#88
――ミックスが施設からタオルを借りて戻ると、サービスは消えていた。
彼は慌てて周囲を探してみたが、近くにサービスの姿はなかった。
そこへトイレへ行っていたジャズとニコが戻ってくる。
「お待たせ。あれタオル借りてきたんだ? 気が利くわね」
「ジャズ……実は……」
ミックスはタオルを借りに行っている間に、サービスがいなくなってしまったことを説明した。
じっとしているようには言ったのだがと、彼は申し訳なさそうに言葉を吐いている。
それを聞いたジャズは、血相を変えて雨が降る外へと飛び出していく。
「ともかく今はサービスを探そう! あんたは右のほう、ニコは施設内をお願い! あたしは左側から探すから!」
彼女の言葉を聞き、ミックスも走りだし、ニコも施設の中へと向かう。
トイレへ行ってから時間はそんなに経過していない。
子どもの足でそんな遠くまで行けるとは思えない。
ジャズは内心でサービスの無事を祈りながら、先ほどよりも強くなった雨の中を駆けていく。
(大丈夫……ぜったいに大丈夫……。待っててねサービス。すぐに見つけるから)
――その頃、雨の中を飛び出していったサービスは、雨雲に覆われている空に声をかけ続けていた。
誰もいない施設の庭で、その小さな手を伸ばしながら歩き続けている。
「……対象を発見しました。これより捕獲に入ります」
そんなサービスの姿を、研究施設内から見ていた白衣姿の男は、使用していたエレクトロフォンを通話を切ると、そのまま別の操作を始める。
すると、施設の庭にいた警備ドローンが起動音を鳴らして動き出した。
そして警備ドローンは、物凄い速度で庭を歩いているサービスへ向かって行く。
だが、サービスは気が付かない。
警備ドローンが自分を目掛けて突進してきているというのに、まだ空を見上げている。
「ドローンがなにしてんのよぉぉぉッ!」
そこへ声を張り上げて飛び込んできたジャズによって警備ドローンが吹き飛ばされる。
ジャズのショルダータックルを喰らったドローンは、施設の塀にぶつかり破損。
その割れた箇所から雨水が入り、内部に流れる電気を散らしすと、やがてその動きが止めた。
「じゃず……?」
「サービス! 無事でよかったッ!」
ジャズは警備ドローンが完全に沈黙したことを確認すると、びしょ濡れになっているサービスの元へ走った。
すでに豪雨へと変わった天気など気にも留めずに、地面に両膝をついて濡れた幼女を抱きしめる。
「心配したんだから……。すっごくすっごく心配したんだからね……」
抱きしめられたサービスのほうは、何故ジャズが泣きそうになっているのかがわからないようだ。
だがサービスは、そんな彼女を抱き返してその頭を優しく撫で始めた。
彼女なりに慰めているつもりなのだろう、これではまるでジャズが迷子になったみたいだった。
「だいじょうぶ、だいじょうぶだよぉじゃず。あたしはここにいるよぉ」
「もう……この子ったら……人の気も知らないで……」
頭を撫でられたジャズは、サービスと顔を突き合わせると笑ってしまっていた。
それはサービスが無事だったという安心と、彼女の能天気さを見たからだった。
そんな二人の姿を――。
白衣姿の男が施設内から見ていた。
男はすぐにエレクトロフォンを使い、先ほど話していた者に連絡をいれる。
「申し訳ございません。対象の捕獲に失敗しました」
《ほうほう。何か予期せぬことでも起きたのかな?》
「はい。言い訳をさせてもらうと、どうやらルーザーリアクターは、ストリング帝国からの留学生、ジャズ·スクワイアと共にいるようです」
《ほうほう、あの帝国から来た少女か。それは予期せぬことだね》
「これからどういたしましょう、ドクターアイスランディック?」
白衣姿の男の電話相手――。
アイスランディック·グレイは、男に訊ねられると不気味にその肩を揺らした。




