、共和国の治安維持はドローンに依存しているため、それは考えにくい。
それはそんな簡単に誤作動を起こすようなら、ドローンに治安維持を任せるはずがないからだ。
仮にも世界最大の科学力を誇っていたストリング帝国を降伏させ、その技術を自国でさらに昇華させた機械工学を保有する共和国で、ドローンの誤作動などあり得ない。
ならば、やはりあそこの――研究施設の関係者か?
監視カメラの映像もいじられていたようだし、その可能性は高い。
しかし、それならばどうして自分たちがサービスを連れて行ったときに、彼女を引き取らなかったのか。
もしサービスを狙っているのなら、ドローンなど使わずに引き取ってしまったほうが、余計な手間がかかることはないというのに。
「おいジャズッ! 見てないでサービスを止めてよッ!」
ジャズを肩に乗せたミックスが、不安定に揺れながら叫んだ。
幼女が肩から落ちないようにバランスをとろうとするミックスと、そんなことを気にせずに傘を振り回しているサービス。
その様子は、まるで子どもが遊ぶ玩具――グラグラタワーのようだ。
ジャズはそんな彼らを見ると、また自分の悪い癖が出たと思った。
先ほど、これからはサービスから目を離さなければ良いと決めたばかりだというのに。
どうも自分は昔から考えすぎるところがある。
今はドローンのことよりも、サービスが今度も安心して暮らしていける場所を見つけることが大事だ。
「ちょっとミックスッ! もっと踏ん張りなさいよ! サービスが落ちちゃうでしょ!」
「だからジャズに手を貸してもらおうとしてるんだろッ!? 早くサービスを降ろしてくれッ!」
ジャズは傘をニコに預けると、ミックスの肩に乗ってはしゃいでいるサービスの体を掴んだ。
そして、ゆっくりとそのまま地面へと降ろした。
「もっと、もっとやりたいぃ」と、またミックスの肩に乗りたがるサービス。
ジャズはそんな彼女を諭すように声をかける。
「ごめんねサービス。この乗り物は貧弱だから、あなたの安全が確保されないのよ」
「俺は乗り物扱いか……。しかもなんか酷いこといってるし……」
ジャズの言い方にミックスは怪訝な顔をしている。
ニコはそんな彼の足を、気にするなといわんばかりにポンっと叩いていた。
「だめなのぉ?」
「そうね……。よし、じゃあ明日は遊園地へ行きましょう」
「ゆうえんちぃ?」
「そう、そこならいくらでも安全な乗り物があるし、きっと楽しいわよ」
ジャズが屈み、サービスに目を合わせていうと、幼女は笑みを浮かべてはしゃぎだした。
そして、雨の中を傘も差さずに走って行ってしまう。
「あッちょっとサービスッ!? 待ちなさいッ!」
「ゆうえんち! ゆうえんち!」
サービスを追いかけていくジャズ。
彼女もまたサービスと同じように濡れながら駆けていく。
「こりゃ、傘を買った意味はなかったかもしれない……。でもまあ、こんなもんだよね……ハハハ……」
湿った空気の中で渇いた笑みを浮かべるミックス。
ニコはそんなミックスを急かし、彼と共に二人の後を追いかけるのだった。




