#58
それは昨日にファミリーレストランで別れた後のこと――。
さらにミックスが病院へ担ぎ込まれたことと、クリーンのその後の用事は何か関係があったのかということを。
いつもならここで茶々を入れるはずのウェディングも、ただ黙ったまま何も言わずに耳を傾けていた。
彼女もジャズと同じように、クリーンに訊ねるつもりだったのだろう。
いつになく真剣な表情をしている。
「すでに、お気づきになられているようですね。ならばもう隠しておく必要もなさそうです」
ジャズとウェディングの顔を見たクリーンは、少し俯くと昨夜のことを話し始めた。
二人と別れた後、ファミリーレストラン前でミックスの実力を試すため彼と戦ったこと。
そしてミックスの適合者としての力を知り、彼に兄を止めてほしいとお願いしたことを、申し訳なさそう口にする。
「じゃあ、ミックスせんぱいはクリーンのお兄さんにやられたんだね」
ウェディングの言葉に頷くクリーン。
その表情は酷く悲しそうだった。
だが、それでもジャズは質問を続ける。
「ねえクリーン。実はこれと別に、前からずっと訊きたいことがあったんだけど」
「なんでしょう? 私に答えられることならなんなりと」
「あんたの母親の名前って、もしかしてクリア·ベルサウンドじゃない?」
「母をご存じなのですかッ!?」
驚愕するクリーンへジャズは答える。
それはまだジャズが少女兵として双子の弟と共に、ストリング帝国にいた頃――。
とある戦場でたった一人で一万もの大軍と戦っていた、約七年前に暴走したコンピューターから世界を救った救世主ことアン·テネシーグレッチを助けるために現れた、クリーンの母であるクリア·ベルサウンドを見た。
そのクリア·ベルサウンドの両手には、白と黒の日本刀が握られており、およそ人間とは思えぬ力で大軍へと向かって行った。
「あたしはあんたの名前と雰囲気から、ずっとクリア·ベルサウンドと関係があるんじゃないかと思ってたんだけど。まさかあの人の娘だったなんてね」
「えぇぇぇッ!? クリーンがヴィンテージの娘さんッ!?」
「ちょっとウェディング、落ち着きなさい」
「だってだってッ! えッ、ということは……? ジャズ姉さんはヴィンテージを直接知っているんですかッ!?」
テーブルをバンッと叩いて突如喚き出すウェディング。
ジャズはそんな彼女をなだめながら持ってきていた紅茶に口をつける。
ヴィンテージとは、いまから七年前に起きた戦争――。
アフタークロエ前に起きたコンピューターの暴走を止めた救世主のことである。
その中でも現在でも生存しているのは、先ほど出てきたアン·テネシーグレッチと、彼女の妹であるストリング帝国の女将軍ローズ·テネシーグレッチ。
そして、ジャズの帝国での上司であるノピア·ラシック将軍の三人だけだ。
クリーンの母であるクリア·ベルサウンドは、アン·テネシーグレッチたちと同じくかつて世界を救うためにその命を落とした英雄なのだ。
そんな人物の娘がまさか自分の友人だったとは思いもしなかったのだろう。
ウェディングはその場でパニックを起こし、あわわと動き回っている。
「ったく、あんただってハザードクラスでしょうが。ホントっとそういうとこの感性はズレてるわよね……」
ジャズはウェディングの過剰な慌てぶりに辟易していた。
それをいうならウェディングも、ハザードクラスというバイオニクス共和国から最も優秀な人間と認定されている最高クラスの能力を持つ五人の中の一人なのだ。
どうもこのいつも騒がしい娘は、自分を棚に上げる癖がある。
「しかし、だからこそ……そんな彼女だからこそ、私と仲良くなってくれたのかもしれません」
そう呟くようにいうクリーン。
ジャズはそんな彼女を見て微笑むと、喚くウェディングを押さえ込む。
「コラッ! いつまで騒がしくしているつもりよッ! あんたのせいで話が進まないでしょうッ!」
「ね、姉さん……。の、喉はマズいです。息が……できなく……な……」
笑いながらウェディングの首を絞めるジャズ。
クリーンは、そんな彼女もまたウェディングと同じところがあると思い、ついクスッと笑ってしまっていた。




