#61
――学生寮から電気仕掛け仔羊ニコを連れて来たジャズとウェディングは、再びミックスが入院している病院へ向かっていた。
「ニコはモフモフだね~。羊サイコ~!」
ウェディングはニコの体を覆っている豊かな毛の感触を味わいながら、実に嬉しそうに抱きしめている。
ニコは早くミックスに会いたいのか、ウェディングの胸の中で急かすように鳴いていた。
「そんなに急がなくてもあいつは逃げないわよ」
「とかなんとかいっちゃってぇ~、姉さんなんか朝から気になってしょうがなかったくせに」
「あんたねぇ……。またそうやってあたしのことをからかうならッ!」
「ひゃ~ッ! 締め技はッ! 頸動脈を止めるのだけはカンベンしてください~!」
二人が街中でそんなやり取りをしていると――。
突然建物が崩れたような大きな音が聞こえてきた。
何事とかと思った二人は、その音が鳴った方向を見ると急にニコが激しく鳴き始める。
ジャズはいったいどうしたのかと訊ねるが、ニコはただ音が鳴ったほうへ手を伸ばして喚き続けていた。
するとウェディングはニコをジャズへと預け、いきなり走り出していく。
「ちょっとウェディング!? どこへ行くのよッ!」
ウェディングはジャズの言葉に何も返さず、もの凄い速度で音のする方向へと駆けていった。
バイオニクス共和国のとある研究所で行われた増幅計画の実験により、ウェディングの身体能力は一流のアスリートを軽く超える。
途中にあった無人の車が走る道路を跳躍で越え、ビルからビルへと飛び移っていく。
(この感じ……。なんかすごくイヤな感じがする……)
そして、ウェディングがたどり着いたのは図書館だった。
勘のいい彼女は、その直感の赴くまま外観を登って屋上へと向かう。
そこで、登りきったときにウェディングが見たものは――。
「……クリーンッ!?」
傷だらけで倒れている友人の姿だった。
ウェディングは慌ててクリーンに駆け寄って声をかけたが、答えは返って来ない。
だが、息はある。
脈はある。
どうやら気を失っているだけのようだ。
ウェディングは彼女の体を起こし、その顔を見た。
クリーンの顔には、何か鋭い刃物のような切り傷と涙痕があった。
「スゲーなぁ。まさか屋上まで外から上ってきたのか?」
ウェディングは声がするを見て、その人物を睨みつけた。
そしてその声の主の姿を見て、誰なのかすぐに気が付く。
「あなた、まさかクリーンのお兄さん?」
「あん? だったらなんだよ」
ヘラヘラと笑っている人物の正体は、クリーンの兄であるブレイク·ベルサウンド。
彼の手には、犬の姿に戻った小雪が持たれていた。
ブレイクはウェディングの強張った表情を見ると、首根っこを掴んでいた小雪を投げ捨てる。
そこへ屋上の扉からジャズが現れた。
ウェディングを追ってきた彼女は、息を切らしながら投げ捨てられた小雪を抱きしめる。
ニコも彼女に続き、大慌てで寄り添う。
「その黒い刀……。あんた、ブレイク·ベルサウンドなの……?」
「あん? うるせえなぁ。だったらなんだってんだよ」
「どうして妹にこんなことをしたのよッ!」
ジャズは抱いていた小雪をニコに渡すと、ブレイクの目の前に立った。
ブレイクは鋭い眼差し向けてくる彼女に対して、舌打ちをしながら睨み返す。
「たとえどんな理由があったって、クリーンみたいな良い子に手を出すなんておかしいわよッ!」
ジャズがブレイクに怒鳴っていると、いつの間にかウェディングが立ち上がっていた。
その身体はダイヤモンドに覆われ、陽の光を浴びて輝いてる。
「……姉さんは下がっていてください」
そして一瞬のうちに、クリーンを抱えたままジャズの元へ行く。
それからクリーンをジャズへと渡したウェディングは、そのままブレイクに向かって歩きだしていた。




