#62
自分へと向かってくるウェディングを見たブレイクは不敵に笑った。
ウェディングはブレイクとは反対に、物凄い形相で彼のことを睨みつけている。
「身体がダイヤに変わった? そうか、テメェがあの|舞う宝石《ダンシング·ダイヤモンド》か」
ウェディングは、目の前にいるブレイクと同じく――。
ハザードクラスと呼ばれるバイオニクス共和国から認定された最高クラスの能力を持つ者だ。
彼女の能力は超復元《グレート·リストレーション》。
実質的にどんな重傷を負おうが、どんなウイルスに感染しようがすべて正常な状態に治してしまう治癒能力である。
彼女はその能力があるがゆえに、バイオニクス共和国のとある研究所で行われた実験――。
増幅計画と呼ばれた人体実験の被験者であった。
その全身の骨格には分子レベルでダイヤモンドを結合され、自分の意思で全身のどこからでも武器として露出可能(皮膚を突き破ってダイヤモンドにするなど)。
だが、彼女の能力の本当に恐ろしいところは、たとえ心臓を潰されようが頭を吹き飛ばされようが、瞬時に蘇生できることに他ならない。
実験により身体能力も向上され、人間離れしたスピードと宝石を使って戦うその姿から、科学者たちは彼女に舞う宝石というコードネームを付けた。
「まさかクリーンのダチにハザードクラスがいるとはなぁ」
ヘラヘラと笑うとブレイク。
ウェディングの素性に気が付いても、その余裕は変わらない。
対するウェディングは、ゆっくりと歩いていたかと思えば、突然手の甲から剣の形をした宝石――ダイヤモンドが表れる。
手から生えた宝石の剣。
彼女はそのダイヤモンドの剣でブレイクへと斬りかかった。
その休みのない連撃は凄まじく、いつも笑顔のウェディングとはまるで別人のような鬼気迫る攻めをみせる。
そんな激しい斬撃を繰り出しながらも、ただ無言でいる彼女に、ニコはすっかり怯えてしまっていた。
「ウェディングッ! 待って、待ってよッ!」
ジャズはそんなウェディングを止めようと大声をあげていた。
だが、何かスイッチが入れられた機械にのように、ウェディングは淡々とブレイクに剣を振るっている。
「ベルサウンド流、モード小鉄。鉄城門」
ブレイクが剣を受けながら刀を構えると、突如現れた黒い結界が彼の身を守る。
ジャズは、ダイヤモンドの剣でも破壊できない結界を見て驚愕していたが、ウェディングは気にすることなく攻撃を続けていた。
ただ淡々とブレイクのことを斬り裂こうと、手の甲から出ているダイヤの剣を振り回している。
その間にもジャズは、どうすればこの事態を止められるかを考えていた。
あんな姿のウェディングなど見たことがない。
おそらく大事な友人を傷つけられ、我を失っているのだろう。
言葉で止められないなら二人の間に割って入るか?
いや、そんなことをすれば何の力もな持たない自分など、踏みつけられる蟻のように殺されてしまうだけだ。
どうする、どうすればいい?
ジャズは思考を巡らせながらも自分の無力さを呪う。
「あたしはどうして……どうしてこんなに弱いのよ……」
クリーンを抱きながら俯くジャズ。
自分はいつも肝心なときに役に立てないと、溢れ出しそうな悔し涙を堪えていた。
ニコはそんな肩を落としている彼女へ鳴きかけた。
それがどういう意図があったかはわからないが、ジャズは顔をあげてニコのほうを見る。
「そうだよね。たとえ力がなくたって、あたしがやらなきゃ……」
そして、ニコへ微笑みかけたジャズは、クリーンを優しく地面へと寝かすと立ち上がる。
その手には鉄パイプが握られていた。
おそらくブレイクとクリーンの戦闘で壊れた屋上にあったアンテナの一部だろう。
こんなものでハザードクラスの戦いに割ってはいるなど自殺以外の何者でもない。
だがそれでもジャズは、ウェディングとブレイク二人の間へと飛び込んでいった。




