#59
それからクリーンの話の続きを聞き、ファミリーレストランから出た三人。
クリーンはてっきりジャズとウェディングに責められる覚悟で話をしたのだが、二人にそんなつもりはなさそうだ。
いたたまれなくなったクリーンは、思いきってそのこと訊ねると――。
「なんであたしたちがクリーンを責めるのよ?」
「そうだよ。クリーンはぜんぜん悪くないよ。ただミックスせんぱいならお兄さんを止めてくれるって思ったから頼んだんでしょ?」
クリーンはウェディングの言葉に、それはそうだなのだがと返事をすると、二人はミックスのこと話し出した。
あのお人好しが首を突っ込みそうなことだ。
後輩の友人――ましてや可愛い女の子にお願いされて鼻の下でも伸ばしていたのに違いないと、彼をからかうようなことを言い始めている。
クリーンはそんな二人の発言に驚き、言葉を失っていると、ジャズがすっと彼女に顔を突き付けてきた。
「ともかく、今回のことであんたが罪悪感を覚える必要はこれっぽっちもないの。わかった?」
そのあまりの迫力にクリーンは思わず頷いてしまう。
ジャズはわかればよろしいといい、再び前を歩き出す。
ウェディングはそんな彼女の後を嬉しそうに追いかけていく。
「だいたい、あのバカが負けるのが悪いのよ。いくら女の前でいいカッコしたいからってさ。ハザードクラスのしかもクリア·ベルサウンドの息子相手に勝てる思ってたわけ? ったく、ホンット考えなしなんだから」
「うんうん。いや~心配の裏返しってやつですなぁ~。ジャズ姉さんは今日もブレがないです」
「だ、誰があんなのを心配してるって言うのよッ! あんた、あたしの話聞いてた? あたしは偉そうに引き受けたくせの負けたことを、ただ情けないっていってんのッ!」
「うんうん、ジェラシーですなぁ~。姉さんは、他の女の子に優しくするミックスせんぱいがイヤなんですね」
「ちょっとウェディングッ! さっきから人のことおちょくってんじゃないわよ!」
顔を真っ赤にしてウェディングを追いかけるジャズ。
ウェディングそんな彼女へ素直になるように言いながら逃げていく。
クリーンは、そんな二人の背中を見ながらクスッと上品に笑うと、気持ちを切り替えた。
祖母が亡くなってから兄が変わってしまい、バイオニクス共和国へ来てからというもの人との繋がりというものが消えかけていた。
彼女は生来大人しい性格というのもあって、新しい環境で友人を作れなかったのだ。
それでも今は、こんな優しい人たちとの繋がりができた。
この縁を大事にしなければ――。
彼女はそう思ったのだった。
その後、三人はミックスのいる病院へと向かうことに。
クリーンは、このときジャズとウェディングと話していなければ、こんなに早く彼のところへお見舞いに行くつもりにはなれなかっただろう。
だが、彼女は二人のおかげでミックスに直接謝ることができた。
「そんな謝らないでよ。俺のほうこそ役に立てなくてごめんね」
包帯だらけの体で反対に頭を下げるミックス。
そんな彼にウェディングは買ってきた大量の板チョコレートをドサッと放り投げる。
ミックスはベットの上でチョコレートの山に潰されてしまった。
そのチョコレートの山の中で乾いた笑みを浮かべている彼にジャズがいう。
「それよりもあんたね。次はちゃんとあたしにも言いなさいよ。こんな大ケガして、生きてるのが奇跡じゃないの」
「でも、急だったしさ」
「いいからッ! 」
「は、はい……」
凄まれたミックスは弱々しい返事をした。
クリーンの祖母と暮らしていた国では考えられない、強い女性の姿がそこにあった。
いや、違う。
二人は対等なのだ。
たとえ国も文化も違っていようと、人間らしい付き合いをしているだけ。
それを理解したクリーンは、なんだか微笑ましく思うと、挨拶をして病室から出て行く。
なんでもこれから小雪の散歩をしなければならないそうだ。
「やっぱ動物を飼うって大変よね。って、あぁぁぁッ!」
急に叫び出したジャズに、ミックスとウェディングが何事かと訊ねると――。
「ニコも連れてきてあげればよかった……」
「今からでも遅くないですよ。一度寮の戻ってまた来ましょう」
「そうね。じゃあ、またすぐ来るから」
「私も行きます~」
「あんたは待ってていいのよ。面倒でしょ」
「なんのなんの。ジャズ姉さんとなら一日中病院と寮を往復しても楽しいですよ」
「よくわからないけど……。じゃあ、急ごうっか」
それからジャズとウェディングは、ニコを連れてくるために寮へと戻っていた。
残されたミックスは、チョコレートの山に埋もれながら呟く。
「その前に、こいつをなんとかしてほしいかったなぁ……」
ミックスはまあこんなもんかと思いながら、病室にあったテーブルの上に大量のチョコレートを片付けるのだった。




