#75
そしてジャズたちがミックスとブレイクのところへたどり着く。
そこで見たものは、ミックスがブレイクを相手に優勢に戦いを進めている光景だった。
ミックスはブレイクの刀を避け、ときに機械化させた腕で弾きながらその拳を叩き返している。
「嘘……あの兄を押している……? 」
「あいつ……大したもんだとは思ってたけど、まさかハザードクラスを相手にあそこまで……」
ハザードクラスとは、バイオニクス共和国から認定された最高クラスの能力を持つ者のことである。
現在認定されている人間は五人――。
ブレイクは、その中でも共和国最強と名高い高校生だ。
それを相手に、名もない落ちこぼれのミックスが――。
一度いとも簡単に破れたはずの彼が――。
優勢に戦っている姿は、いくらミックスがマシーナリーウイルスの適合者だと知っているジャズとクリーンでも驚くべき光景だった。
逃げてもいいのに。
言葉だけでも嬉しかったのに。
ミックスはクリーンと交わした約束を守ろうと戦ってくれている。
皆が笑い合えるような終わり方を目指して拳を振るってくれている。
クリーンは、ミックスのことを疑っていたわけではないが、その事実に身を震わせずにはいられないでいた。
「くッ!? 調子にノってんじゃねぇぞ機械ヤロウゥゥゥッ!」
ブレイクはコンクリートの道路を刀で掘り上げ、土石流をミックスへと浴びせる。
だが、ミックスけしては怯まない。
砕けた無数のコンクリートを受けながらも、ブレイクのボディへ機械の拳を叩き返す。
その一撃でついにブレイクは倒れた。
「事情はわからないけどさ。お前はクリーンを守りたいんじゃないのか!? だったら心配させるなよッ! ちゃんと向き合って話しあえよッ! お前はクリーンの兄さんなんだろッ!?」
「オ、オレは……」
ブレイクは空に浮かぶ月を見ながら思い出していた。
生まれて初めて人を斬ったとき。
真っ黒な刀小鉄を抜き、自分が住んでいた国の人間三十万人を斬り殺した。
自分の育った国を滅ぼした。
それは全部自分の妹――クリーンを守るためだ。
バイオニクス共和国へ来たのもそうだ。
この国で上層部の命令を聞いていれば、いつか母と肩を並べたヴィンテージたちと戦わせてやるといわれた。
かつてその適合者としての力を使い、世界を救ったアンとローズ、テネシーグレッチ姉妹とノピア·ラシックさえ潰せば、もはやこの世界で自分に――ベルサウンドの名に手を出そう者などいなくなる。
そうなれば妹――クリーンはもう安全だ。
そのためにも力を、この世のすべてをひれ伏せさせる絶対的な力を――。
ブレイクは、すでに足元もおぼつかない状態だったが、血反吐を吐きながらも立ち上がる。
「チカラチカラチカラチカラチカラチカラァァァッ! グッギャギャ! フギャギャギャハッハアアァァァッ! ベルサウンド流、モード小鉄鉄命殺ッ!」
その言葉の後に、ブレイクに握られた小鉄が凄まじい勢いで輝き始めた。
だが、その輝きが増すたびにブレイクの顔からは生気がなくなっていく。
ミックスはこの技のことを知っていた。
病院の待合室で、クリーンが自らの命を捨ててでも兄を止めようとして見せた技だ。
「スティールを使いこなせれば……こいつと一体化すれば……世界を滅ぼすことだって可能……。ヴィンテージもハザードクラスも、共和国も帝国も宗教組織も関係ねぇ。オレが最強……誰もベルサウンドの名には逆らわせねぇ。オレを止められる奴なんざぁ、この世界のどこにも存在しねぇんだぁぁぁッ!」
その叫びと共に、ミックスの身体がはるか上空へと打ち上げられた。
正確にいえば、ブレイクの振った刀の衝撃で飛ばされたのだ。
そして、そのまま落下してきたミックスは、周囲に血を撒き散らしながら地面へと激突する。
倒れた彼の血がコンクリートが真っ赤に染まる。
前に斬られた傷口が開いただけでなく、身体中が斬り刻まれてかのように全身が赤くなったミックスがそこにはいた。
「なんだよそのザマはぁぁぁッ!? 立てよ機械ヤロウッ! 英雄がそんなもんで寝てんじゃねぇぞッ! あんッ!?」
「ブレイク·ベルサウンドッ!」
ブレイクがミックスに飛び掛かろうかとしていたとき――。
銃剣を構えたジャズが、彼の目の前に現れた。




