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その手に見えるは機械装甲  作者: コラム
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75/948

#74

――病院(びょういん)の待合室(まちあいしつ)に残(のこ)されたクリーンは一人俯(うつむ)いていた。


両膝(りょうひざ)をついたまま、自分の情(なさ)けなさに肩(かた)を落としている。


「止められなかった……止めなければいけなかったのに……」


クリーンは思う。


最初(さいしょ)はただ、ミックスがマシーナリーウイルスの適合者(てきごうしゃ)だということだけで兄を止められるかもしれないと考えた。


しかし、彼はいとも簡単(かんたん)に破(やぶ)れてしまい、もう自分でやる以外(いがい)に選択肢(せんたくし)はないと兄と戦った。


その結果(けっか)は惨敗(ざんぱい)。


もはや自分の命(いのち)を捨てなければ兄を止まられないと思ったというのに。


ミックスの――あの人のかけてくれた言葉に甘(あま)えてしまっている。


自分にはできなかったことをあの人ならやってくれるかもしれない。


そう信(しん)じさせてくれる何かが先ほどの彼にはあったようなそんな気がしたのだ。


その理由(りゆう)は、彼がかつて母と共に戦った適合者だからでなく。


一人の人間としてミックスのことを見たクリーンの気持ちだった。


「あちゃ~ちょっと遅(おそ)かったか」


そのとき、聞き慣(な)れた声がした。


クリーンが顔を上げると、そこには銃剣(じゅうけん)タイプの電磁波(でんじは)放出(ほうしゅつ)装置(そうち)インストガンを持った少女――ジャズ·スクワイアが立っていた。


彼女はサイドテールの髪(かみ)を振りながら待合室を見回(まわ)している。


「ジャズさん……? どうしてここへ……?」


唖然(あぜん)としているクリーンが訊(たず)ねると、ジャズは説明(せつめい)を始(はじ)めた。


現在(げんざい)、バイオニクス共和国(きょうわこく)の中心街(ちゅうしんがい)に、真っ黒な日本刀(にほんとう)を持った少年が無差別(むさべつ)に通行人(つうこうにん)を襲(おそ)っているというニュースを聞いた。


もしクリーンがニュースを知れば、確実(かくじつ)に刀(かたな)を持った少年――兄のブレイク·ベルサウンドを止めに行くと思い、ここへ来たのだと。


「でもまあ、どうやらあいつに先(さき)を越(こ)されちゃったみたいね」


「どうして……どうしてあなたたちはそこまでして……」


ジャズは泣きながら訊(き)いてくるクリーンにそっと手を伸(の)ばした。


そして、ニコッと微笑(ほほえ)みながら彼女に涙(なみだ)を拭(ぬぐ)うようにいう。


「あたしはさ。あんたやウェディングにはけっこう救(すく)われてんのよ。ほら、だってあたしって帝国(ていこく)から来てるわけだし、この国で頼(たよ)れる人も友だちもいないからさ」


ジャズがいうに――。


現在バイオニクス共和国とストリング帝国が和平(わへい)協定(きょうてい)を結(むす)んでいるとはいえ、やはり以前に敵対(てきたい)していた帝国からの留学生(りゅうがくせい)である自分には、まだまだ周(まわ)りから――学校の教師(きょうし)や生徒(せいと)たちからの風当たりは強い。


そんな中で、気さくに接(せっ)してくれているウェディングやクリーンの存在(そんざい)が、どれだけ自分の心(こころ)を支(ささ)えてくれたかと、彼女は少し照(て)れながら答(こた)えた。


「だから、少しでもなにかできたらなぁって……。まあ、ウェディングやあいつみたいな特別(とくべつ)な力(ちから)がないあたしなんかじゃ役(やく)に立てないと思うけど……」


「そんなことはありません!」


涙を拭い、ジャズの手を取って立ち上がったクリーン。


今まで泣いていたのが嘘(うそ)だったかのように、力強く声を張り上げる。


彼女はジャズの気持ちが嬉しかったのだ。


「ハハハ、だといいんだけど……。まあ、あたしがここへ来た理由(わけ)はそんなとこ。で、あいつはなんだけど……きっと困(こま)ってる人ほうっておけないってだけじゃないかな?」


「そんな理由で……?」


「たぶんね。あたしのときもそうだったし。なんか大好きな兄さんと姉さんから言われているみたいよ。困っている人がいたら手を貸してあげなさいって」


ジャズの言葉にクリーンは困惑(こんわく)する。


ただ困っている人がいたからというだけで、ここまで他人にしようと思うものなのかと。


ジャズはそんな彼女の肩(かた)に手をポンと置く。


「ともかくさ。あたしらも行こう。どうせあいつはブレイクのとこへ向かったんでしょ」


「ジャズさん……」


「共和国じゃ知らないけどさ。あたしのいた国じゃ女はただ待つってのはファンタジーの世界だけなんだから。あんたの兄貴(あにき)とあのお人好(ひとよ)しがどうなるか、この目でバッチリ見届(みとど)けてやろうよ」


ジャズがクリーンにそういうと、傍(そば)にいたニコと小雪(リトル スノー)が鳴(な)き出した。


自分たちのことを忘(わす)れるなといっているようだ。


ジャズがそんなニコと小雪(リトル スノー)の頭(あたま)を撫(な)でると、二匹は嬉(うれ)しそうに鳴き返した。


「そうだね、あんたらもちろん一緒(いっしょ)だ。さあ、行こうクリーン」


「はい!」


それから二人と二匹は病院から飛び出し、ミックスとブレイクの元(もと)へ走り出していった。

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