#66
その後――。
クリーンはミックスが入院している病院へと運ばれた。
幸いなことに見た目よりは傷が浅く、精密検査の結果も特に異状はみられなかった。
「ミックスくんといい、なんで私が関わる子はこんな病院にお世話になってばかりなんですかねぇ……」
「すみません。アミノさんしか頼れる人がいないので」
クリーンに付き添っていたジャズとウェディングは、成人の保護者としてミックスの担任教師であるアミノを呼び出していた。
クリーンはウェディングとクラスメイトなので、彼女やジャズの通う学校の教師に頼めばよかったのだが、気心の知れた人物というとやはりアミノにしか頼めなかったのだ。
アミノは、そんな申し訳なさそうにいうジャズとウェディングを見て微笑むと、ドンと自分の胸を叩く。
「ジャズちゃんもウェディングちゃんも気にせずに、これからもガンガン先生に頼っちゃってください」
「ありがとうございます。アミノさん」
「いえいえ、それが私のやりたいことですから。……ですがぁ~。ちゃんとあとで事情を聞かせてくださいねッ!」
アミノは笑っていたかと思えば、突然プンプンと怒り始めた。
それも当然だろう。
彼女が知っている生徒から連絡を受けたときは、いつも入院の雑務を任されることが多いからだ。
そのせいか最近は、自分のエレクトロフォンが鳴り出すたびに、今度は何事かと一人大慌てしてしまっている状態だった。
「先生はイヤなんです! わけがわからず知っている子が大ケガするなんてッ! このところは心配でろくに眠れないせいで、お肌が荒れてきちゃってるんですよぉ」
「ご、ごめんなさい……」
「それにストレスでお酒の量も増え、炭水化物を食べる量まで増量……。このままでは心配太りしてしまいますぅ……」
「アミノさん……。それはあたしたちのせいでしょうか……?」
そして、散々喚いた後にアミノは泣き出してしまった。
ジャズは、彼女をなだめながら落ち着いたら事情を話すことを伝え、ウェディング、ニコと共にクリーンがいる病室へと向かうことにする。
アミノは入院の手続きなどがあるため、ジャズたちとは分かれて病院の受付へといくことに。
ジャズは、病院の廊下を歩いていると、いつもと比べて元気のないウェディングに気が付いた。
きっとブレイクと揉めたときのことを気にしているのだろう。
ウェディングは覇気のない顔をして、ガックリと肩を落としながら歩いていた。
ジャズは、そんな彼女の背中をポンと叩く。
「ほらほら、あんたがそんな顔をしてたらクリーンが元気にならないでしょ」
「でも……私……」
「あぁ~もうッ! あのときも似たようなこと言ったけど。あんたがどうなったってあたしがまた止めてあげるから!」
「姉さん……」
「そりゃなんの能力もないあたしなんかじゃ、頼りにならないかもだけどさ」
「そんなことないです……」
立ち止まったウェディングは顔を上げ、ジャズのことを見つめた。
そのときの彼女の顔はいつもの笑みを取り戻していた。
「ジャズ姉さんに特別な力はないかもしれないけど……。姉さんは誰よりも強い人です」
笑顔でいうウェディングに続き、ニコも自分も同じ意見だといっているように大きく鳴いた。
それからクリーンの病室に到着すると――。
中では、包帯だらけのミックスが彼女と談笑してる。
二人の傍には白い犬――小雪も寝そべっていた。
「なんだ、あんたもいたんだ」
「アミノ先生から連絡が来たんだよ。だいたいの話は先生とクリーンから聞いたよ。それにしても、ウェディングとあのブレイクの間に割って入るなんて……。相変わらず無茶なことするな、ジャズは」
「そんなこと、あんたに言われたくないつーのッ!」
「なんで怒るんだよ? 俺はただ心配してるだけじゃないか?」
「うっさいッ! ふん、あんたなんかに心配されるほど落ちぶれちゃいないわよ」
顔を突き合わせた途端に言い争うミックスとジャズ。
そんな二人を見たウェディングとクリーンは笑ってしまっていた。
ミックスとジャズ二人は、何もおかしなことを言っているわけはない。
だがウェディングとクリーンにとって、ミックスとジャズのやり取りは、いつもの何気ない日常を思い出させてくれるものだった。
クリーンにとってはまだ日が浅い光景だが、ウェディングから二人の話をずっと聞かされていた。
またここに戻って来れた――。
二人はそう思うと、つい嬉しくなって笑ってしまうのだ。
「ちょっとあんたたちッ! なにを笑ってるのよッ!? もしあたしをからかってるなら容赦しないわよッ!」
「別にいいじゃないか、二人とも楽しそうだし。まったく、ジャズはすぐにそうやって大声を出すんだから」
「あんたはちょっと黙ってろッ!」
「ギャァァァッ! 眉間がッ! 眉間がぶち抜かれたッ!」
ジャズのヘッドバットがミックスにヒット。
彼はあまりの痛みにのたうちた回る。
それからその叫び声のせいで、介護ドローンが部屋にやってきたりと、クリーンの病室は大騒ぎになる。
しかし、それでも皆楽しそうにしていた。
特にクリーンが一番よく笑っていた。
「今すぐ病院へ連れてってくれぇぇぇッ!」
「ここは病院よバカッ!」
そんな、すっかりと騒がしくなった病室の中――。
ニコはそっと小雪に寄りかかり、その体を抱きしめるのだった。




