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その手に見えるは機械装甲  作者: コラム
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68/948

#67

けして近(ちか)づいてはいけないよ。


あの家は呪(のろ)われているんだ。



――ブレイクとクリーンがまだ祖母と暮(く)らしていた頃(ころ)。


彼らの住(す)む地域(ちいき)では、二人のことを悪霊(あくりょく)に取りつかれた子だと認識(にんしき)されていた。


それは彼らの母親であるクリア·ベルサウンドが、コンピューターの暴走(ぼうそう)を止める戦いで死亡(しぼう)した後のことである。


クリアの死を知らされた二人には、それぞれに白と黒の二匹の犬が、常(つね)について回(まわ)るようになった。


ブレイクには黒い犬――小鉄(リトル スティール)。


クリーンには白い犬――小雪(リトル スノー)。


その二匹の犬は、クリアが生前(せいぜん)に受けた産土神(うぶすながみ)の加護(かご)による妖犬(ようけん)だった。


二人の祖母はリトルたちのことをクリアからの形見(かたみ)とし、ブレイクとクリーンと共に大事に育(そだ)てていたが、彼女らの住む地域では忌(い)み嫌(きら)われた。


島国(しまぐに)ということもあって、元々(もともと)保守的(ほしゅてき)な国柄(くにがら)もあったのだろう。


何よりもすでにこの国では産土神は忘(わす)れられ、新たな宗教(しゅうきょう)が広まっていたのもあった。


ブレイクとクリーンは忌み子として幼少期(ようしょうき)を寂(さび)しく過(す)ごした。


それでも彼らの祖母が生きていた頃はまだよかった。


たとえ友人ができなくとも家族(かぞく)で仲良(なかよ)く暮らしていたのだ。


しかし祖母が亡(な)くなると、もはや二人に居場所(いばしょ)はなくなってしまった。


二人の母が世界を救(すく)った英雄(えいゆう)ということは知られていたが、それでも平和な世界において、その力(ちから)はただ恐(おそ)ろしいものにしか映(うつ)らない。


それでも国からの多少(たしょう)の援助(えんじょ)はあり、苦(くる)しくともなんとか二人で生活していけるだけの金銭(きんせん)は渡(わた)されていた。


ブレイクもクリーンも、亡き母クリアが世界を救った英雄の一人であることを誇(ほこ)りに思っていた。


それは祖母からずっとそう聞かされてきたのもあったのだろう。


ブレイクとクリーンはそんな母に見習(みなら)い、文武(ぶんぶ)両道(りょうどう)を極(きわ)めんと日々精進(しょうじん)する。


他人(たにん)からの執拗(しつよう)な嫌(いや)がらせにも負けず、常(つね)に成績(せいせき)も良く、鍛(きた)えた剣の腕(うで)もけして暴力(ぼうりょく)に使ったりはしなかった。


だが、そんなある日に事件(じけん)が起きた。


ブレイクがいつもよりも遅(おそ)く家に帰ると、彼らの家が炎(ほのお)に包(つつ)まれていたのだ。


その火事(かじ)により、祖母との思い出と共に、父ブレイブと母クリアの遺品(いひん)はすべて焼き尽(つ)くされてしまった。


幸(さいわ)い中にいたクリーンは、小雪(リトル スノー)によって助け出され、軽度(けいど)の火傷(やけど)で済(す)んだが。


警察(けいさつ)はろくに犯人(はんにん)探しもせず、事件はクリーンの不注意(ふちゅうい)ということにされる。


このことにより、ブレイクの中で何かが変わっていった。


それから彼らにはさらなる悲劇(ひげき)が訪(おとず)れる。


ある日に、ストリング帝国(ていこく)と戦っていた反帝国組織(そしき)バイオナンバーが名を変え、現在(げんざい)バイオニクス共和国(きょうわこく)を名乗(なの)る軍隊(ぐんたい)が大軍を引き連れ、彼らの国へとやって来た。


「私は共和国のラムブリオン·グレイである。小さな島国に住む者たちよ。こちらの要求(ようきゅう)を飲まなければ、我々(われわれ)は武力(ぶりょく)行使(こうし)も辞(じ)さない覚悟(かくご)だ」


共和国の要求は、ヴィンテージであるクリア·ベルサウンドの血縁者(けつえんしゃ)の身柄(みがら)をこちらへと渡(わた)せというものだった。


島国のトップに立つ者たちは、当然(とうぜん)ブレイクとクリーンを捕(と)らえるよう国中に指示(しじ)を出し、二人は逃亡者(とうぼうしゃ)へとならざるえなかった。


だが、当時(とうじ)まだ十代前半である子どもの彼らがいつまでも逃げ切れるはずもなく。


二人は捕らえられ、バイオニクス共和国へと送(おく)られることなる。


「頼(たの)む、クリーンは見逃(みのが)してやってくれ! 連中に渡すのは俺だけでいいだろッ!」


ブレイクは悲願(ひがん)した。


せめて妹(いもうと)だけでもこの国においてやってくれないかと。


だが、その願(ねが)いも空(むな)しくクリーンは彼の目の前で気を失(うしな)わされ、厳重(げんじゅう)に拘束(こうそく)された。


島国のトップたちは、そんな二人に向かっていう。


バイオニクス共和国が何を考えてベルサウンドの血縁者を欲しがっているかはわからないが、きっと人体(じんたい)実験(じっけん)でもするつもりなのだろう。


ちょうどいい、こちらも厄介(やっかい)払(ばら)いできるというものだ。


英雄とはいえ、あのクリア·ベルサウンドは、歯車の街(ホイールウェイ)という街で人斬りだったそうじゃないか。


そんな恐ろしい血筋(ちすじ)の者を我々の国においておけるものか。


そんな罵倒(ばとう)にも似(に)た言葉を吐(は)きかけていた。


ブレイクは彼らの言葉を聞いて絶望(ぜつぼう)した。


どんなに迫害(はくがい)されようがじっと堪(た)え、祖母のいう人間の善性(ぜんせい)というものを彼は信じようとしていた。


だが、この世界にはそんなものは存在(そんざい)しなかった。


「おふくろは……こんなヤツらを助けるために……こんなクソみてぇな世界を救うために死んだのか……」


祖母は母の残(のこ)した呪いを抱いて死んだ。


自分はそうなってたまるか。


妹をそうさせてなるものか。


ブレイクはこのときに初(はじ)めて人を斬った。


真っ黒な刀(かたな)小鉄(リトル スティール)を抜き、自分が住んでいた国の人間すべて斬り殺す。


その数(かず)はおよそ三十万人。


彼は生まれてから最初(さいしょ)に行使(こうし)した暴力で、自分の住んでいた国を滅(ほろ)ぼしてしまった。


「ビャッハハ! フギャアアアハッハアアっ! 皆殺(みなごろ)しだッ! 全員殺しやるよぉぉぉッ!」


バイオニクス共和国のラムブリオン·グレイは、その様子(ようす)をモニターで見て笑みを浮(う)かべていた。


「たった一人で国を滅亡(めつぼう)させたのか。凄(すさ)まじい……予想(よそう)以上だ。さすがヴィンテージの子だな」


その後、ブレイクはラムブリオンと契約(けんやく)をし、クリーンとリトルたちを連れて共和国へと移(うつ)り住むこととなった。

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